由佳里×ひかり―焼きもち。(立成17年2月)
「相変わらず、いつもかわいいねぇ」
「ふふ、そうね」
ひかりちゃんが猫好きだと知ったのは、私の家にいる猫の写真を見せたとき。お母さんってば、捨て猫とか捨て犬とか見るとすぐ拾って帰っちゃうんだから、なんて笑うと、ころころ笑うのが見える。その後に、「わたしも猫ちゃん飼いたいけど、お家狭いんだよねぇ」なんて口をとがらせるのも、なんかかわいい。それで、うちに連れてって見せてったのが、こんなに仲良くなるきっかけだったんだよね。初めはおどおどしてたのに、いつの間にか一緒にいるのが自然になってる。
……本当に、生きてたら、どうなるかわかんないな。私も、施設にいたのを、今のお母さんに拾われてなかったら、そもそもこんな出会いなんてなかったわけだし、どこか不安げだったひかりちゃんも、一緒にいるのが自然どころか、誰よりも一緒に居たい、特別なつながりになって。……まさか、猫に焼きもち焼くなんて、思わなかったな。にやけながら膝に乗っけた黒猫を撫でてるとこを見て。
「本当、猫かわいがりしちゃって……」
「いいでしょ?由佳里ちゃんだっていっつもなでなでしてるんだし」
「そうだけどさ、……すっごくいい顔するね、うちの猫といると」
「それも、由佳里ちゃんもしてるよ?」
きょとんとした顔、まだ、気づいてくれないでくれてよかった。私だって、まだ大人にはなれない。それでも、背伸びしたいのはおんなじ。寒い時期、猫用の部屋には床暖房が効いてるから、よく入るんだけど、これからは控えようかな、ひかりちゃんが泊まりに来てくれる日は。なんて、するはずのないことも思い浮かべるくらいに。
「そう?……そろそろ、お風呂入ろっか、ちゃんと手洗おうね?」
「いいけど、どうしたの?急に」
「いつまでも甘えたいのはわかるけど、猫って人よりもよく寝るから、ね?」
「う、うん……」
ただ、うちの猫たちと引き離されるからってだけってだけじゃなさそうな、切なげな声。大人げないのは、私のほうなのに。
少し早足で、私の部屋まで戻る。余裕がなくなっちゃうの、言い訳には、したくないけど。やっぱり、ひかりちゃんに抱いてた気持ちに、気づいちゃったせい。
……わかってる。ただの私のわがままだから。ベッドサイドで呼ぶと、子猫みたいに素直に寄ってくれる。それをそのまま抱き寄せて、ベッドに倒れ込む。
「……ごめんね、さっきは、いじわるしちゃった」
「由佳里ちゃん、……もしかして、猫ちゃんに焼きもちやいちゃった?」
「……うん、そう、……かな。ちょっと、大げさすぎだよね」
「ううん、……なんか、かわいいっ、……由佳里ちゃんも、オトナじゃないんだなって」
……ひかりちゃんのほうが、ずっとかわいいのに。触ったらもちもちしてそうなほっぺも、屈託のない、きらきらした笑顔も。心の中に、すうって入り込んでくるような態度も。
「言ったでしょ?……私だって、大人じゃないって」
「普段そうじゃないから言ってるの、……でも、嬉しいな」
「どうして?」
「焼きもちやいてくれるくらい、好きでいてくれてるってことでしょ?」
だから、もう子供じゃないってことも、時々忘れそうになる。私と同じように、大人に一歩ずつ近づいてきてる。きゅうって、心臓の奥が高鳴る。私の中の、言い逃れできないほどに恋してるとこが、ふっと表に出る。
「……好き、そういうとこ」
「もう、由佳里ちゃんは」
近づいた顔。もう、考えられるのは一つだけ。預けるように、目を閉じる。来てほしい、その気持ちに応えてくれるか待つのは、思ったより長い。
「わたしも、……好きだよ、由佳里ちゃんのそういうとこ」
ふにふにと柔らかい唇が、一瞬、触れる。しっとりとした感触が、胸の奥で蕩けてく。だめになっちゃいそうだな、私。その光に、ほわりとあっためられて。
「……お風呂、入るんでしょ?」
照れ隠しみたいにつんとした声と裏腹に、顔は真っ赤。余計に甘えたくなるのは、ぐっとこらえた。