1.19.逸の地
戻ってみると夜見がしゅんとしていて、クルセマと風華が何やら夜見に話しをしているようにも見える。何がどうしたというのだ。
先ほど夢元は風華に伝えたといっていたが、幻竜同士はテレパシーか何かで通信ができるのだろうか? とは言ってもそれができなければ、夢元は動かずに風華に何かを伝えることはできないはずだ。多分幻竜同士ではそういうことができるのだろう。
私達が入ってくると、クルセマがすぐに気が付いてパタパタと近づいてきた。
「天地兄ちゃん大丈夫?」
「ああ。不思議と怪我一つしなかったぞ」
そう言って腕を広げてみる。うん。やっぱりなんともない。それを見てクルセマは勿論、夜見もどこか安心したような表情を浮かべていた。
「さ、さっきはごめんね……つい頭に血が昇っちゃて……」
「まぁ別にいいよ。夢元と仲良くなれたし」
「夢元と?」
『やっぱりそうなのね』
最後に言葉を発したのはおそらく風華だ。風華は私の方を見ている。その言葉に疑問を抱いたのか、夜見が風華に話を聞いていた。
「風華? どういう事?」
『夢元からは主を静かにさせろとだけ先ほど聞きました』
おお。やっぱり離れていても意思疎通ができるようだな。ていうか夜見は風華の言葉を理解しているようだな……。使役している混餓物とは話ができるのだろうか……。わからん。
まぁ、兎にも角にも夜見は謝ってくれたし、これからも幻竜達とは仲良くやって行けそうなので良しとする。
で、だ。私をここに連れてきたのには訳があるのだろうけど、まさか夜見に挨拶をさせるためだけに連れてきたのではないだろう。
すっと柳刃のほうを見てみると、なんとも面倒くさそうな顔をしながらため息をついた。
「よし。じゃあやっと落ち着いたところで話を戻したいんだけどいいかな?」
私はそれに頷く。クルセマも夜見も頷いたのを確認したところで、柳刃が言葉を続けた。
「じゃ、まずは夜見さん。藤屋君に逸の地のことを教えてあげて」
「わかったわ」
夜見は長くこの地に住んでいるようなので、この地のことに関しては他の誰よりも詳しいのだろう。まずは何処から話そうか悩んでいたが、まずはこの地の由来について教えてくれた。
逸の地。
逸という文字の意味は『逃げる・取り逃がす』、『世間から隠れる。世間に知られない。失われた』などと使われる文字である。
なぜそのように言われるようになったかと言うのは、幻竜が深く関係しているのだとか。幻竜は名前の通り幻を見せる竜だそうだ。幻竜の能力は自らの居場所を、相手にはわからなくさせる幻覚を見せる能力であるらしい。
例えば、一人の人物が大地に立っていたとしよう。そこで幻竜を見つける。見つけた幻竜は小さく、上空を飛んでいた。その人物から見た幻竜の位置は何キロかもわからないはるか遠くの空だと認識するのだが、実際には二十メートル先ほどで滞空している。と言った風に、幻竜は相手が目視で確認できる位置とは全く異なる距離にいるように幻覚を見せることができるらしい。
昔……と言っても数年前だが、まだ混餓物の地が地球とくっついていた時。幻竜の鱗や爪は高値で取引され、世界各国では幻竜の素材を使った美しい装飾品が多く出回っていたそうだ。
だが装飾品を作るにも幻竜の素材がなければ作れない。そのため幻竜を狩る組織があったそうな。狩場はこの逸の地。だが幻竜は沢山いるが殆ど狩ることができなかったのだという。理由は先ほど説明した通り、幻覚により感覚を惑わされていたためだ。
なので『逃げる・取り逃がす』といいたことが多くあった。だがそれを報告しても誰も信じてくれなかったらしい。そこからその話は逸話とされ、いつしか逸話の生まれた地である『逸の地』と誰かが名付けたそうだ。
だが逸話と言うだけあって、この話を知っている人物はとても少ないらしい。風は知っているかもしれないが、巴の地にいる人達は知らないのではないだろうか? とのことだ。
次に説明してくれたのはこの地に住んでいる混餓物について。逸の地は飛行する混餓物が極端に多いらしい。幻竜、ミオルメル、ヌリュウ、寄生ガラス、バリシグロ……。聞いたことのない名前ばかりだし、実際にその混餓物を見ていないから覚えれそうにないので、この話はそう早々やめてもらった。理解できないんだもの仕方がない。
最後に教えてもらったのは逸の地の地形だ。歩いてきたがとんでもない地形だった。何をどうすればこのような地形ができるのか……。
その問いに夜見は、この地は自然に作られたものではなく、意図的に作られたものだと教えてくれた。
昔、夜見と同じようにこの地に住み着いた幻夢竜使いがいたのだという。幻夢竜の能力は恐ろしい物で、夢で見せたものを現実にも具現化できるという物。それは生物だけではなく石や木にも使えるらしい。そして岩に夢を見せ、このようなアビスを作り出したのだという。
この穴に何の意味があるかは今でもわかっていないらしいが、何か意図があってこの地形を先代幻夢竜使いは作り出したのだと思う。そう夜見は教えてくれた。
「でも突然いなくなったって話を聞いたの。それがどうしてかは今でもわからないんだけどね……。たしか……私達が来てすぐの事だったから……何年前?」
「四年前だね。三年前に地球から完全に混餓物の地を追い払った。俺達は一年間修行してたからね。って考えると……混餓物が出現してからもう十五年も経つのか……」
「ええっ!? もうそんなになるの!?」
あ。柳刃と夜見が昔を懐かしむような顔になり始めた。この調子だと昔話に花を咲かせてしまうことは避けられないだろう。
「おーい。話を戻せこらー」
棒読み気味にそういうと、二人ははっとして咳払いをした。
「ああ、ごめんごめん。でもこれくらいで話は終わりだよね?」
「そうね。後言ってないことと言えば幻竜達の可愛らしさや尊さとかほかに──」
「おし! クルセマ君! 藤屋君! 肆の地に向かうぞ! 風華! 世話になったな後はよろしく!」
そう言って柳刃は私の手を掴んで全力で走っていった。クルセマもそれに続いて猛ダッシュで逃げるようについてくる。
反応からしてわかる。夜見による幻竜講座はおぞましく長いのだろう。どれくらい長いのか気になるところではあるが、自ら地雷を踏みに行くことは避けたい。それを回避してくれた柳刃には感謝しておこう。
後ろから何やら夜見が私達を引き留める声が聞こえるが、柳刃とクルセマは振り返ることなく走り続けていた。それに少し可笑しくて顔がにやけてしまったが、この二人にはバレなかった。
幻竜は可愛い
幻竜は美しい
幻竜はかっこいい
幻竜は尊い
幻竜はやばい by夜見




