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混餓転生  作者: 真打
第一章 人間の世
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1.14.宝玉の風


―翌日―


 朝になった。昨日の夜目が覚めたときは何時に起きたのかを見ていなかったので、あれから何時間寝たかは分からない。だが目覚めは非常に良く、腹をぶん殴られることもなかった。


 外を見てみると太陽がちょうど顔を出し始めた頃だと言うことが分かった。随分と早い時間に起きしてしまったらしい。寝慣れない部屋で寝たためだろう。まぁ落ち着かないのは当然だ。

 だが体の疲れは取れているようで、とても軽い調子で動くことが出来た。


 クルセマは相変わらずベッドの上で寝転がっている。無理に起こすのも悪いと思ったのでそのままにして置いてあげることにした。


 しかし体を起こして気が付いたのだが、少し臭う。そういえば暴れたまま風呂に入っていなかった。あの時は相当疲れていたし入っていたら溺れてたかもしれないけど、日本人として毎日の風呂は欠かせない。

 下に降りて赤山に風呂のことを聞こうと思って扉を空けた瞬間だった。


「ガギャアアアアアアアアアアアアアアア!」

「なんぁなんなんだああああ!!? うるせぇえええ!」


 突然外から鳴き声が聞こえた。その声は爆音でマイクを鳥に握らせて叫ばせたような声だった。思わず耳を塞ぐがそれでも声が聞こえてくる。

 数秒でその声は収まったがまだ耳の奥がビリビリと痛む。一瞬とはいえまともに聞いてしまったのだ。あんな声を直接聞いたのであれば鼓膜は簡単に破れてしまいそうだ。


「むにゅう……天地兄ちゃんうるさい」

「うっそだろおい」


 あの音量よりも俺の叫び声がうるさいって? そんな馬鹿な。クルセマの耳どうなってんだ。


 クルセマはもそもそと眠そうに目をこすりながらベットから降りた。それから大きなあくびを一つすると部屋から出て行った。


 私もその後に続いて部屋を出る。すると良い香りが漂ってきた。赤山が朝食を作ってくれているのだろう。何から何まで世話を掛けるなぁと思いながら、一階へと降りてゆく。


 リビングまで歩いて行くと、机の上には湯気を立たせながら待っている朝食が並べられていた。それを見ると腹が鳴った。そういえば夕食も食べていなかった事を思い出す。どれほど疲れていたのだろうか。


 とは言っても食事の前に洗面器を借りておきたい。キッチンらしき方に歩いて行き、顔を出して赤山に尋ねる。


「赤山ー。洗面器借りたいんだけど何処かな?」

「おや? 誰だい?」

「え?」


 予想外の返答に驚いて料理をしている人物を見てみる。そこに赤山はなかった。

 黒い髪の毛はクセが強いのかよくはね回していて寝癖のようにも見える。随分と優しそうな顔立ちで笑顔をこちらを向いている。肩には黒いボールのようなものが乗っていた。どうやって乗せているのか疑問だがあえてふれないことにする。

 服装は至る所にポケットのある服を着ていて、どこか軍服のような感じもする。


 その人物は笑顔のままでこちらを見ているが随分と警戒している様子だった。心なしか黒いボールもこちらを見ている気がする。なんだあれ気もち悪。


「え、あれ? っとー……赤山は?」

「赤山君の知り合いかい?」

「昨日ちょっといろいろあって……居候って形でここにいるけど」

「な、なるほどね? ちょっと話し合ったほうがいいかもしれないなぁ……。はぁ。赤山君人呼んでるなら言ってくれよ……。朝ご飯三人分しか作ってないぞ」


 ため息交じりにぶつぶつと文句を言っている。だがその間にも追加で食材を取り出してまた料理を始めてしまった。割と無視決め込まれてないか?


「で? 君は誰だい?」

「ああ、すまん。私は藤屋天地だ」

「風じゃないのかい? まあいいけど。俺は宝玉の風、柳刃鉄真(やなぎばてつま)だよ。よろしくね」


 宝玉の風? 昨日赤山が言っていたクルセマと話ができる人物の一人じゃなかったっけか? てかこの人この家に住んでる感じだよな……。多分。普通に料理してるし。クルセマと話のできる一人だからかもしれないけどさ。


 挨拶が終わったと同時に後ろから赤山が出てきた。おや? といったような顔をしている。赤山を見た柳刃はフライ返しを向けて言葉を言い放つ。


「赤山君! お客人がいるなら昨日のうちに言っとけよ!」

「そーだそーだ!」

 赤山ともクルセマとも全く違う幼い声が聞こえた。ちょっと待って今の誰。

「ごめんごめん……柳刃君が帰ってくるのもっと先だと思ってたから寝ちゃってた」

「まぁ連絡しなかった俺も悪いけどさ。話は食事中にでも聞くから向こうで待ってて。藤屋君も向こうで待ってな」

「いやちょっとまって」

「?」


 さも普通に話を続けているけど私は何が何だかよくわかってない。さっきの声が聞こえた時柳刃が口を開いていなかったし、明らかに声が違う。腹話術でもあんなに綺麗な声を出すことはできないはずだ。それが気になって仕方がない。

 だが探せど探せどその声の持ち主は見つからなかった。


 暫くそうしていると二人は何か納得したような表情で俺に声をかけてきた。


「もしかしてだけど、こいつの事?」


 柳刃が肩に乗っけていたボールを手に持って俺に差し出してくる。一体何の冗談だとも思ったが柳刃の表情は至って真面目だ。


 とは言ってもこんなボールが喋れるわけがない。そう思い柳刃に言葉を言おうとしたその時、自分の耳を疑った。


「ハァイ」

「は?」


 そのボールから声がした。自分でも何を言っているのかよくわからないのだがそのボールから確かに先ほど聞いた声が聞こえたのだ。ボールが喋った。何かのおもちゃかと思ったが、こんなおもちゃがあってたまるか。


 なんだこの黒い塊は。


「僕の名前は黒珠だよ。よろし──」

「喋ったあああああ!?」

「うるさ!」


 黒い塊が日本語喋りやがった!!! なんだこいつは何なんだこいつは! ま、混餓物ってこんな奇天烈な奴までいるのか!? 私の常識の範囲をはるかに超えている! 捌ききれねぇ!


 明らかに狼狽して後ずさりしている私を見て、柳刃は黒い塊に全力でチョップをかました。黒い塊は「ヘブラッ!」っといいながらスーパーボールの如く跳ねまわったが、跳ねている時にもう一度柳刃の裏拳が黒い塊に直撃し、黒い塊は殴られた勢いそのままにごみ箱にダイブして止まった。

 思わず拍手を送りたくなるほどに綺麗なホールインだったのだが今はそんな気分ではない。説明を求む。


「な……なぁ!?」


 説明を求めようとしたが驚きすぎてうまく舌が回らない。だが指をごみ箱に向けて差しているので、何が言いたいのかは伝わったらしい。柳刃は私の前に来てしゃがみ込んだ。


「あー、落ち着いて? 藤屋君だっけ。あれは黒珠(くろたま)って言って、混餓物なんだ。俺が使役しててね……ちょっとやかましい奴だけどいい奴だからそんなに驚かないでやってほしい」


 とは言ってもあんなのを見たのは生まれて初めてだ。驚くなと言うほうが難しいだろう。というか此処は私の知らない世界だ。全てが新鮮で見るもの全てに驚いてきている。こんなことでは身が持たなさそうだなと思いながら、胸に手を当てて自分を落ち着かせていく。


 そうしてしばらくすればすぐに良くなった。

 その間に赤山は料理をすべて運んで机に並べてくれたので、すぐにでも食事はできるようになっている。朝食が冷めてしまっては美味しくなくなると柳刃が言いはじめ、とりあえず私達は椅子に座って朝食をいただくことにした。


 因みに黒珠とかいう黒いボールはごみ箱に入ったままだ。柳刃は黒珠を助ける気はさらさらないらしい。かわいそうに……。


 柳刃は私のことを本当に何も知らないようだったので、これまで赤山に話してきたことと今までにあったことを全て話しておいた。自分が浄化遺物だという事も話したが柳刃は驚いたそぶりを見せるどころか眉毛一つ動かさなかった。どうでもいいと思われているような感じだ。


 てかそんなことよりご飯美味しい。何も食べてなかったから尚更美味しく感じてしまう。


「つまり……転生して浄化遺物になったという事ね。波達は血眼で浄化遺物を探しているからバレないように気を付けておかないといけないって所か……」

「むぐもぐ」

「赤山君。何か他にわかったことある?」

「えーっとね。クルセマ君と話せること。能力も同じようなものが使えるらしいけど威力が桁違いらしいよ。あとあらかた混餓物の地についてとか波については説明しておいた」

「ん~危険だねー」


 随分と私のせいで頭を悩ませてしまっているようだ。なんだか申し訳なくなってしまう。だが私も好きでこうなったのではないのだ。許してほしい。


 朝食を全部食べ終えるとクルセマがチョコチョコと動き回って片付けていった。本当にいい子だ。私も手伝おうとしたけど柳刃に止められてしまった。まだ話したいことがあるらしい。


「藤屋君。何かまともに使える技はないのかい?」

「と、とりあえず風の技能なら使えることが分かった。クルセマが見ているから間違いないと思うが……」

「そうかー。だったらひとまず安心かな……って、黒珠! いつまでそうしてるんだ出てこい!」

「……すさまじいフィット感」

「そのまま川に捨てるぞ貴様」


 黒珠は脅されるとぴょんと跳ねて出てきた。そしてすぐに柳刃に近づいて肩に乗る。柳刃はそれを確認して俺の方を向いた。


「黒珠。どうだ?」

「いや~……どうだってこの子すっごいよ。浄化エネルギーが尋常じゃないほど詰まってる。虎の地から逸の地までは一掃できちゃうだろうね。もしかしたらそれ以上かも」

「……予想以上だなぁ……」


 柳刃のつぶやきにその場にいた全員が大きなため息をついた。なんか……ごめんなさい。


五十三は謎だらけっ。

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