由佳里×ひかり―光は。(立成18年2月)
二月九日、私の誕生日。私のためにパーティーだって集まってくれて、……それが過ぎたあと、お祭りみたいな騒ぎも過ぎて、ひかりちゃんと二人きり。あとは、お風呂に入って寝るだけで。どうしても、自分の過去を振り返らずにはいられなくなる。
……本当の誕生日を、私は知らない。両親の顔も、名前も。どうしても胸の中に引っかかる、変えようがない事実。優しい人に恵まれて、大きく真っ直ぐ育ったけれど、……幸せなのに、その輪の中に、私の両親は居ない。私を産み落として、何も言わずにどこかに行ってしまった。
「……由佳里ちゃん、どうしたの?」
恋人同士になってから、大人びてきた声。心配させちゃってるな。そういうつもりじゃないのに。気づかせなかったのに、私だけの問題だから。
「大丈夫、ちょっと考えごとしてただけだから」
「ならいいんだけど、……ちょっと、寂しそうな顔してたから」
そういうとこも、お見通しか。ひかりちゃんには、私はまだ大人じゃないとは言ってるけど、……ちょっと、負けちゃってるかも。私、結構子供だよ。想像するよりも、ずっと。
「そう?……うん、そうね、……昔のこと、思い出しちゃった」
「そっか。由佳里ちゃんでも、抱え込んじゃうことあるんだね」
「もう……、私だって、ひかりちゃんとそんな変わんないよ?」
思いこむし、悩みだってするって。特に、私の心の中にある、どうしても埋められない欠落感は。体の中に、穴でもあるみたいな。ほかの人にはあるものが、私にだけないような。……そんなの、普段は気づかないのにな。
「いいよ、甘えてくれても。……わたしのほうが、いっつも甘えてばっかりだもん」
そんな事、今言うことじゃないから。知ってか知らずか、触れないでいてくれる。大好きだよ、そういう、優しいとこ。
「いいの?……じゃあ、思い切り、甘えちゃおっかな」
きつく抱きしめる体は、柔らかくて、シナモンを入れたホットミルクのにおいがする。甘くて優しいぬくもりが、今の私にはちょうどいい。
「もーっ、由佳里ちゃん、苦しいってぇ……っ」
「ご、ごめんっ、……ちょっと、きつくしすぎちゃったね」
「そんなに、寂しかったの?……言ってくれればいいのに」
「今は言いたくないって言ったら、わがままかな?」
あっためて、私のこと。湯たんぽみたいな柔らかいぬくもりがいい。ちょうど、これくらいの温度。
「いいよ、待つから。……言いたくなったら、教えてほしいな」
「ありがと、優しいね、ひかりちゃんは」
昔、言われたっけ。私が見つかった日は、生まれてくることを神様が喜んでくれた日だって。だから、みんなもそれを祝ってくれるし、喜んでいいって。もう誰が言ってくれたか忘れちゃったけどその言葉だけは、はっきり覚えてる。
だから、いいの、今はこれで。私の中に無いものは埋まらなくても、それよりもずっと大事なものが、ここにあるから。