1.37.誘拐
また一夜が明け、私達はついに虎の地にやってくる事が出来た。
目的の零の地までは目と鼻の先ではあるが、もう少し時間がかかりそうなので、気長にゆっくり歩いて行くことにする。
ここは随分木々が生い茂っており、あまり手が入れられていない場所だ。
この場所にはあまり面白い物はなさそうだった。
「ここは何があるんだ?」
「んー……ここは零の地からこっちに戻って来ないと面白い物は見れないんだ」
「へー」
面白い物を見るにも条件とやらが必要になってくるらしい。
それはそれで面白くはあるが、楽しみにしていた物を取り上げられたかのような感覚がふわっと入ってきた。
でもまぁ、見れないのであれば仕方が無いので、私達はそのまま歩いて行くことにした。
結果としては今日一日ほとんどと言って面白い物がなかった。
混餓物も襲ってこないし、なにか珍しい物があるわけでも無い。
まぁこんな日があっても良いかと思ったが、そもそも混餓物に遭遇するのは危険だと言うことを思い出して少しばかり考えを改める。
今日の所は普通に野宿をして明日に備えることにした。
今日は混餓物に遭遇しなかったので非常食で我慢だ。
◆
夜、寝ていると急に目が覚めた。
とても妙な感覚があって、何か強い気配を感じてしまったのだ。
普段であれば気のせいかと思って寝直すのだが……何故か眠気が吹き飛んでしまった。
このままでは寝付けそうにもないので、テントから出て夜風に当たろうとおもい、寝袋から這い出す。
外に出てみると冷たい風が肌に当たった。
肌に突き刺すようなツーンとした冷たい風であったが、逆にそれが心地良い。
ゴドッ。
「ふっ!?」
石が動いた音に驚いてすぐにそちらを確認する。
こんな夜中に恐ろしい音を出さないでいただきたい。
見てみると、そこには目を開けていた……石があった。
『さっきぶりか?』
「おわあああああああ!?」
目線の先にはロッズアイクが目玉だけを地面に出していた。
何かのホラーゲームだろうか?
冗談抜きで辞めて欲しい。
「どうした藤屋君!」
「!? 天地兄ちゃんそいつから離れて!」
「はっ?」
その瞬間、地面から巨大な石の手が出てきて私を鷲掴みにした。
急なことだったので全く対処できずに捕まってしまった。
だが手加減はしてくれているようで、握りつぶすなどと言ったことはしないようだ。
「あ!? なにすんだ!」
『お前には全てを見て貰わねばならん。故にここだけに留まることは許さん』
「なに訳の分からんことを言っていやがる!」
ロッズアイクは淡々と言葉を続ける。
『どちらにもついてはならんと言うにはそれ相応の理由がある。だがそれが分からぬのであれば意味が無い。故に気が付かせるためにお前を飛ばす』
「何処にだよ!」
『波が住まう地だ』
こいつの言っている意味が分からない。
確かにこいつは何処にもついてはいけないと言ったが、それを知るためにどうしてもこの状況になっているのかが分からない。
それに波と言えば私の命を狙っている奴らだ。
そんなところに飛ばされよう物なら命がいくつあっても足りはしない。
「クルセマ君! 藤屋君を助けるよ! 黒珠!」
「あいさー!」
「わかった! 鋭土剣山!」
クルセマが地面に手を当てて能力を発動する。
が、不発した。
「!?」
『我は地を介する混餓物。落ちた力では勝てぬぞ』
「ど、どうして……!?」
「! クルセマ! 土はダメだ!」
恐らくクルセマは混餓物の言葉を聞けない。
そう判断した私は即座にロッズアイクが言ったことを解釈してクルセマに伝えた。
「厄介な……足止めができないのか」
「柳刃!」
「分かってる! 五分の一はクルセマに! 後は纏え!」
「ほいさ!」
黒珠から小さい黒珠がでてきてすぐにクルセマの肩に乗っかった。
柳刃はというと、黒珠を鎧のように纏って防御力を上げていた。
その姿はなんとも禍禍しく、暗黒騎士と言われても不思議では無いような見た目をしていた。
鎧の所々には鎖が伸び、両手には二振の日本刀が握られており、それからは鎖鎌がついていた。
『ふむ、宝玉の風か』
「禍珠混連鎖」
すぐに片方の鎖鎌を振ってロッズアイクに遠投する。
ロッズアイクは全く動かず、それを喰らうがダメージは一切無い。
だが鎖鎌がロッズアイクの岩部分に突き刺さった。
「フッ!」
『おお』
柳刃はそれを強引に引っ張って大きく跳躍した。
そのまま落下し、二振りの日本刀をロッズアイクに向けて振り下ろす。
バギィッ!
当たった部分の岩が割れ、岩が崩れ落ちる。
とんでもない威力だ。
今まで柳刃はこんな攻撃を放っていなかった。
今まで出会ってきた混餓物相手に、柳刃は一切の本気を出していなかったようだ。
「黒珠!」
「あい!」
割れた岩の隙間へ、刀を変形させて鋭い棘を刺し込む。
変形自在の黒珠の武器は、人と対峙するときは確実に初見殺しとなるだろう。
『…………もう良いか』
「のぁあああ!?」
「ぐっ!」
刺し込んだはずの棘が簡単に押し出され、黒珠と柳刃は吹き飛んでしまった。
「柳刃! 黒珠!」
『力量は把握した。これならば二回目も問題なかろう。ではな』
すると、ロッズアイクが地面に潜り込んだ。
それと同時に私も腕と一緒に地面に引きずり込まれる。
遠くから私を呼ぶ声がしたが……端末からイヤホンを抜いたときのように、ブツッという音と共に呼ぶ声が消え、同時に私の意識も刈り取られた。
第一章 完
第二章へ続く




