1.23.巴の地
柳刃は超強かった。あんなデカい化け物を一瞬で倒したのだ。すごいとしか言いようがない。
しかし私はあれを普通に倒せるようにならなければならないのだろうか……。そう考えると先が思いやられてくる。あまりそういった戦闘はしたくない。なんなら静かに過ごしたいというのが本音である。
とは言っても今は命を狙われている身……。我儘はまかり通らないだろう。
「二人共、大丈夫だった?」
柳刃は息を荒げることもなくただ被っていたハット帽子を被りなおした。余裕。その言葉が似あうだろう。実際苦戦も何もせずに倒したのだしな……。
「大丈夫だったよ」
「わ、私も大丈夫だ」
「よぉし! じゃあこのまま街に向かっちゃおうか!」
「駄目ー! 今日は野宿ですー!」
「ああ……そうだった……」
クルセマに指摘されてあからさまに残念そうな顔をする柳刃。さっき自分でそう言っていたのになぜ忘れているのだろうか……。
しかしさっきの鎌、鎖。もしかしてだが……。
「柳刃。さっきの鎖鎌ってもしかして……」
「ん? ああ。あれは黒珠だよ。黒珠は武器に変形することが出来るんだ。おまけにそれは黒珠の体でもあるから訳の分からない動きも出来るって訳。さっきの鎖……変だったでしょ?」
変も何もおかしい所しかない。鎖は一度避けられたり弾かれたりした場合大きな隙になる使い勝手の悪い武器である。攻めに強いが守りに弱い。弾かれれば自分の思っていた動きをしてくれなくなるし、次手を打つのにも時間がかかる。
だが先ほどの鎖の動きは物理法則を無視していた。いうなればボールを真っすぐ投げたつもりなのに真左に直進するような物だ。
しかし、それが可能となると……その鎖には弱点がなくなるという事だ。それに鎌もでかかった。接近戦にも対応できるようにしているのだろう
それと先ほどの棘。あれは鎖に変形していた黒珠が細く強靭な棘に変形した物らしい。鎖の繋ぎ部分全てがあれに変形したのだ。そりゃ死にますよ。
「柳刃……お前強かったんだな……」
「えー? 俺より強い風なんていっぱいいるよ。二人三人……四人……ご……ご……あっれそんないなかったわ」
「おい」
柳刃はケタケタと笑いながら歩いて行ってしまった。あれだけ強いのに、あの性格だと威厳もくそもないなと思いながら、とりあえず今日の野営地を決めるために歩いていくことにした。
私の中での強さリストを今度作っておくことにしよう。なんだかおもしろそうだ。
◆
―朝―
目覚めがよかった。とは言っても固い地面の上で寝ているので体はバッキバキなのだが、なぜか目覚めは良い。なぜこんなにもスッと起きることができたのだろうかと考えていると、一つの結論に辿り着いた。
あの鳥の鳴き声がない。
あの声がないだけで何と幸せな気持ちで起きれるのだろうか。そんな感動を覚えつつ、水辺に行って顔を洗う。暫くすると柳刃とクルセマも起きてきて一緒になって顔を洗ったり朝食を取ったりした。
話によると巴の地中間拠点はもうすぐだという事なので、片づけをしたらすぐに出発することになった。道中でまたとんでもない混餓物が出てこないかと冷や冷やしていたのだが……普通に出てきた。
全て柳刃が倒してくれたが……ここの混餓物は気持ち悪くて仕方がない。全部の混餓物の頭が三つに割れて口をさらけ出すのだ。それだけで失禁ものだというのに混餓物は無駄にデカい。そんなに大きくならなくたってお前達の顔面は忘れないんだ。もう少し小さくなって出直してきてほしい。
にしても自己主張が激しい。一匹出てくればすぐにもう一匹出てくる。その後に続いて二匹目三匹目と数を増やしていく。流石に鬱陶しかったので、練習していた風を使う技を思いっきりぶち込んだ。うむ。体に穴が開いたぞ。私は見て見ぬふりをした。
歩いていると火山が見えた。周囲には岩肌も多くなってきており、噴石と思われる石がこの辺りにもごろごろしていた。火山は今も燃え上がっており、昼間でも赤く見える。活火山なのだろう。
「おっ。やっと見えたぞ! 藤屋君! あれが巴の地中間拠点、巴の拮抗だ」
そう言われて街を見るために柳刃の前に出た。まだ遠目ではあったが確かにそこには街があった。あの感じだと街と言うより町と言ったほうがいいような気がするが、この辺りの認識ではあそこが都会なのだろう。
しかし、大きな町だ。町の周りには私の背丈と同じくらいの柵が造られている。見た限り畑もあるようだし、何より家が大きい。コンクリート造やプレハブと言った建物は少なく、そのほとんどは木造建築だった。
パキッ。パキパキッ。パキンッ。
町を見ていると近くから何かをはじくような音が聞こえてきた。その音は次第に数を増やしていき、パキキキキキキキととめどなく音を発していた。その音を聞いて柳刃は非常に焦っていた。
「ま、まじか!」
「え? なに?」
「走れ! 何も考えずにただ走れ!」
「ほ? どういうこと?」
柳刃は私の質問には答えずに一目散に町へと走っていった。一体何なのだろうかと思い、音の発生源の方を見てみることにした。特に何ともない。あるのは小さな丸い石くらいだ。
気が付くとクルセマまでもが柳刃の後を追いかけていっていた。流石に一人になるのはまずいなと思ったので、とりあえず小走りで二人の後を追いかけることにした。
パキパキという音は次第い遠のいていったし、特に何かが出てくるわけでもなかった。柳刃は一体何に怯えていたのだろうか。あの柳刃が怯えるのだ。相当強い混餓物だとは思うのだが……結局出てこなかったし、実はそいつらも臆病なのかもしれない。じゃあここは下手に刺激するのはやめておこう。
◆
「ぜー……ぜー……」
「……一体に逃げてたんだよ」
町の門の前で柳刃とクルセマは息を整えていた。私はと言うとジョギング感覚で町に到着。無理な運動ではなかったので、息を荒げることはなく涼しい顔で到着した。全く。柳刃は大げさなのだから。
「な……なんとも、ないの?」
「この通り」
腕を広げて右足を軸にし一回転。体はなんともない。いたって健康だ。
「運がよかったね……」
「で? なにから逃げてきたんだよ」
「……フヨノダガーウだよ」
「……ごめんなんて?」
フヨノダガーウ。まるーい石の形をした昆虫類に部類される混餓物らしい。先ほどのパキパキという音はフヨノダガーウが石を弾く音だったらしい。フヨノダガーウは基本的には丸い石の形をしているのだが移動するときは体にまとわりつかせている石を割って足を使って移動する。まとわりつかせている石と言ってもその石はほとんどフヨノダガーウの本体らしいのではがす事はできないらしい。
フヨノダガーウは虫だというのに自分達より大きな動物を狩って食べるのだとか。おそろしい虫だ。だがフヨノダガーウが恐れられているのはそこではない。
自分の体を石から出す時……要するに石を割る瞬間だ。その瞬間、フヨノダガーウは衝撃波を打ち込むことができるらしい。勿論実際に飛ばすわけではない。簡単に言えば体当たりだ。それのどこが恐ろしいのかわからなかったので聞いてみたところ、その攻撃は岩をも粉砕するという。
なぜあそこで私を襲わなかったのかはわからないが、今の説明を聞いて顔からサーっと血の気が引いていくのがわかった。もしフヨノダガーウの気まぐれで私を襲ったのだとしたら……もうここにはいなかったかもしれない。
今度から柳刃の忠告はちゃんと聞くことにしよう。うん。逃げろって言われたら逃げよう。
話もそこそこに私は息を整えた二人と巴の地中間拠点、巴の拮抗にようやく足を踏み入れた。




