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混餓転生  作者: 真打
第一章 人間の世
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1.28.模擬戦開始!


 東雲(しののめ)兄弟はまず、クルセマから距離を取るために全く同じタイミングで後方へと跳躍した。

 普通の子供では絶対にできないであろうその跳躍に驚いたが、もう風なら何でもありなのだなと思い込むことでスルーする。


 クルセマはと言うと、咄嗟に地面に手をついて土を操った。

 私の能力の下位互換とはいえ、その威力は申し分なく、先ほど東雲兄弟が居た場所の地面がバックリと割れた。

 どうやらクルセマは先手必勝で、相手に動きを潰しにかかったようだが、それを予期していたのか東雲兄弟は後方へ飛んで難なく回避する。


 私もそうだが、クルセマの能力は周囲にある物をすべて使うことが強みだ。

 それ以上の能力なんてあるのだろうか……とも思うが、同時に二つの物は操れないので、そこさえ注意していればまだ勝機はあるだろう。

 しかし、クルセマが何を操っているかわからないというのが一番厄介だ。

 流石にそんなことはわからないだろうし、全て予測で対処していかなければならない。


 能力的に見れば東雲兄弟のほうが劣勢だ。

 だが、東雲兄弟もそれがわかっているからこそ、クルセマから距離を取ったのだろう。


 距離を取られたことに気が付いたクルセマは、すぐに違う攻撃を東雲兄弟にぶつけに行った。

 相変わらず地面に手を付けているため、操っているのは土だという事がわかる。

 クルセマの操った土は、細い棒のような形をしていて、それを東雲兄弟に向かって発射した。


 勢いは申し分なく、あれをまともに喰らえば只では済まなそうなのだが、それでも躊躇なくクルセマは土を操り続けている。


 対する東雲兄弟は、その攻撃を全て回避する。

 なぜ手を繋いだままそんな芸当ができるのか不思議ではあったが、よく観察してみると優香が危なくなった時は辰馬が、辰馬が危なくなった時は優香が手を引っ張って助けてあげていた。

 よくそんな器用なことができるものだと素直に感心する。

 双子だから出来る芸当なのだろうか。


「「そーっれ」」


 息ぴったりの掛け声と同時に、辰馬の周囲から水が出現した。

 いくつもの水玉は辰馬と優香の周囲をクルクルと回り、それに優香が触れることで結晶化していく。


 見ているだけだと、まるで踊っているようにしか見えないが、次の瞬間それが攻撃であることを思い出させられた。


 東雲兄弟が作った氷塊は、クルセマが飛ばしてきた土の棒よりもはやい速度でクルセマに向かって飛んでいった。

 クルセマはそれに気が付き、とっさに土の壁を形成する。


 しかし、その壁は数発で完全に壊れ、氷塊がクルセマに迫る。

 壊された土と一緒に氷塊がクルセマのいた場所に着弾し、大きな音を出しながら砂煙を上げる。


 その容赦ない攻撃に若干引きながら、クルセマのいた場所を見てみるが、すでにそこにはクルセマはいなかった。

 一体どこに行ったのかと思って周囲を見渡すが、どこにもいない。


 東雲兄弟もその事を目で確認し、二人で一緒に周囲を見て回っているが、私と同じくクルセマの姿を見つけることはできていない様だ。


 突如、東雲兄弟の足元が崩れ、腰あたりまで埋まってしまった。

 これはまずいと判断した辰馬が咄嗟に優香を上に放り投げて脱出させる。


 今度は地面に足を付けた優香が、辰馬を引っ張り出そうとするが……すでに間に合わなかったようで、辰馬の下半身は地面に埋まってしまった。


「「むっ」」

「今回は僕の勝ちっ」


 クルセマが勝利宣言をする間に、辰馬の上には巨大な岩が、優香には土で作られたナイフの形をした土がクルセマの手によって当てられていた。

 これでは二人のどちらかが何かをしようとすれば、すぐにでもやられてしまうだろう。


 要するに……詰みだ。


「はいはーい! 勝者クルセマー!」


 黒珠(くろたま)がそう宣言すると、クルセマは持っていたナイフを捨てて辰馬の上にあった岩を丁寧にどけて地面に戻していく。

 勿論辰馬を地面から出し、クルセマは汚してしまった服をはたいて落としていた。


「割と呆気なかったな」

「今回はクルセマ君が本気出してたね。東雲兄弟に攻撃をさせなかった」

「確かにあの二人、攻撃したの一回だったな。発動が遅いのがあれだけど、なかなかいい攻撃だったぞ」

「だね。じゃ、次君ね」

「まじで?」


 どうやら私に不参加と言う選択肢は無いらしい。

 ふと、東雲兄弟の方を見ると、すでに準備万端ですとでもいいたげに仁王立ちをしていた。


 私としてはまだ心の準備ができていないので、もう少し見ておきたかったのだが……待ってくれそうにもないので、覚悟を決めて前に出た。


「お、お手柔らかにお願いしま~す……」

「「うん」」


 本当にわかっているのだろうか……。とても心配である。

 とりあえず先ほどの氷のボールだけは注意しなければならないだろう。あんなのを喰らってしまえばひとたまりもない。


 俺と東雲兄弟が立ち位置についたことを確認した黒珠が、小さな手をぴょこっと出して手を挙げる。


「東雲ー。手加減してあげてねー」

「「うん」」

「じゃー……開始ぃ!」


 黒珠が開始の合図をしたと同時に、東雲兄弟はクルセマと戦った時と同じように距離を取った。

 私から手をだすのも申し訳ないので、とりあえず先手は東雲兄弟に譲ってあげることにする。


 なので全力で防衛する構えを取る。

 相手の攻撃方法は、水を出して凍らせる、が一連の流れだ。そこからその氷をどう扱ってくるかが問題ではあるが、まず氷を作らせなければいいだけなのではないのだろうかという発想に至ったので、早速実行してみることにする。


 先ほどの動きから見るに、まずは辰馬が水を出すはずだ。

 あの水がどこから出ているのかは考えない方がいいとして……今は辰馬が動き出すのを注意深く見ておく。


「「天地おにいちゃん、おくよー」」

「お、おう……こい!」

「「せーのっ」」


 東雲兄弟がクルクルと回りながら水を作り出す。水の数は五つで、まだ凍っていない。

 あれを凍らせる前に……弾き飛ばすように消す。


 風を一点に集中させ、ビリヤードを打つかのようなイメージで水に風をぶつける。


 バチン!


「「!?」」


 狙い通りに当たったことに安心しつつ、残っている四つの水の玉も的確に打ち抜いていく。

 東雲兄弟はその様子に驚いていたようだが、すぐに水を作り出して応戦してくる。


 今度は数で攻めてくるようで、無数の水の玉が周囲に展開された。

 流石にこれを全て撃ち抜くだけの技量はまだ私にはないので、今度は撃ち抜かずに二人が何をするのかをじっと観察する。


 撃ちぬかれないことに気が付いた優香は、そのすべてをゆっくりと結晶化させていく。

 どうやら触れなくても水を凍らせることができるようで、水が浮いている場所に手を向けて一つ一つ水を氷塊に変えていく。


 さて、これがすべて飛んでくれば流石に避けきれない。

 私の風を扱う能力は他の物に比べて数段威力が落ちるため、広範囲の攻撃には全く向いていないのだ。

 なのでこの氷塊達を一撃の攻撃ですべて破壊することは不可能だろう。


「ここは……逃げの一手で」


 そう呟いた瞬間、氷が一斉に動き出した。

 数が多いためか、クルセマにぶつけていた氷よりは遥かに威力は落ちているものの、当たれば怪我をする程度の威力は出ている。


 東雲兄弟は確実に私に当てる勢いで飛ばしてきているようだ。

 手加減とは一体何だったのかと心の中で呟きながら、その攻撃を全て避けていく。


 因みに今の私が何故この氷塊の雨を避けれているのかと言うと、私を風で押し運んでもらっているからだ。

 流石に現役の風相手に何の対策もなく挑みたくない。なので今回は回避に能力を使うことにしてみたのだ。


 まあ傍から見ればありえない動きで避けているようにしか見えないのだろうが……それでも何とか避けれているので、この技は使えると考えてもいいだろう。

 だがこの回避技……反動がすごい。多用はしたくないものなので、今度からはいざというとき以外は使わないようにしよう。


 ちょっと気持ち悪くなってきたのだ、そろそろ回避するのをやめて攻撃自体を無効化してみたいと思う。


 先ほどは一斉に氷が飛んできたので回避するしかなかったが、生成速度が追い付いていないようで、今は一発ずつ飛んできている。

 これであれば狙い撃ちは可能だ。


 指で飛んでくる氷に狙いを定めて撃ち抜く。

 指先に貯めた小さい空気で一気に打ち抜くので、威力はすさまじい。まるでレーザーのように風の銃弾が発射され、直撃した氷は粉々になって砕け散る。


 それを次から次へと飛んでくる氷に向かって撃ち続ける。

 私は遠距離攻撃は得意でないし、銃などあまり興味はなかったのだが意外と当たってくれていることに驚いた。

 やれば何とでもなる物だ。


 本当であれば武器のほうが扱いやすいのだが……無い物ねだりをしていても仕方がないので、作ることにした。


 発想が少しおかしいかもしれないが、実際に作ろうと思えば作れてしまう能力を持っているので異論は認めない。

 それにこのまま防衛していても埒が明かないのは事実だ。

 黒珠に何とかして勝利宣言をしてもらわないといけないので、明らかに勝負あり! と見てわかる展開に持っていかなければならない。

 なんとも面倒な話だ。


 と、いうことでまずは自分の得意な武器を制作する。

 氷の玉を撃ち続けながら地面に手をつき、欲しい武器を頭の中にイメージする。

 作るときだけは風を撃ち込むことができないので、タイミングを見計らって武器を作り出す。


 作り出したのは二メートルほどの棒だ。

 素材は何でできているのかわからないが、手に持ってみた感触的に相当硬い物のようなので、強度は心配いらないとは思う。

 こういう硬い武器と言うのは強度が高くないと本当に危ない代物になってしまう。

 折れればどこへ飛んでいくかわからないからだ。


 しかし、幸いなことに今まさに強度を確かめるいい物がこちらに向かって飛んできている。これを利用しない手はないだろう。

 早速その強度を確かめるべく、軽く振り回してからタイミングを合わせて棒を氷にぶち当てる。


 パッキーン! という音を出しながら氷は砕け散った。

 棒の方をチラと見てみるが、折れてもいないし曲がってもいない様なので、十分に使える物だという事がわかった。


 始めからこうすればよかったと少し後悔しながら、次々に飛んでくる氷を出来る限り撃ち落としていく。

 無理に当てる必要はないので、避けれる氷は避け、危なそうだなと思う物だけを打ち砕いていった。


「んー! いい練習になるね!」

「「すごい。でもまだまだ」」


 しかし、そうは言っていても東雲兄弟は少し疲弊してきているようだ。

 実際に打ち砕いていてわかるのだが、明らかに弾速が落ちてきているし、氷の制作速度も先ほどの非にならないくらいに衰えてきている。


 私としても、そこまでしてもらうつもりはないので、そろそろ模擬戦を終わりにしたい。

 自分がどれくらい動けるかと言うことも確認できたことだし、これ以上続けても東雲兄弟に負担がかかるだけだろう。


 今の東雲兄弟に決定打を与えれるような攻撃は出せそうにないので、余裕のある私がこの模擬戦を終わらせるのがいいだろう。


 飛んできた一つの氷を打ち壊した瞬間、風圧を利用して一気に東雲兄弟の懐に潜り込む。

 自分でも驚くほどの速度が出たが、何とか棒でブレーキをかけて東雲兄弟の目の前で止まる。


 そして、そのまま二人を担ぎ上げた。


「よいしょー」

「「わっ! わああああ!?」」


 そのままグルグル回って二人の目を回してやる。

 子供に攻撃はしたくないし、かと言ってそれでは模擬戦が終わりそうにないので、こうして戦闘不能状態に持っていくことにした。


 かくいう私も、目が回り始めているのだが、子供のほうが三半規管は鋭いので、こういった物は私よりもよく利くはずだ。


 数十回回ってから二人をゆっくり下ろしてやる。

 私も相当危ないが、まだなんとか立てる範囲だ。だがこれ以上やると私も立てなくなるのでこの辺でやめておいた。

 二人の様子を見てみると、見てみると、完全に目が回っているらしく、碌に立てないようだった。


「はーい! 藤屋の勝ちー!」

「うへー気もち悪!」

「「わあぁああぁあぁあ」」


 棒を杖にして何とか立っている状態だ。


 とりあえず、勝ったことに満足しながら落ち着くまでじっとしていることにする。

 クルセマと柳刃が何かを話しているようだったが、私の耳には入ってこなかった。


東雲兄弟と藤屋の模擬戦が終わった後の会話


柳刃「まさかあんな勝ち方があるとは」

クルセマ「僕もびっくり。でも行動不能にはできているからありなんじゃないかな」

柳刃「……確かに。よし、今度俺も真似しよう」

クルセマ「……柳刃?」

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