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混餓転生  作者: 真打
第一章 人間の世
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1.15.昨晩の訪問者


 片づけを終え、クルセマも隣に座って私達の会話に混ざってきた。ここには混餓物語を理解できる人が二人いるため会話に交じりやすいようだ。最も赤山はわからない様だが……。いや、もう一匹混餓物語を理解できるボールがいたな……。

 クルセマはやはり柳刃にもよく懐いているようだった。黒珠の年齢がいくつかはわからないが、黒珠の精神年齢が低いためクルセマと黒珠の会話は年相応と言ったような感じだ。年齢が近い友達がいるのは良いことだな。


 赤山と柳刃話し合ってとりあえずは私をこの家で匿うことに決めたようだ。柳刃は今まで別の仕事で捌の地(さばきのち)に赴いていたようだが、帰ってきたときはクルセマのために料理を作るためにこの家にお邪魔しているらしい。なので柳刃の家は別にあるようだ。


「とりあえずはこれでいいとして……バレるのは時間の問題かもしれないね。波は基本的に浄化遺物を匿っている風と敵対してるし乗り込んでくることもざらにあるから」

「まじかよ……。でもそれって大丈夫なのか?」


 私はまだこの世界に疎すぎる。戦争という言葉もまだ軽視していると自分でもわかっているつもりだ。実際あまり危機感はない。これが平和に育ち過ぎた日本人の悪い所だなと心底思う。


 とは言っても狙われていると言われれば心配になるのは必然である。赤山からは混餓物の地をこの世界に押し込むとき随分と戦いを強いられたようだからな。赤山曰く波は弱いと言っていたが……本当だろうか。風と波が近しい存在であれば相手も必ず能力を持っているはずだ。異能力バトルとか小説やアニメだけの話だと思っていた。これで私の命が狙われていなければテンションも上がる所なのだがそんな余裕はない。悲しい限りだ。


 柳刃は一度お茶を飲んでから私の質問に答えてくれた。


「波はそんなに強くないよ。俺達みたいに混餓物を使役しているわけじゃないしね」

「お? 私その話知らないや」

「ん、これは教えてなかったのか……。うん、黒珠、クルセマ君。ちょっと話が長くなりそうだから外で遊んできな」

「「はーい」」


 クルセマはそう言われると机の上に乗っていた黒珠を掻っ攫ってから外に走っていった。そうだよな。子供は外で遊んだほうがいいもんな。とは言ってもクルセマは年齢と精神年齢にちょっとずれがあるようだけど。大人っぽいもん。


 二人が……一人と一匹が家の外に行ったのを確認してからは柳刃は話を続けた。


「まず風だけど、風は混餓物を使役して能力を取得しているってのは知っているね?」

「おう。その辺は赤山に聞いたな。私は使役する必要がないから使役方法なんかは聞いてないけど」

「じゃあ大丈夫か。波は俺達と違って生まれながらに能力を持っているんだ。俺達と違って全員がね。ただ戦闘向きの能力は少ない。だけどそれでも俺達より数が多いから物量作戦で攻めてくることが多いんだ」


 ここでやっと風と波の違いを理解することができた。確かにここは風達にとっても異世界なのだ。人種が違うのは勿論のこと世界の常識も違うのだろう。


 だがどれほど弱いと言っても稀に強い波はいるらしい。相手方にとっては超重要な戦力なのでなかなか前線には出てこないことがほとんどであるらしい。出てくるときがあってもそれは浄化遺物の場所を確認して目視してからでなければ出てこないそうだ。何と慎重な……とは思うが強力な戦力をそう易々と失いたくはないよな、と思い直して納得する。


 ここ数年で何度か浄化遺物を保護するために風達も戦いに参じていたが、浄化遺物を波に発見されるともう手出しができなくなるらしい。その理由のほとんどは物量によるごり押し。風は数人で対処するのに対して波達は千人単位で行動を起こす。浄化遺物が発見された時は必ずと言っていいほど強い波も現れるのでその対処に苦戦して浄化遺物を回収されてしまうのだとか……。


 だがそう考えてみると波の兵力はとんでもなく多いはずだ。この世界がどれほど大きいのかはわからないが、言ってしまえば風達は小規模の反乱軍だ。この世界の波達は混餓物の全滅を望んでいる。風達はそんな波達と渡り合い、世界を相手にしているという事になる。恐ろしい話だ……。何が恐ろしいってその中心に私がいることだ。気が遠くなる。


「風って何人くらいいるんだ?」

「ん~昔よりは多いかな。でも百人もいないよ」

「百人未満で戦争起こしてんのかお前ら」

「まぁ混餓物も俺達の味方だしね。戦力的には波達と渡り合えるくらいあるよ」


 ああ、そうか。混餓物を使役すると言っても混餓物事態を操って戦う風もいるんだったな。傀儡使いみたいな感じだろ多分。

 ……でもあのでっけぇトカゲが突っ込んでくるところを想像すると波達に同情しそうになる。あんなの無理だろ勝てるわけがねぇ。


「まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。今回の浄化遺物は命を賭してでも守らないといけないものそうだからね」

「そんな大げさな」

「大げさじゃないさ。本当に危険なんだ。君の存在が波達に通達されれば確実に世界中の波が押し寄せてくる。一年は大丈夫かもしれないけどそれ以降は本当にわからない。一年も浄化遺物が見つけられなかった波達が俺達を疑うのは必然だからね。確実に年内には一度襲撃してくるだろうし」


 放しても危険、匿っていても危険……か。本当にどうにもならないな。


「とりあえず……私はどうしたらいいんだ?」

「まずは自分の身は自分で守れるようになってもらわないとね。で、風達には君が浄化遺物だってことは伝えておいた方がいいと思う。何かあったら守ってくれるしね。でも波達が襲撃してきたりした場合は絶対に出てきちゃダメ。ここは俺達に全面的に任せてほしい」

「後はやっぱり混餓物について勉強することだね。それさえできれば風として認められる。今のクルセマもとりあえず風扱いだしね」


 柳刃の説明に赤山が補足してくれた。やっぱり技はどんどん作っていかなければならなさそうだ。混餓物のことを勉強しきるのに何年かかるかわからないけどまぁ何とかなるだろう。


 それから私は此処から零の地に向かいながら風達に挨拶をしていくという事が決まった。自分が浄化遺物であることを隠している以上風達からはこちらに接触してこないらしい。誰だったか似たようなことをしろと言っていたな。


「そういえば……」

「ん?」

五十三(いさみ)って人知ってる?」


 二人からはその名前が出てくるのは意外だったといった表情で驚いている。


「おお、五十三さんに会ったのか」

「随分カラカラした人だったけど」

「その言葉の意味はよくわからないけど確かに変わっている人だね。でも五十三さんが会いに来たってことはやっぱり重要視されているかもしれないなぁ」


 あいつそんなに慕われている奴なのか……。てことはやっぱり風として強いのかな。まぁ強くなければあんな消え方できねぇよなぁ。何かの能力だとは思うけどさ。


「その五十三って人はどんな人なの?」

「良く知らない」

「僕も」


 二人は同時に首を振る。

 謎に包まれた人物だったようだ。まぁ実はそんな気はしていた。でもまぁ式の地にバーを開いているってことだったし、零の地に行くときに丁度寄るだろうからお邪魔してみようかな。


「じゃあ、藤屋君は明日から零の地に行ってもらうね。赤山君はこの陸の地を任されているから俺とクルセマが一緒に行こう」

「わかった」


 それからは零の地に行く為の方法と準備を整えていった。赤山は旅に慣れているようで様々なものを私に押し付けてきた。こんなに要らないしどこに使うのかもわからないものばかりだが、柳刃にはそれがわかるようだったのでとりあえず持って行かせてもらうことにする。だがこれだけ重い荷物があるとしんどそうだなと思っていると、柳刃が風呂敷を広げた。まとめ上げた荷物の上にファサッとかけると、荷物が消えた様に風呂敷がペタンと床に落ちた。


「!!?」

「あ、ごめん説明してなかった。これは収納風呂敷っていって混餓物の一種だよ」

「な、何でもありだな」

「お、それ俺が風見習いになった時にも思ったよ」


 柳刃は収納風呂敷をひらひらを見せびらかしながらくすくすと笑った。私もそれ欲しいんだけど……。めっちゃ便利じゃないですか。


 聞けば収納風呂敷は零の地にあるらしい。そこでなければ手に入らないのだとか……。なんてこったい。まぁ行く理由が増えていいけどさ。


 ここから零の地には最低でも六日はかけていくらしい。この世界には電車は勿論バスもない。自転車も走れる歩道らしい歩道がないため使えないんだそうだ。だがそのおかげで波達の襲撃を遅らせることもできるらしいのでいいと言えばいいのだろうが……。移動時間が短縮できないのは辛いな。


 心の中でそう呟きながら準備を終えた。明日には出発するので今日はゆっくりさせてもらうことにする。だが技の研究はしておいた方がいいだろう。風二人が少し手伝ってくれるようなので今日は進展があるかもしれないな。


 外にいたクルセマ達と合流して私の技研究を始めた。それだけで今日一日が終わってしまったが意外と楽しかったので良しとしよう。



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