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混餓転生  作者: 真打
第一章 人間の世
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1.12.おじゃまします


 私と赤山、そしてクルセマは赤山の家にお邪魔するべく陸の地を少し歩いていた。歩いてみた感じとしては村だという感想が一番初めに口から出てくる。

 だがここは家だけしかなく、畑などはないため村とも何とも言えない場所となっていた。ある物と言えば家と廃屋……そして研究所。後は森が周囲に広がっていて川が近くにあるくらいで、前世いた場所とは全く違っていた。


 よくこんなところに住んでいられるなと内心関心しながら赤山の後ろをついていく。だが周囲を見ていて少し気になる事があった。


「なぁ赤山」

「ん? なんだい?」

「なんでここには柵の一つもないんだ? 監視するための高台もないし……戦争中なんだろ? こんなので大丈夫なのか?」


 ここまで歩いてきたが、いくら探してみても全く防衛設備がなかった。戦争中になんて不用心なのだろうかと思ったが、それでも策の一つもないのはおかしいと感じた。


「? なんで?」

「……お?」


 予想外の返事が返ってきて変な声が出てしまった。だが赤山は真面目な顔つきだ。本当に私の言った言葉の意味を理解していない様だ。どうして言い直そうかと考えていると、クルセマが私の服の裾を引っ張った。


「天地兄ちゃん。風達はその辺甘いんだ」

「なんで?」

「風達はいろんな能力を持ってる。爆発したり大きな混餓物を操ったり、遠距離の攻撃を持っている風もいるの。だから障害物は本当の意味で邪魔でしかないんだ。作ったとしても壊すことが多いしね。本来の力を発揮できないように村を囲ってしまうのは意味ないんだってさ」

「えーっと……要するに防衛設備が必要ないくらい風達は強いと」

「簡単に言えばそうかも」


 本当に何者なのだろうかこいつらは……。一度どれほどのものなのか見てみたい気もするが……厄介事はご勘弁だ。私はマジでやばい場所に転生してしまったかもしれないよつくづく思う。これは本格的に自分が強くならないと危険だ。早いこと技を考えておく必要があるな。またクルセマに手伝ってもらうとしよう。


「何を話していたんだい?」

「ん? ああ、そうか。赤山はクルセマの言葉分からないんだったな。いやなに、クルセマからどうして防衛設備が必要ないのか聞いていただけだよ」

「ああ、そうだったのか。まぁ防衛設備なんて作る余裕ないし、作ったとしても壊れちゃうからね~。無駄なだけだよ」


 本当に邪魔なんだな。防衛設備がこんなに邪険にされてる所なんて初めて見たぞ。私がやっていたRTSでは防衛設備ましましで拠点防衛していたからな……。なによりRTSゲームは最弱NPCでも異常に強く設定されていることが多い。初めて手を付けた頃は勝てなさ過ぎて泣きそうになったしな。

 だが勝てない要因の多くは操作方法の難しさだ。それさえ慣れてしまえば何とか勝てるようになってくる。未だに最強NPCに挑むことはできなかったが多分負けるだろう。最強NPCに勝てるマウス操作術は持ち合わせていないんでな。


 そんなことを考えている内に赤山の家に到着したようだ。


「ここだよー。あんまり綺麗な家じゃないけど入って入って~」

「おじゃましまーす」

「しまーす」


 赤山の家は木造二階建ての大きな家だった。木目をわざと見せつけるように、壁は木の板をそのまま張り付けている。それだけ見ると一見小屋のようにも見えるが瓦がしっかりと屋根に乗っているので小屋には見えなかった。大きな母屋の棟には鬼瓦もちゃんと配置されている。


 どこからこんな材料を持ってくるのかと不思議に思ったが、村はここ以外にもあると言っていたしそこから持ってきているのだろうと自分の中で自己解決した。


 中に入ってみると良い木の匂いがした。家の中も木材をふんだんに使った間取りになっており、リビングは吹き抜けで開放的な空間になっていた。

 そんなに物は多くないが、何故か色とりどりの服や金具が壁にぶら下がっていた。他の場所は小奇麗にされているのにその場所だけは無法地帯と言わんばかりにごちゃごちゃとしていた。


「今お茶入れるね~。とりあえずその辺座ってて~」

「ありがとう」


 私とクルセマは椅子を引いてストンと座る。ようやく安心できる家の中に入れたせいか、椅子に座った瞬間ひどく体が重くなったような気がしてバタッと机に突っ伏してしまった。なんだか椅子に根が張ったように動くことができない。

 クルセマがそんな私を見て心配そうに手を頭に添えてくれる。めっちゃいい子やん。


「大丈夫?」

「ああー疲れたー……」

「天地兄ちゃん、今日はゆっくり休んだ方がいいかもね」

「そうだな……」


 ただでさえ辺境の地に放り出されて、混餓物に追っかけまわされたんだ。それに続き技の開発、妙な連中との遭遇。もう今日だけで何日分の気力を使ったかわからない。とにかく今はゆっくりしたかった。


 そんな私を見た赤山はくつくつと笑いながら私の前にお茶を置いてくれた。本当はお茶を手に取ることでさえ億劫なのだが流石に親切を無下にはできない。重たくなった腕を動かしてお茶をすする。


「あっちぃ」

「熱いからお茶っておいしいんだよ?」

「そうなんだけどさ……年がら年中冷たい飲み物派だからあったかいお茶久しぶりで……一人暮らしだとまず湯を沸かす機会が少ないし」

「ああ、わからんこともない」


 どうやら赤山は同志だったようだ。赤山も客人が来た時くらいしか暖かいお茶を出すことはない様だ。そんなことなら初めに聞いておけばよかったと乾いた笑いをしていた。クルセマは猫舌だったのか、お茶を飲むのにものすごく苦戦している。一生懸命フーフーと冷ましているがそれではお茶は冷めないんだぞ。だがそれに気が付かないクルセマはそのままお茶を飲んで驚いたように湯呑から口を離した。舌を出してパタパタと手で風を顔に送っている。


「あ、そうだ。藤屋は二階の部屋で寝てね。一室余っているからその部屋は好きに使っていいよ」

「いいのか?」

「勿論。立派な戦力なんだから」

「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうか……な……」

「……あれ? 藤屋? ここで寝ないでね?」

「…………」

「ありゃりゃ……クルセマ君。運ぶの手伝って」

「毛布かけるだけじゃダメなの……?」

「だめだ……言葉がわからん」


 赤山は席を立って二階に行ってしまった。恐らく寝室を整えてくれるのだろう。だが私はそんなことも知らずに深い眠りへと落ちていくのだった。



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