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混餓転生  作者: 真打
第一章 人間の世
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1.2.空の風


「ぎゃあああああああああああああああああああああ!」

「ぐうううぅううううぅうううう!」


 あ、どうも! 知らない地に転生したばかりのひよっこ転生者! 藤屋天地(ふじやてんち)君だ!

 私は早々にあのトカゲに見つかって全力で逃げている最中である! え? 拾った木の棒? あのクソでけぇトカゲに木の棒が通用するんなら良かったけど、見た感じ木の棒が折れるよね。

 早々に投げ捨てたわ! ただの荷物で何にも役に立ちやしねぇ!


 後ろを振り返って確認してみるが、だんだんとトカゲが近づいてきており、このままでは逃げきれそうにない。トカゲは大口を開けながら近づいてきているが……あれ前見えてるのか?

 そう思って少し近づいてから、思いっきり地面を蹴って左側に出ると普通に追ってきた。見えてんじゃねぇか!


「さぁさぁ! どうする!? どうする私!」

「ぐううぅうううううう!」

「お前のそれは鳴き声なのか腹の音なのかどっちなんだよクソトカゲ!!」

「ギャァワアアアアアア」

「腹の音かよ!!」


 なんで腹の音と鳴き声が同じ声量なんだ? いや、今はそんなことはどうでもいい。とにかくあいつから距離を取る方法を探さなければならない。

 今私は走りやすい少し舗装された道を全力で走っている。走りやすいのはあいつも同じかもしれないが、道幅が狭いため周囲の木々に足をぶつけながら追ってきているので、まだこちらの方が有利だ。そのおかげでなんとか逃げれている。


 だがこのままではじり貧だ。ぶっちゃけもう走っているのがつらい……。時間的には5分も走っていないが我武者羅に走っていたらこのくらいでばててしまう。今は気力で走っている感じだ。


 もう一度トカゲのほうを見てみると、少しだけ距離が広がっていた。大きな大木に足を取られて躓いたようだ。

 推測だが、あのトカゲに木を破壊する力はないのだろう。となれば木々の少ない場所を走るよりも、森の中を突っ走ったほうが得策かもしれない。

 だがリスクもある。この森には人の手が行き届いていないらしく、倒れた木や生え放題の草などといった障害物がいくつも存在する。この障害物を難なく躱すことができれば生き残れる可能性はあるが……このまま直進して人の居場所まで逃げていくのも一つの手だ。


 後者の案はほぼ賭けだ。人がいるのか、その人たちはこの生物を倒せる実力があるのか、そもそも私を助けてくれるのか……。不確定要素が多すぎるためこちらは期待できない。


 だったら生き残れる確率の高いほうを選ぶに決まっている!

 結論を出した私はもう一度全力で地面を蹴って森の中へと入っていった。


 もちろんトカゲも逃がさまいと、進む方向を変えるため足をばたつかせながらなんとか軌道を修正し、こちらへと向かってきた。


 その姿を見て気が付いたことがある。こいつ……あんまり旋回能力がない? もしかしたらその特性を生かして何とか巻くことができるかもしれない。

 だけどその前に、確実に私のほうが先にへばってしまう。まだ何とかなっているが、これから障害物を越えならが逃走しなければならない。体を使って逃げなければならないので、直線を走っている時よりさらに体力を使うはず……。

 やばい。もうどれくらい耐えれるかわからん。


「ぐううぅうううう」


 元気だなチキショウ! なんで動物の体力ってこんなに化け物じみているんだ! くっそ! いきなりこんな逃走劇が始まるなんて聞いてないぞ! 誰だこんなところに転生させた神は! おま、おまお前! これで死んだら祟ってやるからな! 覚悟しとけよくっそ!


 ええい、こんな愚痴言っても現状は変わらん!

 できるだけ木々の密度の多い場所を走り抜ける。そのおかげか、トカゲは木を乗り越えるか、迂回して追わなければならないようで、私を追いかけるのに苦戦している様子だ。


 おっし! これなら何とかなるんじゃねぇのか!?


「ギャァワアアアアアア!」


 おーいらだってるいらだってる。ふふん、戦闘だって逃走だって、相手がやられたくないことをするのが一番効率的なのだ! 知能で劣ったなクソトカゲよ!


「おおい、若造。そんなに走って……どーこえゆく」

「ふっ!?」


 私の横に誰かがいた。その人物は動かずに止まっているようで私はすぐに追い越してしまった。

 急いで止まり、振り返ってみればダンディともいえる顔の整った白髪の爺さんが立っていた。髪は長く一本に束ねており、大分細めの体形をしている。優しそうな……鋭そうなどちらともいえない目をしており、私を見ていた。

 服装は灰色の暖かそうなコートを着ており、手に包帯が巻いてある。老人は足袋をはいており、和と洋をいり交ぜたような服を着ていた。


「お、おい爺さん! やべぇのが来てるって!」


 実はこの時、人との出会いに心底感動した。それも同じ日本人のようで日本語を話してくれている。が、しかし今はそれどころではない。このまま放っておいてしまえばやっと会えた人物を見殺しにしてしまう。

 私は感動を押し殺し、今の状況をその老人に伝えた。


「ああ、ああ。問題ないぞ?」

「も、問題ないって! あれが見えてんのか!?」


 そう言って指を差した方向には、全力でこちらに走ってきているあのトカゲがいた。どう考えても問題ないわけがないのだ。

 だが老人は大トカゲを見ても全く微動だにしなかった。それどころか「うまそうだな」とか言う始末。もうこれボケ入ってるんじゃないのか?


「お、おい!」


「まぁまぁ……こう見えてもワシは『空の風』でな。お主はどこの者よ? 新しい『風』か? それとも……『波』か?」


 知らん!! なんだ風って! なんだよ波って! んなもん知るか転生して一時間もたってねぇんだぞこっちは!

 だが、先ほどの老人が口にした言葉……やけに『波』を強調していた感じがする。なにか恨みを込めたようなそんな言い方だった。


「風? 波? 何のことだよ! ってかさっさと逃げねぇとあのトカゲこっちきてんぞ! なぁ!」

「ぬぬぅ? 風どころか波も知らん……若造、お前もしかして混餓物も知らんのではないか?」

「ま、まが?? はい?」


 なんですか? それは……あのーどう書くんですか? いきなり異世界知識をぶち込まないでくれ……混乱する。


 私の慌て方をみた老人は「しらぬか……」とつぶやいてから、あのトカゲを見始めた。

 どうにも策があるようには感じられないが、なぜか自信に満ち溢れているような感じがする。


「なんとなくわかった。だがまずはこの場を沈めねば話が聞けそうにないのでな。ちと黙っとれい。弾空(だんくう)


 老人は手をトカゲに向けて、空中に円を描いた。そのあと、手の甲で虫を払うかのような動作をした。今の動作に何の意味があるのかはわからないが、トカゲはもう目と鼻の先まで接近している。もう一度老人に声をかけようとしたとき、トカゲが浮いた。


「ギャワァア!?」

「ほ!?」


 いや、浮いたのではない。何かに弾かれたのだ。首がありえない角度で天へと持ち上がり、そのままひっくり返る。トカゲは痙攣していたがすぐに静かになり動かなくなってしまった。


「こんなものかのぉ~。若造、ケガはないかの?」


 私は老人とトカゲを交互に見やり、口をパクパクさせていた。

 この老人が何をしたのかわからなかったし、そもそもあの怪物が何なのかも全く分からない。だけどこの老人は私を助けてくれた。おそらく敵ではないだろう。


 そして私は気が付いたことがある。先ほどこの老人が使用した『技』だ。ほら、転生物によくあるじゃないですか『スキル』! いやもうこれは確信ですわ。

 このことに気が付いてだんだんとテンションが上がってくる。冷静さを取り戻してきた。


 老人はこの世界の住民で、知っていることが多いはずだ。今は何より情報が欲しい。と、その前に。


「え、えっと……とりあえず助けていただいてありがとうございます。私は藤屋天地といいます」

「やはり日本人か。話しておる言語も日本語だからのぉ」

「貴方は?」

「ワシか? おお、久しぶりに言えるの! 混餓の地に挑む者、伍陣の風(ごじんのかぜ)の一つとなりて、(くう)を使いましょう。伍陣の風が一人、『空の風(くうのかぜ)藤 玄隆(ふじ げんりゅう)。よろしくの、若造」


 妙なあいさつをしてくれた。少しでも元気づけようという気遣いなのだろうか……?


「うぬ? しらけたのぉ」


 ご、ごめんなさい……。




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