1.11.説明
私とクルセマ、そして途中から入ってきた赤山と作られた椅子に座っている。本当にこの能力便利だ。だけど私が作り出そうとすると城が出来そう。絶対にやらないけどな。目立つし。
赤山が一番初めに口を開いて話を進めてくれた。
「じゃあ藤屋。まずは僕が質問するけどいい?」
「いいぞ」
「じゃあまず一つ目。転生したってどういうこと?」
「えーと、私はこことは違う日本で生まれ育って、そして昨日? 殺された。で、気が付いたら地面に埋まってて……この世界に浄化遺物として転生してた。転生っていうより転移って言ったほうがいいかもしれないけど」
自分で言ってみてわかったが、明らかに正気じゃない。だけどこれは事実だ。そんな話をしても一切笑わずに私の話を聞いてくれる赤山は案外優しいのかもしれない。でもかわいそうな子だと思われていそうな気もしなくもないが……。
「殺されたの?」
「ああ……不良にな」
「なにしたの……」
「すまん、答えたくない」
ただ興味で女の子助けて、不良に見つかり不良をボコしていたら助けた女の子に殴られて殺されただなんで知られたくもない。自分で言ってて虚しくなるしな。まぁそのおかげで二度目の人生を歩めているわけだが……。
別に未練はないけどあの女だけは一発殴っておきたかったなぁ。今までの怪我で一番痛かったし。
「そ、そっか。じゃあ二つ目の質問。良く生きてたね……どうやってここまで?」
「ああ、それは藤のじいさんに助けてもらってここまで連れてこられた。藤のじいさんからは浄化遺物の事と混餓物の事、あとは波と混餓物と風が戦争中だってことを聞いたくらいかな。あ、でも波の奴らのことはそんなに詳しく聞いてない」
「それでかぁ……神出鬼没な藤さんとよく会えたものだね。強かったでしょ」
「化け物んだろあれ……」
あんなデカいトカゲを簡単にぶちのめすんだからな。化け物より化け物だ。一周回って人間の皮を被った化け物なのではないかと思うくらいに強かった。
ただあの人、隠し事が多すぎるんだよな。殆ど教えてくれなかったし。クルセマに聞いたほうがよかったかもしれないな。
「だね。僕からの質問は以上だよ。今度は藤屋が質問してくれ。君のほうが聞きたいこといっぱいあるでしょ?」
私は初めてこの世界に来てまともに話を聞いてくれる人物に会えた気がします。聞きたいことは沢山あるが……とりあえず混餓物や風、そして波達のことを聞いておきたい。
「じゃあまず混餓物について」
「混餓物ね。混餓物は今から十五年前、太平洋近海に出現した新種とされる生物だったんだ」
それから混餓物についての長い説明が始まった。混餓物は新種の生物として出現し、十五年前は研究対象として乱獲をしていたらしい。混餓物は進化速度が速く、自らが住む島まで作ってしまうという驚異の進化速度だった。ただその島自体が混餓物だというので私は心底驚いた。
研究はとても順調に進み、研究者や政府は膨大な利益を生み出したようだ。混餓物の地にあるもの全てに高値がつき、高額で取引が行われていたらしい。
だがしばらく研究をするにつれ、混餓物は捕獲されまいと進化して人間相手に抵抗をするようになったのだという。そして初めて人が殺されてようやく危険な存在だと認識され始めたらしく、軍隊が動き出した。
自分達の私腹を肥やすために勝手に研究をしておいて、いざ自分達が殺されると逆に脅威対象にして殲滅をするとか考えることがおかしいけどな。
そして殲滅戦が行われたらしい。世界中の兵器を総動員した大規模な殲滅作戦だった。だが結果は惨敗。世界の武器に対応した進化をした混餓物は、日本の四国を蹂躙したのだという。私の世界ではそんなことは一切なかったはずなので、やはり違う世界で起こったことのようだ。今まで平衡世界とか信じてこなかったけど、やっぱりあるんだな……。
そして世界の武器が通用しないとわかった世界政府は打つ手立てがなく何もすることができなかった。だが日本人はそれでは困る。だがどうしようもないことは変わらなかった。
そんな時、日本にいた狩人達が立ち上がったらしい。それが今でいう風となっているようだ。狩人達はその地を浄化する方法を見つけ、数年かけて混餓物の地を地球から消し去ったのだという。完全に消し去れたのは三年前だとか。
「ん? 混餓物の地は消し去ったんだよな? じゃあなんで風達はまだ混餓物の地にいるんだ? そういえば藤のじいさんも元の日本に戻る方法はないって言ってたけど……ん? どういうことなの?」
「そこなんだけどね……これは波と関係があるんだ」
「ここで波?」
「波はね、僕らの住んでいた地球に別世界から混餓物を送り付けてきた奴らなんだよ」
「はい? 別世界から?」
「そうだよ」
混餓物の地の一つに拾の地という場所がある。そこは異世界への入り口で、風が元々住んでいた地球に繋がっていたらしい。それを悪用しようとしたのが波達。波は混餓物との戦いに明け暮れていた。だが流石に戦況が悪くなりつつあり、次第に追い込まれる形になっていたのだという。
そこで発見したのが拾の地の異世界ゲート。これをベールと呼んでいたらしい。実際に空にカーテンのような物があったらしくそこが異世界への入り口だったのでベールと呼び始めたのだとか。
そして波達は、ベールの奥に混餓物の地を押し込めないだろうかと考えて実行したらしい。それは成功し、数年をかけて混餓物の地を押し込むことに成功していた。
だがしばらくして今度は押し返され始めたのだという。その時が丁度、風が浄化方法を発見した時期と一致したらしい。
波達はそれを阻止するべく実際に異世界に赴いて戦闘を仕掛けてきたのだが、その代表がめっぽう弱かったらしく、結局全て押し返す羽目になった。
だがその時、混餓物の地にいる風も一緒に行くことになってしまったようだ。そしてベールは完全に閉じてしまい、風もろともここに閉じ込められたのだという。
ここは波達が元々住んでいた世界。ということになる。
「あの時はあと一歩で混餓物の地をこっちに押し込めるって時に、世界政府は混餓物を逃がさまいとしてまた戦争仕掛けてくるし、押し戻させまいと波達も出撃してくるしでもう大変だったよ……まぁ皆のおかげで何とかなったけどね」
「あれ、私もしかしなくてもとんでもない所に転生してしてしまったのでは」
「何の能力も持っていないのであれば、だけどね。でも浄化遺物でしょ? だったら大丈夫でしょ」
「うん。大丈夫大丈夫」
「いやクルセマ、お前さっきやばいとか言ってたろ」
「今なら大丈夫」
「いやそうなんだけどさ……」
なんだろう。この世界で生活することにとてつもない不安がこみあげてきた。私はこの先生きていけるのだろうか……。
「おお、流石浄化遺物。クルセマ君と話できるんだ」
「ああ。赤山はできないのか?」
「僕はできないね。できるのは雨の風、朱雀さんと宝玉の風、柳刃君くらいかな」
会話できる人少ないな。クルセマ君結構肩身狭い思いしているんじゃないのか? まだ小さいというのに……。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。それより次の質問! 実際これが一番気になる!」
「お、なんだい?」
「能力! あれどうなってんの! 赤山の手は燃えてたし、藤のじいさんは何もしてないのに混餓物ぶっ飛ばすし!」
「ああ、あれね。混餓物を使役しているんだ」
「使役?」
「そうだよ」
混餓物を使役して、混餓物が持っている本来の能力と、使役する人物の潜在能力を合わせた物が実際に具現化できる能力になるのだという。混餓物の使役された方が強くなるし、人は使役すれば能力が手に入る。使役にはいろいろと条件があるようだが……私には関係がないことなので省かれた。まぁいいけど。
赤山が使役している混餓物は『煙爆集気体』という爆発する気体を生成する危険な混餓物らしい。さっきの能力はその煙爆集気体を使った技なのだとか。熱くもないし、爆破による衝撃波も自分には来ないらしい。結構かっこよさそうだ。
それで風達は、自分が使う能力から名前を取って、爆の風だとか空の風といった二つ名を付ける文化があるらしい。となると俺は浄化遺物からとって浄化の風とかになるのだろうか? かっこ悪いな。
「ってことは……使役しないと能力は使えないのか」
「そうなるね。でもそういう人はいっぱいいるよ。そのほとんどは巴の地で生活しているけどね」
「そういえば、その土地の名前もよくわかってないんだが」
「これは口で説明するより見に行ったほうがいいかもね。因みにここは陸の地だよ」
土地は全てで十個あるらしい。虎の地、式の地、巴の地、肆の地、逸の地、陸の地、漆の地、捌の地、玖の地、拾の地。聞いてみるに大字を少しもじったような名前になっているな。わかりやすくていいのだが。
まぁこの土地のことについては見に行って確かめさせていただこう。
「だけどこれは僕達が拠点としている場所の土地だよ。混餓物の地や他の波の地についてはわからないから気を付けてね」
「わかった」
とは言った物の、何をどう気を付ければいいのかはよくわかっていない。とりあえず波のいる場所には近づきたくないな。私が殺されるかもしれないからな……。
「他に何か聞きたいことはある?」
「んー、またその時聞くことにするよ。大体はわかったしね」
「そっか。じゃあとりあえず今日は僕の家に泊まりなよ。今日来たばっかで当てないんでしょ?」
「マジで助かる……」
「お話終わった?」
クルセマは随分暇をしていたようだ。あくびをしている。
私はとりあえず、赤山の家に向かうことになった。今日は一日いろいろなことがあって疲れてしまったので休みたい……。
混餓転生、これから頑張っていきます。