美海×恵玲奈―聖なる夜に罪の果実を(立成18年12月)
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かくして私は
「いいの?……こんな時期に」
「恵玲奈だって去年は私の部屋来てたでしょ?それに、ちょっとくらい息抜きしたって大丈夫よ」
私の上着の中で、手袋もつけないで繋いだ手と手。そこから伝わる温もりは、肌だけじゃなくて心も温めてくれる。まだ日は照ってるのに、建物に付けられた電飾が、聖なる夜を待ちきれないとでも言うようにきらきらと光っている。行き先は、もうすぐ目の前。
ホテル・エンプレス。空の宮の歓楽街にある女性専用ホテルで、恵玲奈が卒業してから、ここにくる回数は増えたような気がする。何なら、恵玲奈と話しづめてても着けるくらいに。……目的は、そんなの今更。
「美海も星大志望なんだよね、私に合わせてくれたの?」
「家から近いし、……恵玲奈がまた変な人に引っかからないか心配なのよ、あんなこともあったし」
「それは……ごめん」
私より少し小さい体を、さらに縮こませる。私にとっても、苦々しい思い出。私のモノなのに、顔も知らない誰かに穢されたときの、恐怖も、嫉妬も。私の中に、あんなに大きな感情があることも知らなかったほどに、重くて、痛くて。
「別にいいわ、あの時は、私もどうにかしてたし。……それよりさ」
そのときのことは、あまり思い出したくない。気が動転しすぎて、私らしくもなく変なことも散々言ったような気がするし。それから、月に一度はしてたデートも少し頻度が増えて、ときどきあったお泊まりも、ほとんど毎回になって。初めてしたときから体を重ねてたけど、さすがに、その機会も減ってきた。私も受験生になってるからって、デートのときも、図書館で一緒に勉強して、ちょっと買い物して終わりだったし。寂しい、とまではいかないけど、欲しい。今すぐ、恵玲奈のこと。
「な、何?」
「今日は、朝までシたい、……ちょっと、溜まってるから」
「別にいいよ、私も、そのつもりだから」
「恵玲奈もヘンタイね、相変わらず。……私も大概だけど」
ホテルに入ると、ふわりと熱気が私たちを包む。無人のフロントにスマホのQRをかざして、出された鍵を受けとると、繋いだ手もそのままにエレベーターに乗り込む。恵玲奈の体が近づいてきて、顔を寄せてくる。首元につけたチョーカーについたハートの錠前が、ちりちりと鳴る。去年のクリスマスに、私があげたもの。背骨を、電気が走る。私のモノって証、甲斐甲斐しくつけちゃって。クイーンルームのある最上階までは、まだもう少しかかる。
「……多分、私、こうなってないよ、美海と付き合ってなかったら」
「そう?……だったら、責任とって気持ちよくしてあげなくちゃね」
ちょうど、到着を告げるベルが鳴る。まだ日暮れには早いけど、下ろしちゃおうか、私たちの、長い夜の帳を。