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星の光が照らす花。  作者: しっちぃ


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20/20

雛×清美一ハーデンベルギア:『運命の出会い』(立成20年9月)

「学校なのに、なんか全然違うとこに来たみたい」

「うん、……お祭りって感じすごいもんね」


 小学校でも文化祭みたいなのはあったけど、そんなのとは比べものにならないな。普段の教室も、オシャレなカフェみたいになっちゃって。飲んでるのは清美ちゃんもわたしも、大人っぽくコーヒーじゃなくて、ミルクたっぷりのカフェオレだけど。


「もうちょっと時間あるけど、どこ行こうか」

「あのさ、……文芸部のとこ行かない?けっこう恋愛モノ多いみたいだし」

「いいかも、……よかったよね、この時間がおやすみで」

「そうだね、今日のうちに気になるの見とかないと」


 文化祭のしおりとにらめっこしながら、行けたとこにマークをつけていく。趣味が近いから自然と行きたいとこも近くて、自然と今日に行くとこもまとまってて。こんな人、清美ちゃんしかいないんだろうな。


「ごめん、ちょっとトイレ行くね」

「うん、わかった」


 ふわふわした気持ち、一人になっただけで急に薄れてく。その代わり、どうしようもなく、心の中が暗く冷えていく。クラスも部活も寮のお部屋も一緒だから、一緒じゃない時間はちょっと不安になる。自分から離れるときはそこまで感じないのに、……なんて、ぜいたくな悩みだな。分かってはいるけど、どうしても、胸の奥がきゅぅってしまる。


「ねぇ……」


 わたしばっかり、空回りしてないかな。どれだけ清美ちゃんが『好き』って言ってくれても、満たされてくれない。まだ、かな。もしかして、……そんなわけないって頭のどこかは言ってるのに、別のどこかは、ずっとおびえてる。わたしがわたしのこと、好きになれないせい。清美ちゃんのこと、信じられないわたしも。清美ちゃんの隣にいるの、わたしよりもっとふさわしい人がいるんじゃないかって。想像しただけで吐きそうになるのに、マイナスに振り切れがちな頭は容赦なく悪夢を見せてくる。


「わたしで、……いいのかな」


 こぼれた言葉が、どうしようもなく考えを押し込んでく。このまま、清美ちゃんがわたしのそばからいなくなったら。そしたら、……きっと、わたしが生きてる意味すら無くなっちゃう。胸の中、痛くてしょうがない。


「ごめん、ちょっと混んじゃってて」

「清美ちゃん……、いいよ、それくらい」


 張りつめた気持ちが一気にゆるむ。なんか、泣いちゃいそうになってたの、落ち着いてようやくわかる。ダメだな、わたし。優しいのも好きでいてくれるのも、分かってるはずなのに分かってない。


「ん……どうしたの?」

「なんでもないよ、ほら、行こっか」

「うん、だね」


 なんでもないふり、わたしのクセになっちゃってる。清美ちゃんは優しすぎるくらい優しいって言ってくれてるけど、ただ、嫌われたくないから波風を立てないようにしてるだけ。つなごうと差し出してくれた手、思ったより強く握り返しちゃってる。……気づいちゃうよね。こんなの。だって、清美ちゃんのほうが、わたしよりもずっと優しいから。

 廊下に出ると、色とりどりのクラスシャツたちが波のようにやってくる。……世界が、清美ちゃんとわたしのふたりきりだったらよかったのに。そしたら、誰かに取られちゃうんじゃないかなんて、考えなくていいのに。なんて、わたししか思ってないのに。つないでる手、またきつくにぎってる。変だな、わたし。


「……ちょっと、いい?」

「どうしたの?」

「……ごめん、ちょっと人酔いしちゃったみたい」


 いちばん人がいない時間なのに、こんな単純な言い訳をして。本当はただ、ふたりきりになりたくって。……気づかれちゃうかな、嫌われちゃうかな。どんなに『すき』を伝えてくれても、足りない。……なんて、わがままだよね。わたしが満たされないだけで、清美ちゃんは悪くないのに。優しさでときめいても、ちょっと何か起こったら忘れたように不安になって。穴の開いたカップみたいに、どれだけもらっても下からこぼれてくだけ。ごめんね、めんどくさいよね。分かってても、止まらないの。わたしが好きになってもらえてる理由、まだちゃんとわからないから。


「じゃあ、ちょっとお外で休もっか」

「うん、ありがと……」

「いつものとこでいいかな?誰も来ないし」

「うん、……そうしよっか」


 二人きりになりたいなんて言ってないのに。わたしのしてほしいこと、心を読むみたいにわかってる。こんなんでほっとするの、本当にわたしって単純だ。

 出し物があるからか、中庭もいつもより人も多いけど、はずれにある並木道には誰もいない。それでも、木陰に隠れるようにして、ようやく手を離して、向き合える。


「ね……清美ちゃん」

「……ひなちゃん?」


 見上げてくれる顔、相変わらずかわいい。さらさらな黒髪に、すべすべな白い肌に、つい吸い寄せられちゃってる。背中に手も回しちゃって、なんだろう、ひとりじめしたがってるって感じ、自分でもちょっとあきれちゃう。


「ごめんね、連れ出しちゃって」

「ううん、……ちょっと、嬉しかったな」


 ……なんで?『うれしい』のはずなのに、頭の中で浮かんだ『?』が離れてくれない。こんなことしてるの、わたしが、清美ちゃんのこと信じられなかったからみたいなものなのに。


「……なんで?」

「だって、……甘えてくれるの、嬉しいもん。私には特別って感じして」


 満面の笑みって言葉が似合うような笑顔で、そんなこと言うの、ずるい。見上げてくる目、きらきらしてる。こういうとき、どうすればいいんだろう。分かんない。恋愛モノの主人公は、こんなことで悩んだりなんてしない。


「そうかな……」

「うん、そうだよ。それにさ、……えへへ」

「……清美ちゃん?」


 はにかむ顔もかわいいの、ずるいけど、すき。顔、赤くなっちゃってるのも、かわいくてたまらない。こんなとこ、他の人には見せないで。よくばりなとこ、どんどん広がってっちゃう。


「ひなちゃんの事、ひとりじめしたいな、……なんて、ひなちゃんも同じこと、思ってくれてるかな」

「……実は、わたしもなんだ、……清美ちゃんもだったんだね」


 きゅんってしすぎて、痛いよ。憧れてた恋って感情はきれいなだけじゃなかったけど、わたしの好きな人も、おんなじだったんだ。いけない気持ち、なんだかわからないままわいてくる。


「それならさ、ねぇ」

「なぁに?」

「……心も、二人きりになっちゃおうよ」


 いたずらっぽく笑いながら、清美ちゃんのほうから顔を寄せてくる。……こんなとこも、おんなじ。ずるいよ。どれだけもらってもこぼしちゃうのに、あふれるくらい『すき』をくれるの。


「うん、……いいかな」

「いいよ、……ひなちゃんが満足するまで、おいで?」


 首の後ろに回してきた手、ちょっとじっとりしてる。目も、ぎゅって閉じちゃってる。清美ちゃんも、ドキドキしてくれてるんだ。不安がふわりと溶けて、心の中にぬくもりだけが残る。ゆっくり息をして、顔を傾ける。


「「ん……っ」」


 ふにって感触が、体中に伝わる。溶けそうなくらい熱くて、しびれる。……でも、ごめんね。どれだけ感じても、満たされないかも。


「ふ、……ちゅ、……ちゅい、……ん、はむ」

「……ん、……ぁ、はぁ、……ねぇ、……っ」


 ふれあうだけじゃ、おさまらない。じれったい。柔らかいくちびるを味わうように、ふれ方を変えてみる。こぼしてくれる声も息も、とろけてかわいくなってく。


「ん……、はむ、……ちゅぃ、……ちゅ」

「……ちゅ、……、っ、……ん、……は」


 わたしのわがままなとこも、受け止めて、あっためてわ甘えさせてくれる。甘えるのに慣れてないから、つい寄りかかりすぎちゃう。そのことに、ぴくって震えるのが手から伝わってようやく気づく。


「……清美ちゃん」

「もう、ひなちゃんってば」


 ごめんね、が出かかる前に、清美ちゃんのほうから言葉をつながれる。飴玉みたいに甘ったるい声に、とろんってとろけた顔。……わたししか知らない、清美ちゃんのかわいいところ。心の中、そのままこぼれちゃう。


「かわいい、……嬉しい」

「えへへ、……ひなちゃん、大好き」


 離れたくないな、……このまま、くっついちゃえばいいのに。抱き合う手は、まだ背中に回されたままで、優しくなでてくれる。


「うん、……好き、すき……っ」

「……もうちょっとだけ、こうしてよっか」

「……うんっ」


 してほしいこと、全部分かってくれる。……ずっと夢見てた運命の人って、清美ちゃんのことだったんだ。なんて、うぬぼれてもいいよね。

 まだ涼しくなりきってないのに、清美ちゃんのぬくもりは、あったかくて心地いい。

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