1.9.完成!
私とクルセマはひたすら考えていた。何を考えていたのか……それは私の能力のことである。
そしてまた爆発が起きた。
「わあああああ!」
「ぎゃああ!」
空気大砲は大爆発を起こし、火炎系の技は空気すらも焼き焦がし、水系の技は大津波となって周囲一帯の木を何処かへ持ち去った。
植物は自我を持ち、土は地を揺るがし、石はゴーレムとなった。もう訳分かんない。
今しがたも水を操ってみたのだが、呆気なく爆発して爆風が俺達二人を襲い、転がっていく。
「はぁ、はぁ……」
「ぜー、ぜー……」
「なんで僕まで疲れなきゃいけないの!?」
「知らんがな!」
一気に上半身を起こして私に文句を言ってくる。文句を言いたいのは私も同じなのだが。
だがクルセマもこんなにも威力のある技ばかりで驚いていたし、予想外の事だったのだろう。だがそれで私に八つ当たりはしないでほしい。
「はー……どうすりゃ良いんだ」
「僕もうアイデア無いよ……。僕が使う技全部試させたけど使い物にならないよ……」
「まじかー……」
万策尽きました、ってことだろうな。もういっその事力を使わない方が皆幸せになるんじゃないのだろうか? 転がり回って全身擦り傷だらけでもう疲れた。
寝転びながら風を感じる。先ほど水系の技で大津波を起こしたため木が無くなって風通しが良くなった。
「あれ。そう言えばまだ風試してないな」
「え、ちょっとまって僕離れてるから……」
「ここまで一緒にやってきたんだ! 付き合え……よっ!!!」
「やめてええ!」
風を横になぐイメージで腕を振るう。いつもならこれで台風並みの爆風が俺達を襲う予定だったのだが……少し強い風が俺達の間を通り過ぎていった。
身構えていたクルセマはあっけにとられている。
「……え? 不発?」
「いや、台風の爆風をイメージして操ったつもりなんだが……」
「なんてもの想像しながら技使ってるの!? 今までの経験から言うと竜巻起こってもいいレベルだよそれ!」
そう、そうなんだよ。だから俺も驚いているんだ。いつもならそんな感じで暴発する予定なのだが……なんでだろう?
試しにもう一度風を操ってみるが、また同じように風が通り過ぎりだけだった。
「やっぱりこれはあんまり威力ないな」
「じゃあ……風を使う技を考えればよさそうだね。はーよかったー」
とは言ってもどういう風に技を作ればいいのだろうか。どんなにイメージを強くしても精々強い風を吹かせる程度で終わってしまっている。夏とかめっちゃ便利そう。
いやそうじゃなくて。どうしたら戦闘出来るくらいの技が作れるんだ? 一点に風を集結させてみるとか? ちょっとやってみるか。
台風のほうに強い風を、一点だけに集中させるイメージ。これを先ほど壊しまくった岩にぶつけてみる。技名……んー。よし。
「点風!」
イメージのまま風をぶつけてみると、ボッっという音と共に岩がゴロンと動いた。今までのような派手さは一切ないが、到底人の手では動かせないであろう大岩を動かすことができたのだ。上々ではないだろうか。
「なんかさっきのを見た後だとしょぼいね」
「言ってくれるな……」
「でもこれなら問題なさそうだね! はー疲れた……」
なんだかんだ言って付き合ってくれたクルセマにはとりあえず感謝しておくか。しっかし便利な能力だ。まともに使えるのが風系の能力しかないというのが少し残念ではあるが。浄化遺物って面白いもんだなぁ。
しかし……。私が適当にぶっぱなしまくったせいで地面がぼっこぼこだ。これどうしようかな。
「クルセマ。この地面どうしよう」
「え、天地兄ちゃんならなんとかできるんじゃないの?」
「まじで?」
ということなので、できるかどうかはわからないがとりあえずやってみることにする。イメージは簡単に地面を平らにする感じで。別にこれは技名とか必要ないと思うので、地面に手を当てて普通に念じてみる。
初めてこの大地を見た時と同じような地に戻す。するとイメージした通り地面が綺麗な状態へと戻っていった。掘り起こしてしまった岩などは流石に元に戻すことはできなかったが、これだけでも十分だろう。
今まで掘り起こしてきた土は全て綺麗に戻すことができた。何でもできるなこの能力。
流石にもうクルセマは驚かなくなったな。あれだけ見ていればそうもなってしまうか。とりあえず俺が身を守るときはこの風の力を使うことにしようと思う。
クルセマ曰く、使っているうちに技は思いつくらしい。まぁそりゃそうだわな。今考えている中では点風しかないが、これだけでも十分混餓物には適用するのではないだろうか。
ほかには防御系の技を考えておきたい。風を使って防御ってなかなか難しい気がするけど……まぁ何とかなるでしょう。
「で、これから私はどうすればいいんだ?」
「んーそうだねー。とりあえず坂本からは距離を置いたほうがいいよ。下手したら解剖されちゃう」
「何それ怖い」
「とりあえずはのびのびしていたらいいと思うよー? どうせ天地兄ちゃんの噂聞きつけて風達も集まってくるだろうし」
噂って……その噂が波に流れてしまったらどうするつもりなのだ。私が浄化遺物だということがすぐにばれてしまうぞ?
まぁ情報が流出しなければいいけどさ。それで私の所に挨拶をしに来てくれるんでしょ? 多分。
地面を直した後、疲れはてた私とクルセマは地面に寝そべりながら話をしていた。もうぶっちゃけ暫くここから動きたくはない。
暫くそうして寝転んで休んでいると、遠くから猛スピードで誰かが走ってきているのが見えた。まだ遠目に見ているので容姿などはわからないが、走り方からして男性だろう。あんな乱暴な走り方で向かってくる女の人なんて私は嫌だ。
「クルセマ。あれ誰?」
「え? 馬鹿」
「え?」
近づいてきてようやく容姿がわかってきた。ぼさぼさ頭でとても筋肉質な体を持っている青年だ。筋肉を見せつけるかのように、露出度の高い薄い服を着ている。若くて正義感の強そうな印象を受けるが、手の甲には刺青のような文様が入っていた。
その人物は私の前で急停止して、ドンと足を踏み鳴らしてから大きな声で私に話しかけてきた。
「貴様か! ここで暴れているっていう波という奴は!」
「…………はい?」
「ね? 馬鹿でしょ?」
一体何を根拠に私を波と判断したのか理解しかねる。だがその青年は、自分の意見が間違いだとは気が付いていないようだ。目が本気だもの。
なんか……面倒くさい奴しかいねぇな。此処……。