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混餓転生  作者: 真打
第一章 人間の世
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1.22.柳刃の実力


 あれから大体三時間。適当に歩いてきたというのに割とすんなり巴の地に来れたことにちょっとだけ安心した。

 肆の地は霧ばかりで少し不安になる。方向感覚はわからないし感じる空気は少し気持ちが悪い。嫌と言うわけではないがあまり長居はしたくないと言った方がいいだろうか。あの空気は少し苦手だ。


 しかし巴の地と肆の地の境界線はとても不思議なものだった。

 言うなれば霧の壁。そこから俺達は出てきた。霧は薄くなっていくのではなく、一気に消えたのだ。そして後ろを見てみると霧の壁が俺達を飲み込まんとするように反り立っていた。


 手で触ってみるが、普通に手を突っ込むことができ、これが霧であるという事がわかった。なぜこんな現象が起こっているのかを柳刃に聞いてみたがよくわからないのだという。

 昔はこんなことになっていなかったそうなのだが、急に霧の壁が現れてこの状態が保たれているらしい。もっともこの壁が見れるのは巴の地から肆の地に行くときであり、逸の地から入ってもこの現象は見れないのだという。


 本当にこの地はよくわからないなと考えながら、今日野営する場所を探していた。とは言ってもまだ明るいので問題はないだろうと思ったのだが、早いうちに見つけれたなら無理をせずに今日は一日をそこで過ごしたほうがいいらしい。

 まぁ暗くなって野営の準備をするってのも危ないよな。


「あー、ここか。藤屋君、もう少し行ったところにいい場所があるから今日はそこで野宿をしよう」

「わかった」


 どうやら柳刃は近くにいい場所があるという事を覚えていたらしい。流石。何年も歩いているだけあるな。

 あ。そういえばロッズアイクのことをまだ柳刃に聞いていない。今聞いておこうか。


「柳刃」

「何だい?」

「ロッズアイクっていう混餓物知ってる?」

「ロッズアイク……? んー……俺もこの地を歩いて長いけどそんな名前の混餓物は聞いたことがないな。もしかしたら結構古い混餓物なのかもしれないね。俺はわからないけど巴の地にいる風なら何かわかるんじゃないかな」

「そうか。黒珠はどうだ?」

「僕もしーらない」


 同じ混餓物でも知らない混餓物はいるようだ。まぁ別にいいんだけどさ。

 でも混餓物である黒珠も知らないとなると……他の風達が知っている可能性も低そうだな。あと知ってそうなのが……波……か。できれば会いたくないな。


 まだロッズアイクの言っていた言葉が耳に残っている。『どちらにもつくな』。じゃあどうすればいいのだろうか。

 私が中立の立場に立ったとしても混餓物達が俺を保護しなくなるわけでもなければ、波が俺を殺さなくなるわけでもない。であれば風つけばいいのかもしれないが結局は戦争になってしまうのだ。


 あいつは何が言いたかったのだろうか。これ助言になって無くない? 私を尚更困惑させているだけではないか! 全く……よくわからない事ばかりだ。


 まぁ私は今風のこととしか知らないのだ。風の良い分だけを聞いてはいそうですかと頷くわけにはいかないんだろう。とは言っても波の居る地に行くって言っても絶対に行かせてくれないだろうな。はぁ……。どうしろというのだ……。


 まぁ風のこともまだ全て理解しているわけではない。混餓物のことも勉強不足だ。おまけに現状としては平和だし……あんまり気にする必要ないかもしれないな。

 変な混餓物が言った変な助言なんだ。放っておいても罰は当たるまい。



 ロッズアイクの言葉を無視して前向きに検討している時、私の体に黒い鎖が巻き付いた。それに気が付いた時には体が宙を飛んでいた。


「んなぁあああ!?」

「あっぶねぇ!」


 ドサァっと肩から地面に着地した。痛くはないけど急なことだったので何がどうなっているのかよくわかっていない。柳刃は力任せに私を無理やり移動させた。


 先ほど私がいた場所に何かがあったに違いないと、先ほどいた場所を見ていると……クソでかいカマキリがいた。

 だが普通のカマキリではない。大きな足が六本ついているのが、腹の下には足はエビのように沢山あってその爪らしき部分は地面に深々と突き刺さっている。体の重さで突き刺さっているのか……はたまた爪の鋭利さで突き刺さっているのかはよくわからない。

 そして捕まえた獲物を絶対に放さないためか無駄に棘の付けられた鎌をこちらに向けていた。


「な! なんだ!?」

「藤屋君気を付けて! 百切(ひゃくきり)だ!」

「なんだそれ!」


 百切と呼ばれた混餓物は、威嚇するようにして体についている鋭利な足をわさわさと動かしている。正直気持ち悪い。


「キリリリ!!!!」


 って思ってたら頭が三つに割れたー!? ぎゃああああ! な、なんだあれ! 頭が口なのか!? それとも口が頭なのか!? り、理解が追い付かねぇ!


「ぎゃああああ! きっしょー!!」

「あ、思ったより元気そうだね。よっしゃ行くぞ黒珠!」

「あいさー!」

「クルセマ君! 藤屋君を後ろに連れて離れてくれ!」

「わかったー!」


 黒珠の鎖から解放されてぶん投げられた。もう少し丁寧に放して欲しかったと思っている間にクルセマが私の手を引いく。思った以上に力強かったのでたたらを踏みそうになったがなんとか持ち直す。


 少しだけ離れるとクルセマは周囲の確認をして私の隣で構えている。とりあえずここまで下がれば問題ないようだ。

 柳刃は大丈夫だろうか。


 そう思って柳刃を見ると、何処から取り出したのか鎖鎌に変形させて分銅を回していた。鎌である部分は草などを刈るようなかまではなく、首を切るかのような大きな鎌だった。鎖は鎌の刃と柄の付け根から伸びているため、回すのには不自由はなさそうだった。


 百切は柳刃の様子をずっと窺っている。柳刃も分銅を回したままじっとしていた。

 すると柳刃がパッと分銅を振り回していた手を離した。投げるではなくただ手を広げたのだ。分銅は放物線を描きながら百切りに向かって行く。それに気が付いた百切は咄嗟に右の大鎌でその分銅を弾いた。刹那、百切が柳刃めがけて突進していく。

 エビのような足達に捕まれば体は切り裂かれてしまうことは見ればわかる。だが柳刃は避けようとはせず、持っていた大鎌を横に振るった。


 すると先ほど弾かれた分銅がありえない動きをしながら百切に巻き付いた。思った以上に鎖が長く、三回ほど百切の体を周回し、分銅が体にドッと当たって停止した。百切は暴れるがその鎖が解ける様子は全くない。三回程度の巻付きなら落ち着いて対処すれば逃げだせるとは思うのだが……。


「よーし! 行くぞ黒珠! 鎖術変形(さじゅつへんけい)!」


 柳刃が叫んだ瞬間、百切の体から黒く細い棘が飛び出した。その数は一つや二つではない。百切りの体を全て覆うようにして棘が突き出したのだ。


「キリリリッ……」


 突然のことに対処できるはずもなく、百切は頭を三つに割って吐しゃ物を吐き出していた。

 足が無数に飛び散り、片腕も捥げている。体からは紫色の血を流しており、ぴくぴくと動いていたが最後にはピクリとも動かなくなった。


 鎖は百切が死んだことを確認すると、生き物のように動いて柳刃の影へと沈んでいく。柳刃が持っていた鎌も自分の影に潜り、最後にはぽんっと黒珠が出てきた。


「お疲れ柳刃」

「おう。助かったぜ」


 すると黒珠はぴょんと柳刃の方に乗っかった。

 あの二人……正確には一人と一匹だが、こいつらは百切と呼ばれるでかい混餓物をほんの数秒で倒してしまった。私はその光景を見て口がふさがらなかったが、気が付いたことがある。


「そりゃあ……波達……勝てねぇわな……」


 改めて風の強さを実感した瞬間であった。


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