陸
漸く家族の眼の手術四回目で経過観察迄きました!
遅筆に加えて完結できない病のワタクシも復帰し早速蓮歌さんを完結迄頑張ろうと思ってます。よろしくお願いいたします。
呆然と立ち尽くす専属文官を横目に、文官たちはそろりそろりと後退ってゆく。
もう少しで庶務所の入り口まで辿り着こうかというその時、涼やかな声が掛かった。
「貴方方、よろしいかしら?」
問い掛けているようだが有無を言わさぬその圧力に、文官たちは竦み上がる。
「は、はいいい!」
専属文官は今迄の事が幻であったかのような柔らかな微笑みで彼等に頼みごとをするのだった。
後宮に奉職する者達は優秀であり、身元も確かな者ばかりと言われている。
扱っているモノがモノだ。将来の皇帝の伴侶であり皇帝を支え国にその身を捧げる皇妃と、次代の皇帝を産む国母たりえん側妃が住まう後宮はこの国の全てを内包していると言っても過言ではない。
皇帝を産む。それは権力に近付くことでもある。皇妃として立つことは権力そのものになることだ。
通いの者しかいない男性の官人たちは元より、その生活の、その人生の全てを捧げなければならない女官たちは、仕える貴人に依って行く末が変わるのだ。皇城に仕える大半の女性官人らのように善き相手が見つかるまでの腰掛けなどという者など皆無だ。
つまり、皆職業人として立つ優秀な者しか居ないという事になる。
そんな彼ら彼女たちが、呆然と唖然としたまま回廊や己の部署の前で佇んでいる中を、再び目を瞠るような光景が見られることとなった。
行き交うことなく立ち尽くす少なくはない人の中を、掻き分けるように道が通る。
自然と動いてしまう威厳のようなものに圧され、一人、また一人と端へと寄っていく。
その中を、塗りの盆を貴色である紫紺の絹越しに掲げ持ちしずしずと歩く姿が現われる。
顔は俯いていて見えないがその裳の色や柄が件の女官長の専属文官の物だと知覚した瞬間、全ての者が只事では無いと知り、床に跪き拝跪する。
貴色は皇帝を表す。皇帝その人ではない無機物ではあってもその人であるように扱われるのだ。
専属文官が持つ盆は書簡盆。皇帝の手である可能性がある。それと分からぬ者などいない。誰もが皇帝の親書だと確信していた。
青褪めた3人の文官を先導させた専属文官は無言のまま進んでいく。疑問にかられながらも後宮の雀たちさえ流石に口を噤んで見送っている。まるで儀式めいたその様は、専属文官たちが立ち去っても尚人々の足を止め、後宮をいつになく騒めかせ続けたのだった。
女官長の専属文官が後宮を騒めかせて数刻後、女官長より皇帝陛下の御成りが発表される。
皇妃2名と側室数名の選定まで時があると言っても、一代に一度の最大行事の一つに忙しく活気があった後宮に激震が走る。
専属文官の謎の行動に後宮があることさえ忘れているのではないかと言われている皇帝の御成りだ。 そして人々の関心は規律に煩い女官長が時間外の来訪者を自ら迎え入れたという客人に至る。
中に客人の正体を知る者がいたのでその者が上司に詰問されることとなった。
「女官長御自らが白菊の間にご案内されたと聞いておりました、が」
最初からのいきさつを知らず大した情報を自身が持っていると思っていない侍女は、滅多に面会することも無い雲の上の上司である官職の方々に囲まれ涙目になっている。
女官長の専属文官から茶道具の用意を指示され、指示通りに茶道具を持って白菊の間に行っただけなのである。部屋の前で部屋の管理をしている侍女に、室に招き入れられた客人が草原の国の側妃候補らしいと聞いた。正直にそう話した時、目の前の上司たちが硬直したのが見え声が途絶える。
「草原の国のしかも側妃候補だと!なんでそのような事になっているんだ!!」
大音声が広い筈の部屋に反響する。それだけの衝撃が彼ら彼女らを襲ったのは目に見えて理解できるが、事情を知らない若い侍女には何事が起ったのかと怯え切ってしまう。
「ごめんなさいね。貴女もそれ以上は知らないようだしもう戻ってもいいわ。
これから少し後宮も賑やかになるでしょうけれど、貴女は上の方の指示に従っていればいいのですから何も心配は要らないわ。
あ、それから、侍女頭にこれから会議になると伝えなさい。
戻っていいわ」
取り繕うように後宮の典司部の女官頭が言う言葉に縋り付くように、侍女は何度も頭を下げて部屋を出て行く。
戸が閉まる音がした途端。異口同時に深い溜息が落とされる。
「・・・私は草原の国に側妃候補を求めた筋に見当が付きますが、敢えてその点は置いておいて、これからの事態収拾に全力を注ぎたいと思います」
女文官の文官頭が言葉を切る。それへ皆が頷きを返す。
女官長に引き上げられ鍛え上げられた猛者ばかりの幹部である。女官長の指示をただ待っているわけにはいかない。自分ができることをやるだけだと切り替えは早かった。
「私たちの知らないところでやらかした連中の尻拭いか。選りにも選って何故草原の国なんだ。言ってはいけないが鬼門だぞ。やんごとない筋も時を経ては色々と綻びが出るものだな」
揶揄するでもなく真顔で零す衛士の頭に、困り顔で典司部の女官頭が窘める。
「不敬ですよ。
まあ、言いたくなるのも無理は無いでしょう。
草原の国は不可侵。皇帝陛下さえも跪き頭を垂れる御方の国。それがこの国の根幹となっている。それを知らない者共にこの後宮を荒らされることは延いてはこの国を荒らす事になります。
知らないのか聞いていても意味が分からず己の欲望のままに行動したのか・・・女官長の指示を待たねばななりませんが、それまでには万全の態勢を整えねばなりません」
女官頭の言葉に皆深く頷き席を立っていく。其々の部署で予想出来得る『これから』に対応するために、小者を使い文官や衛士、女官や侍女たちを招集する。
最後まで残った女官頭は痛む蟀谷を揉みながら息を吐き出すと席を立った。
気の毒な人グランプリは誰だ!
これからゴールデンウィークの間頑張ろうと思ってます。
読んで戴き感謝感激!
あ!サヨナラ平成!