1.24.巴の拮抗
門をくぐって村の中に入る。そこは現代建築物もあるようだったが、木造建築のほうが多いように思えた。木造建築の周囲には空気を読まないようにコンクリート造の建築物が鎮座しており、景観のほとんどが崩れ去っている。
しかしその建築物こそが、この村での重要な役割を担っているものだ。言ってしまえば製造所。ここから日用品などが多く輩出されている。どのようなものが作られているかは専門外なのでわからないが、あの建築物の中で行われていることが、この村を助けているという事は間違いないだろう。
村は細い柵に囲われているようで、その中に四つほどの門があるらしい。門番は交代制で必ず二人が配置されていた。
はて、このような細い柵で百切のような混餓物を阻止できるのだろうか。そのことを柳刃に聞いてみたところ、あの柵は混餓物から作られた柵らしく、自分に危害が加えられそうになると、その原因を絡めとって捕縛してしまうのだという。
混餓物は生物だけでなく、植物や木にもいるようだ。これは勉強になる。
中を進んでいくと様々な匂いが鼻につく。解体所であるかのような大きな場所では血の匂いと臓物の匂いが少し混じっていた。あまり良い匂いとは言えないが出来る限り匂いは消しているようだったが、それでもこの匂いとなると、混餓物のほとんどは臭いのかもしれない。
他にも料理の香ばしい香りであったり、甘い香りが漂ってくる。
それにここには人が多い。都会と言うほどではないが、それでも街と呼べるくらいの人はいるようだ。
キョロキョロと周囲を見渡している落ち着きのない私に、柳刃は声をかけてきた。
「どうだい?」
「すげぇな……こんな辺境の地にここまでの人がいるなんて」
これは素直な感想だ。日本とは全く違う世界。なのにこれだけの数の人々が生活をしているのだ。何年も前から。ここまで発展させるのは相当な時間を有したことだろう。
感心していると、柳刃は薄く苦笑いを浮かべた。
「ま、この人達は完全に巻き込まれる形になった人達なんだよね」
「と、いうと?」
「ちょっと長くなるんだけど……」
それから柳刃はこの村……もとい街の成り立ちを教えてくれた。
この街はまだ混餓物の地が分断される前に、研究員と冒険者の中間拠点として作られた場所なのだという。
それから混餓物が危険な物だと判明した後、ここには誰もいなくなったのだが、風が何とか混餓物をこの地へと追いやった時に、風達が攻略の中間拠点として使った。
それからこの地の安全性が確保されて行き、ついには人を呼んで風達の助けになろうとしてくれる人たちが移住してきてくれたのだという。それからこの街は発展していき、ここまでの大所帯になったらしい。
ここまで発展するのは相当な時間を有したようだが、おかげでここの人達だけでも安全に混餓物を狩れるようになっているのだという。
衣食住も安定しており、住む分には全く問題がないとのことだ。
だがしかし。この地は日本から離れてしまった。いや、正確にいうのであれば地球から離れてしまったのだ。ここがどこにある惑星なのかわからないし、どの次元にある物なのかもわかっていないのだ。故にここにいる人々は、ベールを風と共にくぐったため、帰ることができなくなったのだ。
勿論、事が終わった後、風達は此処にいる人々全員に謝罪した。だが誰も風を咎めるような人はいなかったのだ。それどころか、お礼を言われた。「故郷を救ってくれてありがとう」。皆が口々にそう言ったのだという。
「てな感じで……不本意ではあるんだけど、今ここにいる人達は全員同意してくれたんだよね。このままの生活を余儀なくされることにね」
「へー。ま、いいんじゃねぇの?」
「はははは。本当は風達だけをこっちに持ってくる予定だったんだけど……政府が戦争仕掛けてきたからね……。どうしても人々を日本に戻す時間がなかったんだ」
風達としては罪のない人々を戦争に巻き込みたくなかったのだろう。だがそれでも風だけをこっちに持ってくるというのは、日本に混餓物を使役している人物がいればまた利用されかねないからという事だろう。
本当に柳刃達の居た世界の政府はどうしようもない奴らばかりだったんだなとつくづく思う。自分の利益だけのために危険な混餓物を手元に置いておこうなどとは……。私だったら恐ろしくてできそうにない。
今でこそこの能力があるのであまり怖くはないが、能力がなければ混餓物に終始恐怖していることだろう。
「そういえばこれ何処に向かってんだ?」
「ん? ああ。今は宿に向かってるよ。止まると事は早めに確保しておかないとね。十分したらつくよ」
「ここで僕がー! この巴に拮抗について教えてあげようじゃないかぁ!」
「耳元で叫ぶなうるさい」
そういって柳刃は黒珠を指で弾く。ビシッといい音が鳴るが、黒珠は全く痛くなさそうで、そのまま言葉を続けた。
「まず、この街を取り仕切ってるのは雨の風、朱雀! 基本陰湿な奴だよ。今ここにどれくらいの風がいるかはわからないけど……傘の風、万巳入るんじゃないかな。後今日は此処で一泊したらすぐに零の地に向かう予定だよ!」
「意外と急いでんだな」
「急ぐ用事はないんだけどね。でも一番頼りになりそうな人が零の地にいるんだ」
「へぇ」
柳刃だけでも頼りになるとは思うのだが……。まぁその柳刃が頼りになるといっているのだ。ここは信じておいても大丈夫だろう。
しかし……あの五十三とかいう奴はいないだろうな? 雰囲気からして強そうだということはわかったが、あの人の考えていることはよくわからない。
私が来てからすぐに見に来たし、何故か浄化遺物だという事が漏れているし。何処でそんな情報を掴んできたのか今もわかっていない。何かの通信だとは思うのだが……この世界に電子機器なんてものはなさそうだしな。その可能性は低そうだ。
「「あー。柳刃とクルセマだー」」
女の子と男の子の声が聞こえた。測って一緒に行ったのではないだろうかと言うほどに綺麗にはもっていたため、遠くから叫んだであるにもかかわらず、鮮明に聞こえた。
その方向を見ると、手をつないでこちらに走ってきている子供が二人いた。どちらも髪の色は黒色だが、一人は髪が短く、一人は髪が長かった。ほとんど同じ顔だちをしていてどっちがどっちかわからなくなりそうだったが、女の子はスカートを。男の子はジーパンを履いていたので間違えることはなさそうだ。
しかし二人とも目の色が違った。男の子は青色の瞳を持っており、女の子は水色の瞳を持っていた。
「あ! 東雲兄弟!」
クルセマはすぐに走っていって手を取った。三人は楽しそうにクルクルと回っている。クルセマの言葉は通じてないのだろうが、同年代だからかとても楽しそうだ。
「柳刃、あの二人は?」
「水の風と氷の風だね。男の子が水の風で名前が東雲 辰馬。女の子が氷の風で名前が東雲 優香。双子だね」
「あんな子供が風!?」
「才能があったんだよね~あの二人。因みに朱雀さんのお気に入りだよ」
子供でも風になれるのか。そういえばクルセマも子供だ。それを考えれば何もおかしな事はないのだろうけど、クルセマは浄化遺物だったのだ。クルセマは例外だろう。
「「クルセマ。あの人は?」」
「藤屋兄ちゃん」
「「……言葉わかんない」」
「柳刃。あの息の良さはなんなんだ?」
「双子……だからだろ? ……多分」
まぁそういうことにしておこう。
双子はクルセマの手を放して今度は私の前に歩いてきた。
「「おじさんお名前なーに」」
私に電撃が走った。おじさん呼ばわりは初めてだ。これは今すぐにでもこの子達の認識を変えさせる必要がある。
柳刃てめぇ。何笑ってんだぶっ飛ばすぞ。
「おじっ……。……藤屋天地、おにいちゃん。いいね? おにいちゃん」
「「天地おにいちゃん」」
「そうそう」
私はまだ19歳だ。流石にこの歳でおじさん呼ばわりはされたくない。
幸い相手が子供だったので、茶化されることもなくなんとかおじさん呼ばわりからおにいちゃん呼びに変えさせることができた。
「あたしはゆうか」
「僕はたつま」
すると東雲兄弟は私の手を取って引っ張っていく。二人の力はそれなりに強く、普通に引っ張られていった。
「お、おい、どこいくんだ?」
「「宿。連れてってあげる」」
二人に任せて宿に連れて行ってもらうと、あと十分で着くといっていた柳刃の予想を遥かに上回る時間、二分で到着した。どうなってんだ。
Q 好きな動物は何ですか?
辰馬「りゅう」
優香「ぺんぎん」
天地(ここは違うんだね)
因みに私も双子です。 by真打




