はじめ・帆乃花―雨の日のトレーニング(?)(立成19年8月)
「相変わらず強いなぁ、どうやったら勝てるの?」
「はじめちゃんすぐ顔に出るもん、ポーカーフェイス身に着けたほうがいいんじゃない?」
突然振り出した雨で、練習が流れてしまった。有り余った体力をちょっとでも使おうかと、帆乃花ちゃんのベッドに並んでゲームをやることになった。どうせならちょっとでもソフトボールに生かせるように、2頭身にデフォルメされたキャラでおなじみの野球ゲームで、今はお互いに好きなチームを選んで対戦中だ。
「そうかなぁ……、顔には出さないようにしてるんだけど」
「動揺してるの丸わかりだもん、それに困ったらすぐに低めの落ちる球に頼るから読みやすいし」
「えー?……帆乃花ちゃんは本当に配球読ませてくれないよね」
「まああたしはそれが本業だからね、バッターに読まれたら誰の球でも打たれちゃうもん」
ピッチャーだって一応配球は考えてるんだけどなぁ、ってぼやくと、「はじめちゃんは低めにばっかりじゃん、高めも使わないと」って返される。私が操作してるピッチャーの球を、また軽く左中間深くまではじき返される。六回裏の二アウトで、スコアは1-11。ソフトボールの試合だったらとっくにコールドゲームになってる点差に、ちょっとげんなりする。
「ねー、もう降参するから他のモードやらない?」
「しょーがないなぁ、まあこれ以上いじめたらしばらく立ち直れなくなっちゃうもんね」
「さ、さすがにそんなヤワじゃないって!」
そこはさすがに否定するけど、……本当にそうじゃないかっていったら、そこまで言えるかはわからない、かも。現に、「ホントかなぁ~?」なんてからかってくるし。
わたしだって、ちょっとは自信ついたはずなのにな。この前の県体だって、決勝で投げて一失点で完投できたし。そりゃ、毎回ピンチにしちゃったし、七回で帆乃花ちゃんと紀香ちゃんの連続ホームランがなきゃ負けてたし、……何より菜々花さんが励ましてくれてたからだけど。
「そうかなー……、まあ練習試合のときピッチャーズサークルで固まってたときよりはまともになったんじゃない?」
「それ中学のときの話じゃんっ」
「冗談だって、結構おっきくなったと思うよ、最初ガッチガチの時もちゃんと取れるとこに投げてくれるようになったし」
「ねぇ、やっぱり褒めてないよね!?」
「へへ、どうかなー?」
からかいながらも、手際よく育成モードに切り替えてくれる。途中だった帆乃花ちゃんっぽく再現してるキャラのデータに進んで、……やっぱり、ちょっと誇張されてる気がするけど。
キャッチャーは女房役とはよく言うけど、わたしは尻に敷かれっぱなしだろうな。お付き合いをしてる人がいるのに、そんなこと考えるのはよくないかな。しょっちゅう送球が逸れちゃうくせに、エラー回避の能力を一番上に上げてるとこを見ながら、思わず苦笑いがこぼれた。