1.27.模擬戦をしよう
東雲兄弟の家で少しばかり休ませてもらった。
先ほどの混紙の効力が思った以上に強く、まともに立っていられなくなったためだ。
あのような代物を一般人に見せてくるとかどうかしていると思うのだが、助けにはなった。とりあえず感謝はしておこう。
しかし、今まで歩いてきた場所を再確認してみると、随分と移動してきたという事がよくわかる。
一日で歩ける距離など決まっていると思うので、一つ一つの地はそこまで大きい物ではないだろう。
逸の地は少し大きさを盛られているような気がするが、山脈であるため何か見誤ってしまったのかもしれないな。
とはいっても、一つの地を跨ぐのに大体九時間ほど費やしている。徒歩だからと言うのもあるだろうが……全体的にみれば日本の中国地方くらいの大きさはあるのではないだろうか? もう少し大きい気もするが。
しかし、これがすべて混餓物の地だとするのであれば……波達は何処から来ているのだろうか?
話では相当な数を相手にするという事ではあったが、この地図を見ている限りそこまで人の住める場所はないように思える。
それにここの混餓物達は強大だ。
この地のように防衛施設がしっかりしていれば問題はないのだろうが、そうでなくても波達は風達よりも弱いと聞く。この地で到底生きていけるとは思えない。
そのことを東雲兄弟と柳刃に聞いてみたところ、このような答えが返ってきた。
「「波達は他の大陸にいる」」
「拾の地は波達のいる大陸にとても近くてね。少し船をだせばすぐに到着してしまうような場所にあるんだ。波達はそこから攻めてくるんだよね~。でも最近は欲をかいて他の地から乗り込もうとしているけど……海の混餓物をなめちゃいけないよね」
どうやら他の地から乗り込む算段はつけていたようなのだが、海に住む混餓物に攻撃されて、海の藻屑となってしまっているらしい。
海にいる混餓物は、陸にいる混餓物とは比べ物にならないほど大きいらしく、船での渡航はほぼ無理なのだそうだ。
最も、その混餓物達を大きく超えるような船であれば、航海は容易らしいのだが、そこまでの物はないらしい。
もしもあれば見たいと思ったが、あったらあったで引いてしまいそうだ。
だがそうなると漁はどうしているのだろうか?
海に混餓物がいるのであれば、混餓物を使役していない人々は海に出ることができなくなるはずだ。
となれば海の幸も獲ることができないのだが……。
「ん? そのことなら大丈夫。最低でも深さ七十メートルくらいの場所じゃないと滅多に出てこないから」
とのことだ。
とは言っても大きな混餓物が出てこないだけで、小さな混餓物は普通に出てくるようだ。
しかしそれは屈強な漁師達がすべて対処してしまうらしい。流石である。
そんな話をしながら休憩をしていると、東雲兄弟が全く同じタイミングで立ち上がる。
それからトコトコと私の方に歩み寄ってきて顔をじっと見つめてきた。
「……何だ?」
「「模擬戦をしよう」」
「ん~~?」
この双子は急に何を言っているのだろうか? 聞き間違いではなければ喧嘩しようと言っている風に聞こえたのだが。
「「模擬戦」」
どうやら聞き間違いではないらしい。
何故どうしてそうなったのか全く理解ができないが、この双子は私に模擬戦を挑んできている。本当に何故だ。
助けを求めるようにクルセマの方を見たが、目をつぶって首を横に振った。まるで僕は知らないと言っている風である。
次に柳刃に目線を映したのだが……。
「良いんじゃない? 俺の能力だけ見てもあれだろうからね。それに強くなってもらわないといけないんだ。ここは東雲先生にご指導願おう」
こいつ後でぶん殴る。なにを普通に賛同しているのか。
柳刃は周囲の意見に振り回されている。この危機を回避するには自分で何とかするしかない様だ。
「ちょちょちょ! 待て待て! 私は模擬戦なんてできないぞ!?」
「「出来ないからこそやる。はじめは誰も同じ」」
くっそ。子供のくせにごもっともなことを言いやがって。
とはいっても模擬戦ができないというのは嘘だ。独学ではあるが槍術、棒術をたしなんできているのだ。全てネットで調べながら得た情報から、実際に体を動かして確かめているような程度の物ではあるが。
それでもあの不良相手には通用したし、それなりにできるはずである。
だが、子供相手にそれを使うのは違うような気がする。
「しかしだな……子供相手にそんな──」
「「子供だと馬鹿にしてると痛い目見る」」
だからっ! 違うんだよ!
確かにこの二人は風だっていうし、その能力も認められているから強いとは思う。だが子供相手に武器を手に取るのは……何と言うか私が許せない。
しかしこの二人は引く様子が一切ない。クルセマも黙ってるし、柳刃にいたっては乗り気だ。
何故初めての模擬戦で子供相手に本気にならなければならないのか……。
「ったくしょうがないなぁ~。心配しなくても東雲兄弟は強いから大丈夫だって。そんなに心配なら、まずクルセマと戦わせてみるかい?」
「え”っ!?」
まぁ……確かに東雲兄弟の実力を疑っているという事は事実だ。水と氷を操る能力だという事はそれとなくわかるが……。それでも相手は子供だ。
だがまず初めに実力を確かめるというのであれば、相手がどれくらいの実力なのかを知ることができる。
それであれば手加減も容易なはずだ。
クルセマには悪いが、ここは一肌脱いでもらおう。
「んー……まぁそれなら……」
「うっし! 外出るぞ皆!」
「「はーい」」
「ええええ……」
クルセマが心底嫌がっているが……そんなに戦うのが嫌なのだろうか?
それとも東雲兄弟はもしかしてクルセマよりも強い? いや、だが私の下位互換的な能力を持つクルセマであれば負けることはなさそうではあるが……。
嫌がるクルセマを東雲兄弟が引っ張っていく。
これはこれで心配ではあるが……まぁ大丈夫だろう。クルセマだしな。
◆
東雲兄弟の家を出て、訓練場へと向かって行く。
ここには少しでも混餓物に対抗できるようにと、自分の得意とする得物を持って訓練をしに来る人達がいるらしい。狩りをしている人達は毎日のように通っているようだ。
今も数人の人達が手に木刀を持って稽古をしている。
指導者がいるのか、全員がきっちりした足運びをしており、打ち込みもそれなりに様になっているようだ。
しかし、剣道とは違う。実戦を意識したような不規則な足運び、打ち込み、返しなどを連続して行っているようだった。
いうなればチャンバラだろう。響きが悪いので私は剣術と称することが多いが、今稽古をしている人達の動きはまさにそれだ。
実際、自分が一番憧れていた稽古方法でもある。
それを遠目に見て羨ましく思いながら、その稽古に見入っていた。
「藤屋君?」
「あ、ああ」
「東雲兄弟とクルセマ君の模擬戦始まるよ。ちゃんと見ててね」
「それは良いんだけどさ。クルセマ一人でいいのか? 二対一ってちょっと卑怯な気がするんだが」
クルセマは一人、対する東雲兄弟は二人と明らかな戦力差が出ている。
クルセマが本気を出している姿を見たことはないので、その実力は未だ未知数ではあるのだが、流石に二対一は可愛そうな気がする。
そう聞くと、柳刃は頭に被っていたつばの長いハット帽子を被りなおしてから答えた。
「それね。東雲兄弟の一人、水の風の辰馬君。この子はサポート要員なんだ」
「そうなのか?」
「うん。攻撃手段がないわけではないけど威力はとっても低い。それをカバーしているのが優香。氷の風だからね。でも優香の能力も水がなければ意味がない物なんだ。だから二人は二人で一人前の風……ってことになるのかな? 息がぴったり過ぎて連携では誰にも負けないんだけどね」
「まぁ……双子だしな」
辰馬が水を作り出し、優香がそれを凍らせて武器にする。それが東雲兄弟の戦闘スタイルらしい。
確かにその戦い方であるのなら、二人で一人前というのはあながち間違ってはいないだろう。
二人は遠距離攻撃を得意としているようだし、戦うのであれば接近しなければならなさそうだ。
クルセマには頑張って相手の手の内をさらけ出してもらおう。頑張れクルセマ。
「よーし! それじゃあ……開始!」
黒珠がそう叫んだ瞬間、東雲兄弟とクルセマはほぼ同時に動き出した。
東雲兄弟は上半身だけ見るとマジでどっちかわからない。 by藤屋




