1.33.鈴の風
式の地を歩いている途中、妙な音が聞こえた。
その音は鈴の音の様で、静かすぎるこの式の地には似合わない物だった。
「何の音?」
「あー、鍔﨑さんだね。鈴の風だよ」
「おーーい! 鈴のにーちゃーん!」
クルセマの声に反応したのか、鍔﨑と言う人物が近づいてきているようで鈴の音が次第に大きくなってくる。
だが一向に姿が見えなかった。
一体何処に居るのだろうと、周囲を確認しては見るが見当たらない。
その存在に気が付いたのは、私の肩に手が置かれてからだった。
「やぁ」
「わああ!!?」
急のことだったので、肩に置かれた手を振りほどいて数歩距離を取ってしまった。
鍔﨑はちょっと呆けたような顔をしていたが、すぐに申し訳ないと謝って頭を下げる。
鍔﨑は、いうなれば割とチャラい格好をしていた。
ピアスなども数個ついているようだが、その全てに鈴が付けられていたり、服装の一部にも鈴が付けられている。
付けるところがあれば、どこにでも鈴をつけているようだ。
「はっはっは、ごめんごめん。姿消してるの忘れてたよ」
「鍔﨑って忘れっぽいもんなー!」
「うっせぇ」
そう言いながら柳刃の肩に乗っている黒珠を小突きまくる。
風の名前的にも見た目的にも、この人物は鈴を使って戦うのだろうという事が予測できるが、鈴を使用してどうやって混餓物を倒すのかは思いつかなかった。
鍔﨑は黒珠と随分仲が良いようで、私のことは全く気にせずに黒珠と話し合っている。
「鍔﨑は何してんのー?」
「今から拾の地に行くところさ。浄化遺物が発見されたってんだから、拾の地を警戒しておかなきゃだしな。ったく、また戦争が始まっちまうぜ。あーやだやだ。ま、俺的には能力を存分に使えていいんだけどよー、他の連中はそうも言えないだろうな~。あの事件があったって、人殺すのに慣れるわけがねぇ。俺は慣れたけど。俺はな! はっはっは!」
「あー……」
鍔﨑が言い放った言葉に、私は少なからず罪悪感を覚えた。
浄化遺物と言う存在があったせいで人が死に、戦争が起きてしまったのだ。
おそらくそれが原因で、柳刃達の仲間が殺されたのだろう。
黒珠や柳刃は、知らないとはいえ鍔﨑の言葉に焦りを覚えていた。
ましてや浄化遺物である私の前で、その様な事を言ってしまったのだから、二人が焦るのも無理はないだろう。
だが、二人が焦る理由もわかるが、私はそれほど気にしてはいない。
風としても思う所はあるのだろうし、そう言った思想を持つ人物が一人くらいいてもおかしくないことなのだ。
とはいえ、ここで私の正体を明かしてまた謝ってもらうというのはなんだか違うような気がしたので、鍔﨑に見えないように柳刃と黒珠に、ゼスチャーで私のことは黙っておくようにと伝えておく。
柳刃は申し訳なさそうな表情をしながらではあったが、頷いてそれに了承してくれた。
「で? 君は誰だい? 新しい風かな?」
「あ、ああ。まあそんなところか」
「ふーむ、陸の地からこっちに向かってるってことは……今から影島さんの所に行って風の名前を付けてもらうんだな! どうだ! あっているだろう!?」
「あ、うん。あってるよーすごいねー」
ここは適当に話を合わせておこう。
話し方を聞いている限り、こいつはお調子者であまり頭がいいわけではなさそうだ。
しかし風の名前は、影島と言う人物から付けてもらうのだという事を知った。
誰がつけても一緒のような気がするが、まあ風の中でそういったしきたりがあったりするのだろう。
鍔﨑は自分の推測があっていたことに満足しているようで、胸を張りながら得意げに鼻を鳴らしていた。
その程度で何をそんなに威張ることができるのか、とでも言いたげに、クルセマと柳刃は呆れの表情を鍔﨑に向けていたのだった。
「なぁなぁ! お前の能力何!?」
「えーっと……風?」
「へー! どんな混餓物使役したんだ!? 風ってことはアルバティスか! それとも空風雨か!」
「あ。うん。秘密」
「ちー。何だよー」
鍔﨑の後ろで、柳刃とクルセマがゼスチャーで言うな言うなと伝えてきたので、とりあえずこういって誤魔化すことにした。
聞かれたことにどう言い訳をするかを全く考えていなかったので、二人のあの指示はとても助かった。
「ま、いいや。俺は鍔﨑研也。お前は?」
「藤屋天地だ」
「よろしくな! じゃ、俺は先を急ぐわ」
鍔﨑はそういうと、体につけている鈴を鳴らしながらすぐに歩いて行ってしまった。
……一体あれはなんだったのだろうか……。
「んー……まあ、いっか」
「いや、よくはないでしょ……」
あんなのを気にしていた所で現状が変わるわけではないし、気にするだけ無駄な気がする。
逆に、私が浄化遺物だったと知った時の反応を少し楽しみにしている私がいたが、その反応を見ることができるのは、随分後になりそうだなと思いながら、私達は式の地を抜けたのだった。




