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【教職員回キャラクター紹介短編】和―『待つ』

 今日の予約を確認しながら、カルテを確認する。昼休みに一人と、放課後に三人。それと、二限目に隠れるようにやってくる子。……今日で、もう四回目。メモ書きは、まだ真っ白。

 ……つくづく、この仕事は待つことだらけだ。自分で来てくれるか、保健医の紹介に素直になってくれなきゃ、まずカルテすら出せない。そのハードルを過ぎても、あたしに心を許してくれることやら、自分を伝えてくれることやら、あたしが手を差し伸べてやるには、超えてくれることを信じて待つしかないことが呆れるほどある。


「……あん時のあたしが見たら、何て思うんだろうな」


 ……踏み出して手を掴むのが、正しいと思ってたあの頃。引っ張ろうと差し出した手で、突き飛ばしてたっていうの、今だったら分かる。そういうものじゃないって、理論でも実践でも味わった今の自分からしたら、相当に青臭い。けど、そこから、あんまり変わってないんだろうな、あたしを作ってる本質は。動いてくれるのを見守るしかないの重々分かっていても、そのゆっくりとしたペースが時々もどかしく感じるとことか。


「分かってても、……もう、しょうがないか」


 今のあたしなら、あの人を救うことはできただろうか。相手から、手を伸ばすことを待てるようになった今なら。

 ……過去に囚われないようにって言って聞かせてる身で、昔の自分に手を引かれる。……あの子の雰囲気が、なんとなくあの人に似てるからだろうか。……なんて、また心を軽くするためのことと反対のことして。詮無いことだってことは、自分が一番わかっているのに。

 考えにふけっていても、時間は否応なく過ぎる。一限の終わりのチャイム、そろそろ、迎える準備をしてなきゃな。冷蔵庫の中のジュースとお菓子を確認して、……そういや、まだ手つけてもらってないな、あの子には。待たせたと思わせないように、受付のところで控えておく。繊細すぎる心には、そよ風でも強すぎるから。


「……さて、そろそろかな」


 二限開始のチャイムの後、何かから隠れようとする、小さな足音一つ。最初は、保険医の先生に連れてこられてたのに、今日は、一人で来てくれたんだな。多少は進もうとしてくれてるのかな。思わず、頬が緩む。

 ドアの前で、逡巡してるような足音。……ここまで、手を伸ばしてくれたんだ。あたしから、手を引っ張ったって、罰は当たらないでくれるだろうか。

 そっとドアを開けるだけでも、少しビクっと肩を震わせる。何があったのかは、知識では知ってるけど、痛みの強さは、まだ伝えられてない。


「……よく一人で来てくれたね、疲れちゃうから、こっちで椅子に座らない?」


 首を、縦に小さく振ったのがわかる。ゆったりと個室に歩いていくと、おどおどしてるけど、ついてきてくれるのがわかる。

 伸ばしてくれる手、つかんでくれるまで待つことは、まだ苦手だけど、……いいよ、いくらでも。吐き出せると思えるまで。

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