志乃×有里紗―その先は、おたのしみ。(立成17年11月)
ぼうっとした意識の中で、嗅ぎ慣れない甘いにおいが辺りを包む。お布団の中の柔らかいぬくもりで、ようやく思い出す。……そっか、今日は有里紗ちゃんのとこで寝てたんだ。一緒のベッドで寝ようって言ったのは、どっちだったっけ。寒いからなんて言い訳して、本当の気持ちは言えないまま。
「んん……?」
寝返りを打って、有里紗ちゃんと向かい合うように横になる。全部忘れたような無防備な寝顔が、いつもよりかわいく見せる。明るくて活発で、時折ちょっと厳しいときもあるけど、……見慣れない、優しくて、緩みきった顔。
近づくと、甘いにおいがもっと濃く香る。そっか、……有里紗ちゃんのにおいなんだ、これ。そう考えちゃうと、胸の奥が、勝手にドキドキを増やしてく。
「有里紗ちゃん?まだ、寝てる?」
返事はない。あったら、もう起きてるもんね。目、閉じてるとこ見ちゃうと、なんか、……ちゅー、したくなっちゃう。だめなのは、わかってるけど、……なんか、初めてしたときのこと、思い出しちゃう。有里紗ちゃんが何故か寝ちゃって、それで、魔が差した、っていうのかな。
もうちょっとで、目覚ましも鳴っちゃう。今日は練習あるって言ってたでしょ、もう。揺するのも気が引けるし、……あの時を思い出しちゃったら、体が、急にあの感覚を欲しがる。いい、かな。……いい、よね。もう、恋人同士だし。耳元に顔を寄せて、優しくささやく。
「……起きないと、ちゅー、しちゃおっかな」
もう一回、顔を見つめると、うめき声と、まぶたが震えてる。起きてくれたかなと安心するけど、まだ、目を開けてくれない。
口元が、軽く開く。「おはよう」とか、「だめっすよ、せんぱい」みたいな、そんな返事を期待してたのに。
「……あたし、まだ、起きてないっすよ……?」
そう言うってことは、もう起きてるってことでしょ?……なんて、からかいたくなるのをこらえる。相変わらず、有里紗ちゃんは、甘えるのヘタだなぁ。そういうとこが、かわいいんだけど。
「そう、……じゃあ、遠慮なく」
そう言うと、探るように、背中に手を回してくる。やっぱり、起きてる。寝てるふりなんてしなくても、ちゅーなんて、いっぱいしてあげるのに。
でも、妙にドキドキしちゃうな。好きにしていいって思っちゃうと。無防備なとこにするのって、イケナイこと、してるような気がする。もう、最初から、顔は近い。お互いの息遣いが聞こえるくらいに。
「「……んっ」」
ちゅ。ほんの一瞬で離して、目を開けると、視線が重なる。思わずほっぺがゆるむ。今日も、かわいい。ちょうど鳴った目覚ましを、腕だけでもぞもぞと止めようとするのを見て、うちが代わりに止めてあげる。
「……おはようございます、志乃せんぱい」
「有里紗ちゃん、おはよー、……えへへ」
「何笑ってるんすか、もう……、早くご飯食べに行きますよ?」
「わかってるよ。」
有里紗ちゃんがかわいかったから、なんて言ったら、ほっぺ、すっごく赤くなっちゃうんだろうな。それもかわいいんだけど、今日は、言わないでおく。明日は、練習もお休み。……甘い言葉も、声も、……多分、今日はいっぱい聞ける。