智恵・恵-青春の悩み:立成16年11月
「それにしても、こんなとこわたしが入っちゃっていいのですか?」
「大丈夫、一応私のとこだし……、職権濫用かもしれないけどね」
お昼休みに二人で話したくて、仲のいい友達が多いしほーさんを借りた。文化祭も終わったから、昼休みにまで生徒会室に行く必要があるほど忙しいわけでもないし、万が一他にいるとしても、会長室なら生徒会長である私以外は先生でもないと鍵を使えない。これから話したいことは少しデリケートになるから、あまり人には聞かれたくない。そうなると、使える場所はおのずと限られてくる。
生徒会室からパイプ椅子を2本持ってきて、隣り合うように机の前に置く。革張りの一人掛けのソファーを目の前に見る。なんだか社長室にでも置いてありそうなくらいに威厳があって、普段は座ってもなんかそわそわしちゃってすぐに立ってしまうほど。
「それで、こんなことまでして話したいことって?」
「ああ、そうだね、……お互い、難儀な恋をしちゃったねーって」
しほーさんの恋人に関しては、ある程度のことしか分からない。中1の子で、どうやら多重人格なんじゃないかって言われてるっていうことしか。もしそうだとしたら、……私も人の心については勉強してるけど、よほど心に強いストレスがかかっていたことくらいはわかるようになってきた。
かくいう私も、難しいことを抱えた恋人がいるのは一緒だ。邑さんに聞いた話もあるけれど。……保険室で少し相談をしていたとき、それよりもっと重い過去を、高城先生から聞いた。相変わらず優しすぎて、一人で全部抱え込んでしまうことが不安になる。
「難儀って、……わたしのほうはともかく、江川さんも?」
「ええ、ちょっと辛い過去を持ってて、……十さんも、心のこと、いろいろあるんだよね……?」
「まあ、……そうですねぇ」
二人でお泊まりしたとか、文化祭のときにキスしてたとか、……実は、ちょっと羨ましい。どうしたら、そんなふうに積極的になれるのか、知りたくなってしまう。触れたいけれど、触れられない。窓から見える冬晴れの空ほどに、すっきりとはいかないのが現実。
「それで、どう進めばいいか、あんまり分からないんだよねぇ……」
下手に黒い過去に触れてしまえば、一番大事にしたい人を、何より深く傷つけてしまう。春先にお付き合いを始めて、もう半年くらい建つ。キスならしたし、デートだってしたけれど、進みかたとしては亀の歩み。
「あぁ……、わたしも普段よりもいろいろと考えてしまいますねぇ」
「普段のしほーさんなら、「困ったら突撃なのですよ~」とか言ってそうなのに……」
「そ、そんなことねーです、……って言いきれないのが困りものなのですよね……」
自然に笑い声が零れてしまって、なぜかしほーさんまでつられている。二人っきりの部屋に、弾けた笑い声が二つ。
なんにも進んでないけれど、こういう風に話をするのも、なんだけちょっと楽しいような。もっと、二人で話しても面白いかも。恋の話だけじゃなくて、もっと他のことも。
今回のゲスト:四方田 恵
制作者:坂津眞矢子さん
登場作:この世界で 生きていく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/798310137/39145377)
智恵さんとの2-2時代のクラスメイト。情に篤く、時々壁をぶち壊す勢いで何かに突っ込んでいくのも魅力の一つ。
恵さんがメインで出てくる話でも登場させてもらい、二人の恋人が共通の過去を抱えてるため一度はこちら側でも出してみたかったのです。明確な答えを出してないのはその答えはそれぞれだということを意味してたらいいな。はい。