あの
「あの。」
声のした方を向き、立ち上がってみると、同い年くらいの男子が立っていた。
私は、その男子とは面会もなかったため、本当に私を呼んでいるのかが分からなかった。
周りには私しかいないようだったけれど、念のためと思い、聞き返した。
「私ですか?」
「はい。名前が分からなかったので。」
この人はなぜ私に声をかけてきたのだろう。
私はそう思った。
第一印象は憎めない温厚篤実な人。
その人は私何の用があるのだろう。
その人には半信半疑でいたつもりだった。
でも、この出会いを捨てたくはなかった。
心の奥で誰かをを欲している自分もいた。
それがこの人なのかもしれない。
孤独な心をこの人となら癒し合えるような、そんな気がした。
私の勘ではあるが、この人も何か訳があって『普通ではない世界』に飛び込んできた人だと思った。
「大丈夫です。ちなみに、私は星です。」
「俺は想太です。」
尋ねてくれたのに名乗らないのは失礼だと思い、簡単にではあったが名乗ることにした。
その人はは想太さんというらしい。
身長がかなり高く、スタイルも抜群。
私とは全くの無縁。
だから、話しかけられた理由が気になった。
ただ、冷やかしではないような気がした。
「どうかしたんですか?」
「いや、同じ境遇のような気がしたので。」
私はその言葉に大きく反応してしまった。
同じ境遇ならば、誰かを探しに来たのだろうか。
いや、私と同じようにやり直すために来たのだろうか。
こんな美少年が私と同じ境遇なわけがない。
だとしたら、やはりからかわれているようにしか思えない。
何度見ても、私と同じ境遇のようには感じられなかった。
「想太さんも誰かを探しに来たんですか?」
「そうです。一応…。」
しばらく沈黙が続いた。
その言い方には少し裏があるように思えた。
これは、本当に私と同じ状況なのかもしれないな、と思った。
想太さんも会いたい人に会えていないのだろう、と。
そう思うと、何と言えばいいのかがわからなくなった。
共通であろうこの件について会話することも、今は違う気がした。だからこそ、何と話せばいいのかわからなかった。
長時間にも及んだ沈黙を破ったのは想太さんだった。
「それが、会えていないんですけどね。」
「えっ、私も探したんですけど会えなくて。」
想太さんからこの言葉を聞いた時、『普通ではない世界』における、私の勝手な予想が確信に変わった。
3年前とこの世界が一致していないことに、私は疑問しか浮かんでいなかった。
私が自宅に着いた時刻。その時間には確実に姉は家にいた。
だが、姉は家にいなかった。姉の居そうな場所を何箇所も探してもいなかった。
まるで、この世界から消されたかのように。
「俺、気付いたかもしれない。この世界の秘密に。」
この言葉に耳を疑うことはなかった。