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混餓転生  作者: 真打
第一章 人間の世
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1.5.道中


 藤のじいさんを先頭にして、私はその後ろを歩いていく。あれからは混餓物という生物が襲ってくることもなく、比較的安全に進むことができた。


 だが……まさか道中崖だらけの険しい山を登ることになるとは思っていなかった。景色は良かったが恐ろしく高い。少しでも気を緩めてしまえばそのまま吸い込まれそうになるほどだ。

 高所恐怖症の人にはここを歩くのは相当難しいだろうなと考えながら、数時間の登山を終えてやっと平地にたどり着いたところだ。

 久しぶりの……いや、実際初めての本格的な山登りだったので体が少しだるい。藤のじいさんはそれなりに年を召しているようだが、一切疲れる様子は見せなかった。


 どうなってんだこのじじい。


「はーやっと下山できたか……」

「そうじゃぞ。にしてもよく登れたの~……途中で根を上げるかと思っておったわい」

「そこまでやわじゃないわ」


 それなりに鍛えたりしていたのだからこれくらいでは完全にへばったりはしない。だがここまで本格的な登山は初めてだったので明日筋肉痛になりそうだ。


 藤のじいさんは俺が大丈夫だということがわかると、目的地へと歩いていく。私もそのあとを追う。

 道は舗装されているためとても歩きやすかった。舗装と言っても簡単に地面を掘り返して固めただけだ。アスファルトとかはないのだろう。


 風達の文化レベルがどれくらいあるのかわからない。藤のじいさんが肉を持って帰っているところを見ると、養殖などはしていないように思える。もししていたとしても生産量が少ないのだろう。

 今更ながら食生活に関して不安になってきた。前世で食べてた食品とかあるのか……? だが助けてもらっている手前、贅沢は言えないだろう。


 そういえばあれから結構な時間がたった。藤のじいさんが不思議な力で浮遊させてる肉の鮮度は大丈夫なのだろうか……? 葉っぱにくるんだだけでは痛んでしまうと思うのだが。


「藤のじいさん? その肉鮮度とか大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃぞ? 触ってみるか?」

「?」


 目の前まで肉を差し出されたので恐る恐る触れてみる。すると、肉の冷たさではなく、氷のような冷たさが手の平に伝わってきた。


「!? 冷た!」

「大丈夫じゃろ?」

「どうなってんだそれ……」

「ワシの能力の一つじゃ。気にせんでいい」

「いや気にするなとか無理があるだろ!」


 藤のじいさんはどうしても自分の能力を教えたくないらしい。冷却と言い、遠距離攻撃、空中浮遊……一体この爺さんは何者なのか本格的にわからなくなってきた。誰もこの藤のじいさんに勝てないのではないだろうか?

 それにケンカを売っている波達が少しかわいそうに思えてくる。強く生きてね。


「藤のじいさんのその秘密主義は何なの」

「風達は多くの秘密を持っておるよ? ワシに限らずな」

「うぇ、もしかして他の風達と会っても何も教えてくれない感じなのか?」

「人によるんじゃないかの? 不都合がなければ教えてくれるじゃろう」


 不都合。藤のじいさんは自分の能力が知られてしまうと不利になってしまうということなのだろうか? ということはやはり何か弱点になる物があるのだろう。確かにそれであれば教えたくなくなるのも無理はない。

 そういうことなら無理に聞くのは無粋だ。多分だが藤のじいさんは弱点があるということも教えたくなかったので、こんな遠まわしな言い方で俺に教えてくれたのかもしれない。


 藤のじいさんも、私が一人で納得しているのを見て満足そうだった。納得してくれてよかったと思っているのだろう。


 歩いていると視界の端に何かが写り込んだ。


「お? 藤のじいさん、あれなんだ?」


 見つけたのは小さな石造りの建物だ。だがボロボロになっており、屋根すらない。まるで大きな鉄球をぶつけたような壊れ方をしている。

 一言で言ってしまえば廃墟だ。瓦礫が周囲に飛び散っており、何十年も放置しているように見て取れた。


「おお、あれはここに住んでいた原住民が建てた建物だろう。ワシはあまり詳しくは知らないからそれ位のことしかわからんが」

「遺跡? って感じだったのかな?」

「かもしれんの」

「見に行ってもいいか?」

「いいぞ。時間もあるしの」


 藤のじいさんから許可をもらったので、休憩がてら遺跡の探索をする。そんなに大きな遺跡ではないようで、三つの石造りの建物がある程度だった。

 藤のじいさんはその辺の石に腰かけて休憩している。私も休憩してもよかったが好奇心のほうが勝ったため探索を開始する。


 まず一件目。近くで見てわかったのだが、石工技術の高さが見て取れた。全て均等な大きさのレンガで、それが粘土のようなもので塗り固められながら積み上げられている。

 家具なども石材で作られていたようで、角が取れた正方形の机のようなものが一つ置いてあった。後は全て壊れてしまっているようで、これ以上のことはわからなかった。


 二件目。一件目の間隣にあり、同じような壊れ方をしている。天井も二階部分もないが作り方は同じだ。石レンガで壁が作られている。

 しかし一見目とは違うところが一か所あった。床が石材でできている。一件目の床は地面で壁だけを作って家にしたような建物だったが、二件目は床にも手が加えられていた。

 この床に使用されている石材も綺麗に加工されていている。もちろんぼろぼろで継ぎ目の所は隙間だらけなのだが、元の姿は綺麗だったはずだ。


 他にも何かないか少し探してみたが、特に気になる物はなかったので最後の建物に向かう。


 三件目。こちらも二件目同様、床にはタイルが敷き詰められていて、レンガを使用して建てられていた。もちろん崩壊していて屋根はない。

 しかし、この一軒だけは扉……もとい玄関だったであろう場所が完璧な状態で残っていた。玄関の入り口は、上の部分が半円を描いていた。小さな石材が数十個使用されて綺麗な半円部分を作り出している。はやり施工技術のレベルは高い。


 玄関の周囲を見ていると、一部だけレンガの配置の仕方がおかしい場所を発見した。なぜここだけ配置がおかしいのかを確認してみると、名前が彫ってあった。

 表札だ。それには『クランバダ』と書かれていた。


 この建物が建てらた時代はわからないが、表札があるということは個人の特定と住所の確立が行われていたはずだ。

 確か日本でも郵便局員が単に住所に届けるのではなく、個人に対して配達物を届けなけれならないと義務付けをして整備されたと聞いたことがある。


 これは推測の域を出ないが、この建物が建てられた当時は配達の制度が確立されていたのではないだろうか……?

 だとすれば、文明は結構進んでいることになる。なのになぜ家が石材なのかわからないが。


「考えても仕方ないか……異文化だしな。本当にそんなものがあったかわかんねぇし。ただ名前を入れたかっただけかもしれないじゃんね」


 此処は異世界。自分たちの住んでいた世界の歴史とかは一切役に立たない可能性だってある。考えるのはやめたが、少し楽しかった。

 探索も終え、満足したので藤のじいさんの所に戻る。


「ただいま~、藤のじいさん。そろそろ行こうか」

「おお、もうええのか」

「おう! 結構面白いもの見れたしな」

「では行くかの。後一時間ほど歩けば村だ」


 藤のじいさんは重い腰をあげて立ち上がり、一緒に肉も浮遊させて持ち運ぶ。これが一連の動きのようで、腰を一度そらせて体を伸ばしてから歩いていく。


「で、面白い物とはなんだ?」

「ああ、表札があったぞ。クランバダ……って書いてあったかな?」

「ほぉ、字が読めるのか」

「読めるわ!」


 なんてこの言い出すんだ。カタカナで書いてあったから読めるに決まっている。失礼な! ……と思ったが、どうやら違ったらしい。


「いや、天地は混餓物の地の字が読めるのだと思ってな」

「んあ? 混餓物の地の字?」

「ワシもこの辺りのことはよく知っておるから、あの建物に表札があるのは知っておったが、読めはしなかったのじゃ」

「へ~じゃあなんで私読めたんだ?」

浄化遺物(じょうかいぶつ)だからではないか?」


 そんな便利な言葉じゃないだろそれ。浄化遺物だからと言ってなんでもできるわけではないだろうに。

 ほぼ答えになっていない回答に額に手をやって呆れていた。もう少し詳しい回答と情報が欲しい。多分藤のじいさんからはこれ以上何かを聞き出すことは難しそうだ。隠すしはぐらかすし……諦めよう。




 会話もほどほどに進んでいると、ようやく大きな建物が見えてきた。明らかにコンクリート造の建物。明らかに人が良そうな雰囲気がある。

 どうやらやっと到着したようだった。


「藤のじいさん、あれだよな?」

「そうじゃ。あそこが風達の村の一つじゃの」

「一つ? まだあるのか?」

「三つはあるの。厳密にいえば四つじゃが」

「四つ? って聞いてもあんまり教えてくれそうにないな」

「すまんの~」


 ここまで何も教えてくれないと信頼されていないような気がしてならない。多分警戒しているのだろうが……あまり良い気分ではない。

 これは私も少し警戒しながらここにはいる方がよさそうだ。


 ん~~話の分かる人に早く会いたい。

 


便利な言葉になりつつある浄化遺物

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