本題
想太さんが注文を済ませると、コロッケを待つ間、沈黙の時間が続いた。
『この世界の秘密』
想太さんの言ったこの言葉が脳内をrefrain。
どのタイミングで聞こうかずっと迷っていたことだった。
だが、内容もないようであるために聞けずにいるのが実際のところである。
その話がプラスではないことは察しがついた。
だからこそ、想太さんも話を切り出しづらいはずだ。
ならば、私が先陣を切るしかない。
力強く拳を握り、沈黙を破った。
「想太さんの言おうとしてたことって何だったの?」
何度考えても秘密の意味はわからなかった。
なんとなく真実だろうという考えも浮かんだが、信じたくなかったために呑み込めなかった。
だからこそ、想太さんに縋るような思いで尋ねた。
正直、この話にかけよう。
これでだめなら諦めよう。
過去の自分との決別のため踏ん切りをつけよう、と。
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「消されたんじゃないかな。」
想太さんは私の顔色をうかがうことなく、変わらぬ口調で言った。
ーそんなわけはない。
『消される』とはどういうことだ。
この世界がそこまで鬼なはずがない。
衝撃の話に脳内は混乱状態だ。
そんな状況に、私は否定することしかできなかった。
消されてしまえば元に戻ることはない。
現実の世界でも会うことは出来なくなってしまうのではないか。
い舜で頭が真っ白になった。
ある程度の事なら覚悟はしていた。
だが、これは予想の遥か上を行く話だ。
呑み込めていない私を気に擦るそぶりもなく、想太さんは続けた。
「俺らがしていることは未来を変えることもあり得るんだ。未来を変えてしまえば、全てが変わってしまう。だから、未然に防いでいるんだよ。」
「この世界に来た意味ないんだ。なら、何でこの世界は存在してるの?」
この時間にかけていた私の存在全ても同時に否定されたかのように思えた。
この世界で姉との仲直りを望んだ。
だが、それは過去を変えることだった。
過去を変えれば未来も変わる。
勿論、姉の中の記憶もすべて書き換えられる。
努力しなくてもいい、一番手っ取り早い方法だった。
だからこそ、信じたくはなかった。
この方法が無くなってしまえば私はどうすればいいのだろう。
また、これまでと何一つ変わらない毎日が続いていく。
そんな日々に何の意味を見つけ、どんな気持ちで生きていけばいいのだろう。
その言葉と衝撃に言葉を失い、視線も逸らした時、想太さんが再び口を開いた。
「意味はあるんじゃないかな。」
私は驚きを隠せなかった。
会いたい人にすら会えない。
未来を変えることもできない。
そんな世界で私はただ踊らされているだけ。
そして、その私を現実の私は笑うんだ。
そんな世界に一体どんな意味があるのか。
明らかに意味のない世界に疑問を抱かずにはいられなかった。
「俺も君もこの世界で一番に大切な人を探した。きっと、試してたんだよ。捜索することで自分の過去に向き合えるかを。」
「…。」
これは、あくまでも想太さんの推測に過ぎない。
だが、真実のような気もしていた。
「これから俺らが生きていく世界は不条理で呆れた世界かもしれない。でも、ただひとつ変わらない大切なことがあると思うんだ。それは、現実から目を背けず、自分に正直になること。」
想太さんからの話は重かった。
想太さんは既に自分に素直になれてるんだろうな、と思った。
それに対して私は、人の助けがなければここまでやってこれていない。この世界ですらも。
目を背けながら生きることは本意ではない。
だが、そうするしかなかった。
自分が自分であり続けるためには。
そんなことを言っても仕方のない話なのだけれど、やはり、現実から目を背ける私は健在だった。
たとえこの世界でどんなことを学ぼうとも。