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混餓転生  作者: 真打
第一章 人間の世
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1.4.ごはん



 この世界の事情に戦慄しながら私は座っていた。まさか戦争中の世界に転生させられるとは真面目に思っていなかった。


 そりゃそうそう想定しませんよ! 何処の自殺志願者だよ……。


 ちなみに爺さんは血抜きの終わったトカゲを解体している。よくもまぁあんなデカいトカゲを一人で捌けるものだ。とは言っても爺さんは固有能力的な何かを常時使っているみたいだが……。


「おい、若造。火をおこすための木を持ってきてくれぬか?」

「あ? ああ、いいけど私は若造じゃなくて天地(てんち)な!」

「ワシも爺さんではないわ。藤 玄隆(ふじ げんりゅう)だ」

「じゃあ藤の爺さん。どれくらいの大きさの奴持ってきたらいいの?」

「適当じゃ適当。何でもよいぞ~」


 言われるがまま薪木になりそうなものを探しに行く。あまり手入れのされていない森なので沢山折れた枝や腐った大木が転がっている。

 その中から簡単に取れる木々を選んで運んでいく。何でもいいと言っていたからしけっていても問題ないだろう。

 おそらくあのトカゲの肉を焼くのだろうから、それなりに大量の薪木が必要になるはずだ。そう思って何往復もして薪木になる木々を選んで運んでいく。

 あっという間に膝あたりまで積み重ねられた薪木が集まった。手入れされている森ではこんなに早く集めることはできないだろう。


「藤のじいさーん。集めて来たぜー」

「お、早いのう。次は大きな葉っぱを二つ取ってきておくれ。向こうにあるからの」

「皿替わりか? よし」


 藤のじいさんに教えてもらった場所に向かって歩いていく。すると目的の葉っぱはすぐに見えてきた。茎が自分の腕より太いのでとても驚いたが、おそらく藤のじいさんが言っていたのはこれのことだろう。


 これはなにかの草かな? 木とかじゃなさそうだしなぁ。ま、いいや。葉っぱの部分だけもらって行こう。


 巨大な草から葉っぱの部分だけを取って持っていく。茎が自分の腕より太いので千切るのも一苦労だったが、なんとか二つ採取することができた。

 お皿にするっぽいので地面や他の木にぶつけないように歩いていく。できるだけ綺麗な状態で使いたいからだ。本当はあの池で洗えたらいいのだろうが、すでにトカゲの血でいっぱいのため、あそこで洗おうとは思わない。


 持ってくると、いつの間にか藤のじいさんは火をおこして肉を焼いていた。肉が浮遊していて、炎は常に風が送り込まれているように荒ぶっていた。これも藤のじいさんの能力なのだろう。


「これでいいかー?」

「おう、いいぞいいぞ。じゃあそれをそこに置いておいておくれ」


 藤のじいさんの後ろを見てみると、解体した肉が山のようになっていた。流石にどこの部位の肉なのかは全く分からないが、どれも綺麗な肉だった。

 そういえば前世ではトカゲの肉とか食べたことがない。普通なら食べるのを躊躇する肉なのかもしれないが……巨大で肉としての形がはっきりしているためか、別に気分は悪くならなかった。


 まぁ……日本でトカゲ食べようとするとめちゃくちゃちっさい奴を原形とどめたまま食べることになるからな……。流石に私もそれは食べたくない。


「なぁ藤のじいさん。俺これからどうなるの?」

「ん? 決まっておろう。ワシらの村に行くのじゃよ」

「風の?」

「そうじゃよ」


 藤のじいさんの中ではもういろいろ決まっているらしく、飯を食ったら移動するとのことだった。それは個人的には非常にありがたい。何もわからない場所で一人勝手に動くより、この地を知っている人について行って方が圧倒的に安全だ。

 戦争中だというし、ここは甘えさせてもらったほうがいいだろう。藤のじいさんの話では風達は私のことを悪いようにはしないと言っていた。

 今更ながら緊張してきているが……まぁなるようになるだろう。


 そういえば私って浄化遺物なんだよな……? 全く実感ないんだけど。逆になんか変わったことありますか? 私は何も感じておりません。


「藤のじいさん。浄化遺物ってさ……結局何なの?」

「ふーむ。難しいのぉ。なんでそんなものがあったかはわからんしの。まぁそのおかげでワシらの故郷は助かった。じゃからワシらにとってはありがたい物という認識しか今はないのう」

「なに? 私もしかして風の所に行ったら崇め奉られちゃう?」

「それはないの」


 あ。ないんですね。


「逆に天地のことは隠していかねばならん。波は浄化遺物を狙って風達に戦いを挑んでくることがよくあるのじゃ。お前が浄化遺物だと知られれば確実に狙われるのだからの。このことは個々だけの秘密じゃ。もちろんワシの信頼できる人物には天地のことを話すがの」

「なんか知らない間に超重要人物になってない?」

「人型の浄化遺物は浄化能力が極めて高いからの。髪の毛だけで1kmを浄化できる。それを狙わない波ではなかろうて」


 浮遊させて焼いていた肉を、見えないナイフでスライスし、一枚の葉っぱに盛り付けていく。もちろん手は一切使っていない。

 藤のじいさんは盛り付けた肉に懐から取り出した塩をまんべんなく振りかけて私の前に出してくれた。


「とりあえず食え。うまいぞ」

「あざっす……いただきます。アチチチ」


 箸はないので指先でつまんで食べる。こうして話しているうちに簡単な箸でお作ればよかったと思っていたが、ナイフなんて持っていないのでできるはずがなかった。


 口に肉を頬ばると肉の中に残っていた肉汁が一気にあふれ出す。まだ赤色の残っている肉だがそれがまたいい。ただの肉だが藤のじいさんが振ってくれた塩がかなり効いていて旨味をさらに底上げしていた。


「うまぁ!」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

「日本じゃトカゲのこんなデカい肉食えなかったしな。なんか新鮮だ」

「この部位は一番少ないヒレじゃ。柔らかいからワシでも食える」


 藤のじいさんは肉を浮遊させて手を使わずに食べている。箸いらずだがなんだか下品に見えてしまう。後で箸を作ってもらおう。そう決めた。


 もう手は汚れてしまっているので、そのまま次々に口の中に肉を放り込んでいく。だがやはりお米が欲しい。こんなに旨い肉があるのに、お米がないのは少し残念だ。ない物は仕方ない。お米の分まで肉を胃袋の中に詰めていく。


 藤のじいさんはやはり年のせいであまり食べれないのか、五切れ程食べると後ろに置いてあった肉を片付けていた。それぞれのいらない部位を分けていて、捨てる部位や内臓は焚火に放り込んでいく。

 先ほど採取してきたもう一枚の大きな葉っぱに肉を包んでツタで縛った。どうやら村まで持って帰るようだ。


「こんなものかの」

「ふぁー! ごちそうさまでしたー!」


 食べ終わると同時に手を洗いに行く。流石にほかの池が近くにはなさそうなので、トカゲの血抜きをした池で仕方なしに洗う。

 思ったより肉汁がすごくて手はすでにぎとぎとだ。洗わずに歩くのは私が許せない。


 池のほうで手を洗っていると、先ほどより池の透明度が上がっているような気がした。大量の血をこの池に流し込んだので結構濁っていたはずだったが……。


「おーい、天地。行くぞ?」

「お、おう!」


 藤のじいさんは相変わらず得意の能力で葉っぱで包んだ肉を浮遊させて運搬している。


 めっちゃ便利だなその能力。教えてくれないけど。私も何かあると思うんだけど……全然何かを感じたりとかはできないんだよなぁ。藤のじいさんは浄化遺物だって言っているけどほかの人と何も変わらない気がするし信憑性に欠けてる気がする。


 とは言っても、やっぱり藤のじいさんについていくしか選択肢はない。特に行く当てもないしな。


「あ、そうじゃ言い忘れておった」

「ん? なんだ?」

「おお、実はの。ワシはこの通り結構強いんじゃ」

「まぁそれはなんとなくわかる」

「混餓物というのはの、強い敵には強い相手をぶつける習性がある」

「うん?」

「じゃからの~」


 ドゴォオオオオン!


 爆音に藤のじいさんの言葉がかき消された。爆音は地面を揺らして突風をこちらに送られてきてたまらず膝をついて揺れに耐えていたが、揺れ自体はそんなに長くは続かなかった。


 落ち着いたところで爆音を出した犯人を見据えてみる。そこには先ほど藤のじいさんが倒したトカゲがいた。


 こいつら降ってきてんのかよ!


「こんな風に襲ってくるのじゃ」

「って! あれが降ってきたってことは藤のじいさんが近くにいたからこいつが私の所に降ってきたんじゃないのか!?」

「襲う相手を選ぶのはあいつの気分じゃからの!」

「ふっざけ!」


 そう言って藤のじいさんは先ほどと同じように手の平で空中に円を作ってから、そこを手の甲で弾いた。その瞬間、あのオオトカゲの顎が持ち上がりひっくり返る。仰向けになったトカゲは痙攣していた。


「流石に今日はこれ以上肉をもっていけんからの。気絶させておこう」

「えぐすぎんよ異世界人……」


 気絶させたトカゲを放置して、私たちは風のいる村に向かった。


一回でいいから肉の塊にかぶりついてみたいですね。

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