雛×清美一スズラン:『幸福の訪れ』(立成20年6月)
「……今日は、もうおやすみしよ?」
「うん、……おやすみなさい」
「おやすみ、雛ちゃん」
清美ちゃんの腕の中、あやすように背中を撫でてくれる手が優しい。わたしのこと、優しいって言ってくれるけど、清美ちゃんのほうがずっとそうなのに。……妹にはずっとしてあげてたけど、……お母さんがしてくれたときのこと、思い出しちゃう。でも、そのときとは、似てるようで違う。胸の中、ほわほわするっていうか、くらくらするっていうか。疲れを自覚しちゃったせいか、思ったよりすとんと眠気がやって来る。体が縮こまって、ここまでくると、清美ちゃんのにおいがわかっちゃう。寝てるときに付けてるっていうコロンの香り、森の中みたいで落ち着く。
「雛ちゃん、……まだ、起きてる?」
答える元気も、もうないや。起きてると寝てるの間、ほとんど寝てるのほうにきちゃってる。……すん、って、清美ちゃんの息も深くなる。体、なんかほわって熱くなってる。ドキドキしてるのかな、……心臓の音までは聞こえないけど。……ちょっと、目、覚めちゃいそう。
「雛ちゃん、……すき、だよ」
不意打ちみたいな言葉、熱い。……知ってるようで知らなかった気持ち。わたしが、ずっと憧れてた気持ち。まっすぐな清美ちゃんがこぼす、ほどけきった声。耳にかかるだけでときめいちゃいそうなくらい。純粋でまっすぐな清美ちゃんの気持ちが、受け止められそうにないくらい伝わってくる。わたしの気持ちに敏感なとこ、今はどうしていいかわかんない。
寝てるふり、しなきゃ。わたしに聞かれてないから、つい言葉に出ちゃったはずだし。今、起きてるの気づかれちゃったら、きっと清美ちゃん、恥ずかしくてどうにかなっちゃうよ。だから、心の中だけで。
……清美ちゃん、……わたしも、すきだよ。
その二文字は、魔法みたい。わたしの中でドロドロになるくらい熱い感情に、型をはめてくれる。清美ちゃん、……わたしのこと、好きでいてくれてるんだ。……わたしと、同じくらい。もしかしたら、わたしよりもずっと。ぎゅってしてくれる手が、熱い。
さっきとは違うほわほわが、体を満たしてくる。安心しきったからかな、眠いっていうのもあるけど、そうじゃないのは、なんとなくわかってる。
「雛ちゃん、……」
もう一回、わたしを呼んでくれる声は、熱っぽい。『すき』が、勝手に頭の中で流れてくる。今は言えないけど、いっぱい伝えてあげなきゃ。わたしの気持ちも。くすりと、自然と笑みがこぼれる。
ふわりと包んでくる眠気に、ゆるく身を任せる。……そっか、わたし、……今、すっごく幸せなんだ。