志乃×有里紗―掴んだ星を胸に当て。:立成16年12月
しのありクリスマス編。
「ちょっと、志乃先輩!?そんなにくっつかないでくださいよ!」
「えぇっ、いいでしょ!?」
クリスマスイブの夜、寒いねなんて言い訳して有里紗ちゃんのお布団で寝かせてもらったけれど、やっぱりちょっとだけ恥ずかしいな。
どうせ恥ずかしいなら、もっとくっついていたいのに。こうやって一緒にいられるのも、あとちょっとだけなんだから。
「もう、恋人になって1年経つんだよ?そろそろ慣れてよぉ……」
「そうですけど、恥ずかしいものは恥ずかしいですよ……っ」
もっと強くぎゅーってしたこともあるし、ちゅーだってしたし、それより先の言えないようなことだって、しなかったわけじゃない。それなのにどうしてこんなに照れ屋さんなんだろうな、有里紗ちゃんは。まあ、うちだって照れくさいけど、それ以上にもっと近づきたい。駄目じゃないはずだけど、それでも少しためらってしまうのは、まだ、進みかたをつかめないから。
陸上だったら、スタートの号砲があるのにな。走り方も、それなりにわかってるつもり。でも、恋をするのは、スタートラインも、ゴールラインもない。何もわからないままの二人三脚。否応なく引き離されてしまうタイムリミットはもう少し。進みたいはずなのに、隣で体が触れ合う距離ってだけでドキドキしちゃうんだから。
だったらもう、今日は有里紗ちゃんのこと、離してなんてあげない。ぎゅっと抱きしめて、顔と顔がくっついちゃいそうなくらい近づく。
「ひゃっ!? しの、せんぱい……っ」
「ん?なぁに?」
恥ずかしいなんて聞きたくないよ。うちへの気持ちだけ欲しい、有里紗ちゃんの、一緒に進みたいって気持ちが。一人よがりで振り回したくないよ、そうまでして、嫌われたくなないから。
「あんまり、からかわないでくださいよ……」
「じゃあ、こういうことするの、嫌だった?」
そういうわけじゃないことくらいは分かってる。分かってるけれど、……自分の口で言ってほしいって思っちゃうの。うちだけで進もうとしても、有里紗ちゃんが止まったままだったら引っかかって転んでしまうから。二人で転んで泥だらけになって笑いあうのもいいかもしれないけれど、やっぱり、ゆっくりでもまっすぐ歩きたい。
「そういうわけじゃないですけど……、ずるいです、先輩は」
「嫌じゃないなら、このままでいいよね?」
「うぅ……、ドキドキしちゃって寝れなくなるからやめてくださいっ」
やっぱりかわいいな、うちよりも大人っぽいのに、本当は一個下の後輩で、一番大事なひと。
「それならしょうがないなぁ……それじゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
でも、一つだけ、いたずらさせて。恋人同士の日で、何もできないなんて寂しいでしょ?
ただでさえ触れてしまいそうな顔を、もっと近づける。立ってるときだと少しだけ離れてるけれど、寝転がってしまえば、背の違いなんて関係ない。
薄目で顔を見ると、はっと目を見開いて、それから固く目を閉じた。
やっぱり、かわいいな。こういうとこが。自然に緩む口をすぼませて、うちも目を閉じる。
……ちゅ。
柔らかなくちびるは、優しくうちのことを受け止めてくれる。進んだ一歩は、きっと、ゴールラインに近づけてくれる。