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邑×智恵―意外との出会い:立成16年9月

「おはよう、相変わらず早いな、まだ待ち合わせの時間まで10分あるのに」

「そういう邑さんだって、もう待ってるじゃないですか……」

「私はいいんだよ、化粧とかもそんなしないし、持ってる服もあんまないしな」

「服とかは昨日の夜に決めてますし、メイクだってちょっとだけですよ」


 智恵から誘われた、デートの日。文化祭も無事に終わって、しばらくは予定が空くからって、しばらく前に言われてたんだったな。しばらく学校でも会うことが少なかったから、いつもよりも、笑顔が咲いて見える。

 まだ9月も半ばで熱気は残る季節だけど、朝の9時前では風が心地いいくらい。人もまばらな学校の最寄り駅、それでも、智恵の顔を見ると、少し体が熱くなるような。デートのときに集合時間より前に合うのと、ほとんど同じくらい起きるそれに、まだ、違和感のようなものを覚えてしまう。

 それにしても、相変わらず真面目だ、時折、空回りしないか心配になるほどに。……初めて出逢ったときだって、確か生徒会選挙のことで思い詰めて寝不足だったはずだ。


「別にそれはいいんだが、……今日はなんか、いつもと雰囲気違うな」

「そうですね、すこし意識して変えたんですけど、……変だったりしませんか?」

「そんなことはないって、……よく似合ってる。なんか新鮮だな、そういうの」


 見た目は美人のほうが合ってるけど、時折、かわいらしい、年相応なとこも見せてくれる。頬を赤らめて、隠すようにそれを抑えるところとか、手を差し出すと、一瞬戸惑って、それから強く握ってくれるところとか。

 だけど、今日は、少し大人っぽいような感じでまとめてる。黒地に白で何かのロゴが大きくデザインされたTシャツの上に、カーキ色の長袖のシャツを羽織って、下は脚のラインが細く見えるジーパンだ。

 

「そうですか?ありがとうございますっ」

「どういたしまして、……それにしても、いつもスカートなのに、今日はズボンなんだな」


 制服はスカートだし、デートのときもいつもはスカートばかり穿いてるから、こういう智恵は、なんか新鮮。普段よりもずっと、大人っぽく見える。元がきれいだから、


「ええ、……邑さんが穿いてるとかっこいいから、ちょっと私もたまにはパンツにしようかなって」


 最初、パンツって言葉がズボンのことを表すのを知らなかったとき、言われたときは、少しぎょっとした。今はアクセントの違いで分かるようにはなったけど、まだ少し心臓に悪い。

 ……そっちは、どういうの着けるんだろう。邪な考えが一瞬浮かんで、慌てて振り払う。


「そうなのか、……別に、私はそういうの意識してないのに」

「邑さんは元がかっこいいからですよ、肌も白いから羨ましいです」

「それなら、智恵は何着せても似合うな、元が綺麗だから」


 言葉を紡ぎ出してから、気恥ずかしさで顔が熱を持ち始める。正面を見ると、耳たぶまで赤く染めた智恵

がうつむいて、意地悪とでも言いたげな目で上目遣いをしてくる。そういう顔も、好きになってしまえるのも、大分ずるい。


「そういうこと、簡単に言わないでくださいよ……」

「悪いな、つい」

「別に謝らないでくださいよ、……私が、ただ勝手に舞い上がっちゃうだけなんですから」


 私の言葉で舞い上がるってだけで、こっちにも熱が伝染する。このままだと、多分何もできない。少し強引に手を取って、話を切り替える。


「それでも嬉しいから、いい。……今日は、どこ行くんだったか?」

「あ、えぇっと、とりあえず熱幕まで行きましょうか」

「わかった、そっちなら割と何でも揃ってるからな」


 握り返された手の感触を確かめてから、気持ちゆっくり足を進める、少し下を向くと、私の隣も、色違いだけど似たデザインのスニーカーで、デニムの青が同じ速さで動く。

 何となく、くすぐったい。自然と、頬が緩んだ。

 

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