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清美×雛:サクラソウ-淡い恋(立成20年7月)

「うーん、ちょっと違うなぁ……」

「どうしたの?清美ちゃん」


 脱衣所で、早速横髪を鼻に近づけてみる。いい香りだけど、……なんか、違う。お風呂場のかおりと混ざっちゃってるせいかな。仕上がりも普段よりしっとりしてて落ち着かないけど、落ち着くけど落ち着かないあのかおりとは、ほんのちょっと違う。


「ごめん、部屋戻ったら話すよ」

「そう?……なら、いいけど」


 この場で比べられたら分かるんだろうけど、……想像しただけで恥ずかしいな。それに、ひなちゃんのほうが背が高いから、髪のかおり、うまく感じられるような状況ってほとんどないし。それこそ、……私が『すき』に気が付いたあの時みたいな。


「別に重たい話じゃないよ、……でも、さ」

「……分かるよ、わたしも」

「戻ろっか、……」


 ほっぺが赤いの、お風呂上がりなせいじゃないのは、分かってる。ふとした瞬間に気づいちゃう、距離、最初とは全然違うなって。なんとなく憧れてた気持ち、もう、心の中にある。すこし熟しきってないいちごみたいに甘酸っぱくて、いくらでも味わってたくなる。恋人どうしって、こんな感じなんだ。なんとなく、何も言ってないのに、手がつながる。見つ目合ってほほ笑む顔が、かわいくてしょうがなくなる。


「……なんか、これだけで嬉しくなっちゃうね」

「うん、……えへへ」


 まだ、部屋に着いてないのに、二人きりでいるときみたいに、すきだらけ。いつも、野うさぎみたいに周りのこと気にしてるのに、……私といるときは、気にしなくなってくれてる。甘えるのは、まだ苦手みたいだけど。

 最初と変わらないはずなのに、もう、その時と一緒じゃいられない。何もかもに、幸せが入り込んでくる。暑いから、水出しにしたハーブティーを二人で飲む。その後の、ゆるやかに落ち着いてく気持ちの中に、からりとした会話が入り込んでくる。


「そういえばさ、さっきのって何だったの?」

「……ひなちゃんと同じシャンプー使わせてもらったけど、ちょっと違うかおりだなって」


 不意に、顔が近づく。思わず目を閉じちゃうけど、髪のあたり、すんすんって嗅がれてる。私もしちゃってるから言えないけど、……なんか、ちゅーより恥ずかしいよ。


「もう……、そうなの?でも、すっごくいいかおりするよ」

「そうかな、って、ひなちゃん、そんな嗅がないでよ……っ」

「いっつも、わたしの匂い楽しんでるのに?」

「それはごめんだけど、でもさぁ……」


 こういうとこ、なんか、ひなちゃんらしくなくて、……どうしようもなく、きゅんってしちゃって。二人きり、ようやく顔を離してくれるけど、……ふわって、顔が近づく。目線が重なる。私からも近づけてみて、くちびる、ふにって重なる。


「いいよ、……そういうとこも、好きだし」

「うん、ひなちゃん……」


 ちょっといじわるなとこ、私も好きだよ。お返ししてみようかと思って、その言葉は出ないまま、胸の中にすっと溶けてく。

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