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混餓転生  作者: 真打
第一章 人間の世
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1.6.風の村


 私と藤のじいさんはコンクリート造の建物の中に入っていく

 学校に近い感じがしているが、無機質なコンクリートの色を隠すように壁紙が張られていた。電気が通っているようだが……外では発電所のような場所は見受けられなかったので、どうやって電力を賄っているのか気になった。


「藤のじいさん。ここは一体なんだ?」

「陸の地で風達の本拠地じゃよ」

「おおう……いきなりとんでもない所にぶち込んできたな」


 このコンクリート造の建物のが風達の本拠地。本拠点というならばもっとビルとかお城とかを想像していたので、なんだか少し肩透かしを食らった気分である。


 まぁこれが異世界の文化の違いだなと思いつつ、藤のじいさんの後を追っていく。


 藤のじいさんが足を止める。その前にはなぜか何重にも補強された両開きの鉄扉があり、片方の扉は継ぎ接ぎだらけである。誰かが鉄扉でも蹴飛ばしたのだろうか……普通ならこんなことができる人物などまずいないと考えるのだが、藤のじいさんの能力を見ているので可能性がないとは言えなかった。


 扉を開けて中に入る。中には様々な実験道具が並べられている所を見るに、実験室のような場所だということがわかる。

 棚には数多くの薬品が納められているようで、明らかに危険そうな色の薬品もある。大きな机の上には書類の束とビーカーやフラスコなどの実験道具が乱雑に放り出されていた。


 そして、パソコンをいじっている白衣姿の男性と、暖かそうな黒い服とマフラーを付けている小学6年生くらいの小さな子供が、入ってきた私達に気が付いたようで、作業の手を止めてこちらを凝視する。


「やぁ坂本君。調子はどうだい?」

「…………なんで藤さんは帰ってくるたびに面倒くさい物を持って帰ってくるんですか。いっそ帰ってこないでください。捌の地で大人しくしていてくださいよ面倒くさい」

「お客さんだー!」


 片目に金色の片眼鏡をかけて白衣を着た人物は、さも面倒くさそうに頭を掻きながら作業の手を止めてこちらに歩いてくる。歩いてくるときにわかったのだが、この人物……腕が長い。

 白衣も特注なのか、腕の長さに合わせているようだ。だが腕が長すぎていてどうしてもアンバランスに見えてしまう。目にして気が付いた時は驚いたが、それ以外は別に変なところはない。寝ていないのか目元の隈は恐ろしく彫り込まれている。


 そして子供……。この研究室にいるのはなんだが不釣り合いだ。子供が研究をしているなどあまり考えられない。手伝いのようにも思えるが……これはただ遊びに来ているだけだろう。この腕の長い人物のお子さんだろうか?


「で、誰ですその浄化遺物」


 いやなんでわかるねん。てか私まじで浄化遺物なんですか? この爺さんに言われるのはともかく他の人にまで言われると自覚をせざるを得なくなるんですが。


「さっき拾ったのじゃ。ほれ、挨拶せんか」

「…………えっと……藤屋 天地です」

「ふむ……僕は坂本 回だ。ここでただ一人混餓物の研究をしている研究員さ。で、こっちの小さいのがクルセマね」

「よろしく~!」


 坂本という人物が研究員であるということはこの部屋を見ればわかることだ。しかしこのクルセマという子供……名前からしてハーフなのだろうか?

 と言っても坂本とは全く顔が似ていない。子供でないのだろうか?


「で? なんでまた浄化遺物が?」

「知らん」

「…………あのですね? 僕はこう見えても忙しいんですよ。貴方もわかっていますよね? 絶対わかってここに連れてきてますよね? ぶっちゃけもう浄化遺物とかいらないんですから影島さんや荒政に任せとけばいいじゃないですか。そもそも自分が勝手に持ち込んだ物ここに持ってくるのやめてください。此処は貴方が拾ってきた面白道具置き場じゃないんですよ? この前だってマドワキ持ってきてここ大惨事になったの忘れたわけじゃありませんよね? あれの幻術解除するのにどれだけ時間がかかったことか。それに普通に騙された荒政はめちゃくちゃ暴走するし僕だって幻術かかっただけなのに死ぬほど辛かったんですからね? 研究している真っ最中だっていうのに布団が襲い掛かってくるなんて悪夢の何物でもありませんよ。それだけの問題おこして当の本人である貴方はすでにどっかいってるんですからたちが悪いってものじゃありませんよ。てか入室禁止にしようかと割と本気で考えているんですからもう少し自分の行動を見直してもらってもいいですかね!? 大体…………」


 坂本のガチ説教が始まった。これはしばらく終わりそうにない。クルセマも白い目で二人のやり取りを見ていた。そうだな、あんな大人になっちゃだめだぞっ。


 流石に見かねたのか、客人をこのまま放置してはならないと考えたクルセマがこちらに歩み寄ってきた。


「天地兄ちゃんも浄化遺物なの?」

「も? え……あ、そういえば藤のじいさんが『クルセマと同じか』とか言ってたな……君のことか」

「うん。僕も浄化遺物だったんだ~! 三年前の話になるけどね」


 なんだかこの子と話していると優しい気持ちになってくる。何故かって? 今日あった中で一番まともな子だからだよ。ただでさえ隠しごとの多い化け物じみたじじいと、そのじじいにガチ説教してる腕長の研究員とかもうよくわからない。


 この子も浄化遺物だったという経歴を持っているみたいだし、なんだか話が合いそうだ。


「天地兄ちゃんは何処から来たの?」

「どこからかぁ……んーーー……地面?」


 嘘は言っていない。本当は此処ではない別の世界から来たのだが……子供に異世界の話しても分からないだろう。

 ……実際もっとましな嘘がつければよかったが、前世でもあまり子供と関わることがなかったのでこういう時どうやってはぐらかせばいいのかわからなかった。


「あははは! 地面ってすごいね! 天地兄ちゃんが地面からなら僕は空からになるかな!」


 お……? 思っていた反応と違う。


「そ、空? クルセマもなかなか面白い冗談が言えるんだね」

「冗談じゃないよ! 僕ちゃんと落ちてた感覚覚えてるもーん」


 そういえば俺も浮遊感を味わったことはある。だが落ちていたという感覚はなかった。まぁこれは個人の意見だろう。あまり深く聞いても結論には至りそうにないので適当に話をそらそう。


「そうかそうか。疑って悪かったな。所で……君も浄化遺物らしいけど……」

「うん。正確には『浄化遺物だった』。だけどね。僕はもう浄化遺物じゃないよ! 今は普通の人間です!」


 だっただと!? もう浄化遺物ではない!? どういうことだ……え、浄化遺物って卒業できるのか? そんな軽い称号みたいなものなのこれ!?

 だが、クルセマの言っていることが正しいなら、俺はまだ人間の姿をした何かになっているということなのでは? これは何としてでも聞き出さねば……!


「そうなのか!? どうやったら浄化遺物卒業して人間に戻れるんだ?」

「えっとね~……髪の毛を零の地にぽーいって」

「ごめん、もっとかみ砕いて説明して?」

「かみくだいて……? 説明は噛めないよ?」

「ごめん、もうちょっとわかりやすく説明してくれるかな?」


 子供慣れのしてなさが露見された瞬間だった。こんなことならもう少し前世で子供たちと関わっておけばよかったが……時すでに遅しか。


 クルセマは言葉の意味が分かったようで、すぐに説明をしてくれた。


「零の地に浄化遺物を埋めると混餓物の地が浄化されるのは知ってるよね?」

「おう。大丈夫だ」

「僕もその対象だったんだけど、生き埋めにすることはないの。体の一部を埋めるだけで十分に効果を発揮するからね。でも、その代わり浄化遺物であった時の恩恵は消えちゃうんだ」


 つまり、クルセマは零の地に赴いて髪の毛を埋めたわけか。浄化遺物としての役割を終えたから、その恩恵は消え去り普通の子供に戻ったというところだろう。


 なんですかこの世界……理解が追い付かないのですが。戦争中だし、知らない生物いっぱいいるし、私は浄化遺物だし何がどうなってるんですか。

 てか私は結局どうしたらいいんですか!?


 ふと気が付けば、坂本の説教が終わっていた。だがなんだか様子が変だ。坂本と藤のじいさんが私を見て驚いている。開いた口がふさがっていないのだが……私は何かしたのか?

 恐る恐る坂本が訪ねる。


「……おい」

「……えーっと? どうしたん?」

「…………クルセマと会話したのか?」

「……ん?」


 ん? どういうことだ? 確かに会話はしたがどこにもおかしなところはなかったぞ? しかし藤のじいさんまでも驚いているのだから何か特別なことが起こったに違いない。

 だが先ほどの会話の中で何が特別だったのかが全く分からない。なんだ? なんなのだ?


「クルセマ」

「なーにー?」

「天地君。今クルセマはなんて言った?」

「なーにー? って言ったけど……?」


 坂本と藤のじいさんが顔を見合わせる。そのあと藤のじいさんは「ほぉ」とつぶやいて顎に手をやる。坂本は目の奥が輝き始めて私に長い腕を突き出してガッと肩を掴んでくる。


「君は! 君は混餓物語が理解できるのだね!!!」

「まっ混餓物語?」

「先ほどの話だけど、僕たちはクルセマが言った言葉を日本語でとらえることはできなかった。「たーちー?」としか聞こえなかったんだ! 君は混餓物語を通さずにクルセマと会話ができたのだ! 混餓物語が理解できるのは朱雀しかいない……こ、これで混餓物語の研究が大幅に進む! お手柄ですよ藤さん!」


 …………あ。私この人苦手かも。




混餓物本編と話を合わせたので少し遅れました

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