1.31.またお前か
私達は歩いて巴の拮抗を離れ、巴の地を無事に抜けることができた。
道中、混餓物達が襲撃してきたが、それも難なく撃退し、解体して今晩の晩御飯になる予定だ。
だが……一番厄介なのはやはりフヨノダガーウという混餓物だった。
数は多いし攻撃力は半端ないし、それでもって団体で狩りをするというのが一番面倒くさい。
人間でもなんでも食べる雑食だという事が、更にその面倒くささを肥大化させるのだが、それが後ろから迫っている現在、そんなことを考えている暇などなかった。
「ぎゃああああ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!」
必死に足を動かして地面を蹴り、体を前へ前へと進ませるのだが、フヨノダガーウは疲れを知らないようで一定の間隔を保ってこちらに迫ってきていた。
疲れも何も転がって向かってきているのでそんなものはないか、と頭の片隅で思いながら叫び続ける。
「おおおおい! おい! 柳刃! クルセマ! 何とかしろよ!」
「むーりー!」
「なんでだよ!」
「あれ嫌い!」
「んなこと言ってる場合か阿保! 柳刃は!?」
「いやー、実は昔フヨノダガーウと戦って数匹仕留め損ねたことがあるんだけど……そいつらが進化して、対黒珠用リーサルウエポンになって帰っていたことがあるからあんまり手をだしたくないんだよね~」
「どういうことだよ!?」
混餓物の恐ろしさはその進化速度にある。
奴らは一度受けた攻撃を覚えており、それをもとに体を再構築するのだ。
なので風達の掟では、敵対した混餓物は絶対に逃してはいけないというのがあるらしい。
もし逃がしてしまえば、その攻撃に対抗しゆる進化をしてまた戻ってくるというのが今までの経験から教訓として口伝で言い伝えられているのだが、柳刃はその掟を破ってしまったのだそうだ。
なんとも厄介なフヨノダガーウ相手にだ。
「お前馬鹿か!」
「転生して間もない君に言われたくないなぁ!?」
それはそうだと納得しながら、ここは私でなければ対処することができないと再認識する。
巴の拮抗に入る前、戦わずに逃げたのにはこういう理由があったのかと呆れながら、私は足を踏みつけると同時に土を操る能力を使用して私達の後ろに壁を作った。
「おっしゃこれでどうだ!」
「それを僕がやってないわけないんだよなー!」
「え?」
クルセマの叫びと同時に、土で作った壁が盛大に破壊された。
今は走っている私達の場所まで土が飛んできているが、そのことからフヨノダガーウの攻撃がどれほどのものかを把握することができる。
どうやら土では足止めにもならないようだ。
これはクルセマが使いまくったせいで、フヨノダガーウがそれを破壊しうる進化を遂げてしまった為に起こった現象だろう。
「土じゃダメか!」
「風! 風はまだ誰もやったことない!」
「あんなちっちゃくて高速で動くボールなんて当てられるわけないだろ! こっちも走ってるんだからさ!」
まだ私の風を操る攻撃の精度は高い方ではないのだ。
止まっている状態であれば、動いている相手にも当てられるが、走っている状態では当てることはできない。
流鏑馬の経験があればできたかもしれないが、生憎私は馬にすらまたがったことが無いし、なんなら実物の馬を見たことすらないのでそんな真似ができるわけがなかった。
とは言ってもまだこの状況を打開する策はある。
私は走りながらその辺に生えていた樹木にタッチして、その樹木にフヨノダガーウを始末するように指示をする。
すると樹木の根がフヨノダガーウのいる場所に突き出した。
その樹木の持つ力は強力で、あの硬そうな見た目をしているフヨノダガーウを巻き取って一つ一つ潰していく。
そして、私がタッチした樹木の側までフヨノダガーウが迫りくると、今度は枝を使って串刺しにしたり、また巻き取って潰していったりしてくれた。
数十匹は倒したと言う所で、フヨノダガーウは目標をその樹木に変更する。
樹木の枝を潜り抜けた一匹が樹木に体当たりをして、その丸い石のような殻を開く。
ベッギャッ!
そんな音を立てて、攻撃を受けた樹木がくの字になった。
その衝撃は関係のない樹木までも巻き込み、数本の樹木をなぎ倒していく。
「嘘だろ!?」
「あ、あれだわ俺が逃した奴」
「お前の事覚えてるんじゃね?」
「やばい逃げなきゃね」
一撃で沈黙してしまった樹木ではあったが、時間稼ぎはしてくれたので何とかフヨノダガーウ達と距離を取ることに成功した。
それに安心したのもつかの間……。すぐにフヨノダガーウがこちら目がけて迫ってきている姿を確認し、さらに足を速く動かさなければならなくなった。
「しつこいなぁ!」
悪態をつけども状況は変わらない。
今度はどうしようかと考えていると、柳刃ともクルセマとも違う声が耳に入った。
「お困りかーい?」
「あっ」
「うげ」
「……お前か……」
そこには私達と一緒に何故か走っているバーテンダーのような服を着た男の姿があった。
その男を見た時のクルセマの反応は、何故か苦手意識を感じさせる物だったが、こいつは私も苦手なのでその反応はあながち間違っていない。
以前にも一度見たその顔は忘れるはずもなく、その細い目はこの状況を楽しんでいるようにも見てとれた。
「五十三じゃーん!」
黒珠がその男の名前を呼んだ。
五十三はにこっと笑い、立ち止まってフヨノダガーウの方へと手を向ける。
「ふむ、結構減ってるね。それならこれでいいか……『意趣返し』」
すると五十三の眼前まで迫ったフヨノダガーウが潰れた。
潰れたフヨノダガーウは五十三に近づいたものだけではなく、私達を追いかけていた全てのフヨノダガーウが潰れて絶命してしまったのだ。
一仕事終えたという風に、足についた汚れをぱっぱと払いながら五十三はこちらに歩いてきていた。
その強さに私は驚いたが、まあ風なら……あれくらい普通なのかと思うことにして、その表情を真顔に戻した。
「いや~災難だったね! あの数に追われたら君達には捌ききれなかっただろう」
「そうですね……助かりましたよ五十三さん」
「はっはっは! いいさいいさ~。その代わり今度私のバーによってくれるかい? 最近一人で飲むことが多くて悲しんだよ~」
「今は仕事中なので遠慮しておきます。また今度」
「つれないね~」
わざとらしく肩を落とす五十三に、柳刃は申し訳なさそうな表情は一切せず私達の元に戻ってきた。
「では、先を急ぎますのでー」
「はいはーい。またね~」
すると五十三はまたフッと消えて何処かに行ってしまった。
本当に謎な人物ではあるが……強いのには変わりないんだなと少し悔しく思う。
なぜあんなのが強いのだろうか……。
「はぁ……」
「……どした柳刃」
「いや、あの人と会うと疲れちゃうんだよね……。それとあの人と飲みに行ってはいけないよ。記憶飛ぶまで飲まされるから」
「俺は未成年なので大丈夫」
「僕もー」
「くっ……犠牲になるのは俺だけなのか……」
どうやら割と柳刃も苦労しているようだ。
因みに、何故クルセマが五十三のことを苦手としているのかと言う理由は、まだ浄化遺物の力があった時に構われ続けたことが原因らしい。
あの性格で子供好きなのかと、少しギャップを感じさせるが……まあ誰に対しても優しそうではあるが、それと同時に過保護そうでもあるというのが、今私が五十三に感じている印象である。
しかし、悪い人ではないとわかっていても何故だか苦手である。
他人の家に不法侵入して変な助言をしていく奴など好く方が難しいという物である。
そして何とかその場を潜り抜けた私達は、次の地である式の地に向かうのであった。




