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なんちゃって側妃候補の後宮へ行こう!  作者: さくら比古
草原から来た側妃候補
6/21

その頃の文官さん

もう返し読みもせず投稿しますよ!


多分きっとそうじゃないかな~でこれが今年最後の投稿になる筈です。筈です?筈。



 その日。夜勤と昼勤の者が(つつが)なくその勤めを交代し、帰る者は勤めの終わった解放感と家路へと急く気持ちで浮き立ち、勤めを始める者は幾何(いくばく)かの緊張感を身に(まと)い回廊を行き交っていた。つまり、目撃者は数多(あまた)いた。

 しかしながら、その場に居なかった者が真偽を問うても釈然としない様子で、見た者こそが己が見たものが真の事か判断つかぬという態だったのだ。

 彼ら彼女らが見たものは、有り得ない光景。それに尽きた。


 後宮には皇帝以外男子禁制の本宮とその表玄関とも言える管理部棟がある。

 後宮の前門に当たる管理部棟には、去勢処理を受けた後宮坊主と呼ばれる側妃達の側仕えの控室と、後宮の全ての女たちとは(まみ)えることさえ許されない男性の後宮士官及び文官が詰める庶務所がある。

 数代前迄士官も文官も後宮では全て女性がその任に当たっていたが、大規模な疑獄が発生し、その後に前門に男性文官が入れる管理部棟を設置することとなったのだ。

 後宮と管理部棟は直線ではなく回廊で繋がっている。

 その回廊を右回りで行けば女官らの詰所の前を通り、左回りならば女武官の詰所の前を通ることになっている。

 女官長の執務室は本宮の入り口に当たる朱雀門に近く、本宮に入る者達が自然と背筋を正す姿は見馴れた光景となっている。

 その女官長の執務室に常に侍る女官長の懐刀として名高い専属文官であるうら若き女官が、只今噂の種となっている。

 あの女傑と呼ばれる女官長の覚えもめでたく、高位の者にさえ異を唱えさせることも出来ない実力者と名高い専属文官は、女官長程の威を放つでもなく、女官長の威を借りることも無い。ただその能力と行動力で縁故を揶揄する者共も黙らせた。

 人を使う能力にも長け、上位者を不快にさせる所作言動も無い。美人とは言えないが口数少なく女官長の側に楚々とした風情で立つ姿と、上に信を得、下に頼られるその為人に思いを寄せる者も多かった。

 専属文官はいつ如何なる時も声を荒げず、冷静に対処する。そんな彼女が、黄昏に染まる回廊を裳裾を()たげて走り抜けて行った。そんな事があるだろうか。

 それこそ目撃した者が、自身で白昼夢を見たのかもしれないと呟く所以だった。




「冗談じゃない冗談じゃない冗談じゃない~~~~」

 人目を気にする余裕も無く、目的地の庶務所ではなく先ずは女官長に執務室を目指した。生来淑やかさとは無縁だった少女が後宮で矯正されて今があった。元々はこれが本性であるし、人目を気にする時間は無い。一生分走ったと後になって回顧するかは知れないが、とにかく今は時間が無かった。

 高貴なる方々の後始末など茶飯事だ。三日の内に無ければ異常だと思えるくらいには処理してきた。

 だが、今回は歴戦の彼女をして最悪の事態と言える惨事が起こっていた。

「あの豚公子、何年か前に先帝の側妃にお渡りが無いから慰めてやろうと言い放った珍事で干されてたんじゃなかったの?そもそも『草原の国』事案にアレを送り込んだのは誰なのかしら?」 

 執務室に到着し、一通り文箱や書簡挟みを手繰るが目的の物はやはり見つからない。普段から自身が管理しているのだから間違えようも無いのだ。

 踵を返し、本来の目的地である庶務所を目指した。

 執務室を出て再び走り抜けてゆく専属文官に、驚きに固まっていた通行人たちが再び固まる。

 その中をもう裳裾を両手でからげて専属文官が走り抜けてゆく。

「もう手遅れだけど、無い事にはできないだろうなあ」

 回廊を出て、蓮歌や女官長たちが居る部屋がある翼の対の翼にある庶務所を目指す。

 各部署の部屋が並びその先に庶務所はあった。

 後宮の対外的な物事を全て管理している部署だ。この管理棟で一番大きな部屋を持っている。

 各々専門的な島に別れて机が並び、衝立でそれらを区切っているのは仕事の効率化を唱えるここの長の言で、今までの慣例を全く無視しているとの苦言もあるが、働く者には好評だ。

 その庶務所の中で入り口に近いある部署に専属文官は飛びこんだ。

 扉をいきなり開け放ち飛びこんできた専属文官に、中にいた者は驚き固まった。

 専属文官に仄かな思いを寄せていたその若い文官は、持っていた紙挟みを落としてしまい、紙挟みから飛び出した書簡の類が床に散らばってしまう。

 はくはくと言葉にならない文官を押しのけ、散らばった書簡を手繰っては散らす専属文官はまるで肉食獣のようで文官は縮み上がってしまう。

「何処?!」

 聞いたことも無いがきっと優しげな声だろうと思っていた声は、切って捨てるような迫力があり、文官は何を聞いているのか分からないのに知らないと答えていた。

「っちぃ!

 貴方。ここ半月内で後宮宛でも個人名の無い書簡が来なかった?」

 怯える文官に舌打ちをして、思い付き問うてみる。もしかしたらそう言うこと(・・・・・・)かもしれないと思ったのだ。

「へ?あ・・ん。あ、あのう」

 きつく問い掛けられ、竦んだ文官は、それでも最近会った怪事の事を思い出した。そしてそれは今でも継続中であり、近く呪い師を呼ぶことまで検討されていたことを

「何?」

 思い当ることがあるのかと専属文官が勢い込む。若い文官はぎこちなく話始めた。

「半月以上前に、いつの間に届けられたのか誰も知らない書簡がありまして、差出人は蓮歌とだけ、宛人は後宮としか認められておらず困り果てておりました。

 高貴なる方のものかもしれないと、あちらこちらへとお伺いを立てましたが分からず、封を開けようと上司が手を掛けましたらこの庶務所を大風が襲い何もかもが無茶苦茶な状態になったのです」

 アアコレダ。専属文官の中で確定した。そして執務室に届けられなかった理由も。報告が無かったのも庶務所の長が不在中に失態ともいうべき事態を女官長に知られることを畏れたがためだろう。

 其々の長同志は協力体制に在り仲が悪いということは無いのだが、女官長のある意味悪評がこの事態を招いたのかもしれない。

「それでその書簡は何処にあるの?」

 急いて若い文官に迫る専属文官は、顔を真っ赤にして黙り込む文官に苛立ちを隠せない。今にも奥襟まで掴んで揺さぶらんその勢いに僅かに残っていた他の文官たちも狼狽えるしかないようだった。


「!!」

 今まさに文官に迫っていた専属文官がばっと振り向く。

 いままで息を潜めていた存在が急にその存在感を顕したのだ。神気に近いその波動に専属文官だけが反応した。

 文官を放り出すと居住まいを正し、振り向いた先に拝跪する。

 専属文官の変わり身の早さに付いて行けない文官たちが肩を寄せ合い見つめる中でそれは始まった。


「とおつみおやのおおかみわかつせいれいのおんおすがたごしょうらんましませ」

 拝跪し朗々と口上らしきものが始まった。

「かけまくもかしこきだいせいれいのおおまえをおがみまつりてかしこみかしこみもうさく・・」

 けほんと可愛らしい咳が漏れる。口上の途中で引っ掛かったらしい。ふるふるとその華奢な肩が揺れている。

「か、かしこ『もういいわ!お前意味が分かって言ってないよな、それ』ご、ごほん」

 どこからか少年の物とも青年の物とも付かない声が掛けられた。存分に呆れ返っている声だ。

 きょろきょろと声の主を探す文官たちを後目に、専属文官は紅潮した頬を隠すように拝跪した両手で顔を隠し一か所にその視線を当てている。

 果たしてその視線の先には何者も居なかった。在ったのは何の変哲もない書簡だった。

『愛し子の(すえ)も血が薄まれば皆こうなのか。まあ、分れた血の枝葉では仕方が無いな』

 どうやら書簡が喋っているらしいと、文官たちが無言のまま騒ぎ出す。器用なものだと溜息を吐いて専属文官は目の前の問題に当たらねばならないと気を引き締める。

「私は分家も4代は経ている家の出でございます。神代の御方々にお目見えできる身分では御座いませぬ。

 下手な祝詞も朝な夕なに婆様が奉げておりました物を習わぬままに覚えていたものでして・・・」

 下手に誤魔化しても通用する相手ではない。どこに逆鱗が潜んでいるかもしれず、内心心臓が破裂する思いをしている。

『ふん。お前が本家と呼んでいる者たちはすでに血を絶やして居るしな。残ったのはお前のような薄い者達のみだ。それでも愛し子の血には弱いのだから、吾等の業は人より深いの』

 とんでもなくさらりと落とされた問題発言に固まる。が、薄々感じていた事なので大きくは驚かなかった。

『お前は中でも血が一番濃いな。人の営みには不思議なことが多いが、吾等は愛し子の名ではなく血しか愛さぬ。そう言う事だと知れ』

 本家の凋落が確定した瞬間だった。

 専属文官の実家は皇都で権勢を誇って来た占家の一家で、その本家が総本山と呼ばれる占家の長だった。始祖は精霊に愛された少女で、それ以来皇都の護りを担ってきた。

 しかし2代前からその兆候(・・)が現れ始めてからは、皇帝の信を無くしその座を他家に奪われかねない事態にまで追い詰められていると聞いている。本家嫌いの婆様の高笑い付きで知らされたものだ。

『お前、完全ではないが吾の姿が見えているだろう?』

 笑いを含んだ声に、専属文官は覚悟を決めた。

「はい。しかし姿が見えると言うほどのものではありませぬ。青い氷の彫像のような御姿に見えております」

 専属文官の前には言う通り青味がかった氷の彫像のような青年御立ち姿が在った。肢体も衣装も背景を透かしているので、顔立ちまでははっきりと見えない。が、高位の精霊特有の清涼感と神気のようなものを纏っている。

『はっ!それではお前は吾の本性まで見えておるではないか。侮れぬの。

 愛し子程ではないが精霊共がようも見つけ出さなかったものだ。この後宮とやらの仕掛けのせいかの?』

 いきなり怖い事を言われ専属文官は固まる。

『吾の名は風の精霊王シュカだ。覚えおけ』

 予告も無く名を名乗られる。専属文官はぎょっと息を呑んだ。

 これは所謂『契約』ではない。ないが、軽く精霊王の覚えめでたき人ぐらいの地位を約束されてしまった。それは後宮から引きずり出されて本家で監禁、一族の男たち(・・)に種付けされる一生まっしぐらの未来が決まってしまったという事を意味していた。例え精霊王の一時の気紛れであっても、その事実が専属文官の行く末を決めてしまうのだ。

 言葉に出せず硬直する専属文官に、人の理など知る由も無い精霊王は首を傾げる。

『人というものは難儀なものだな。(かたち)に囚われるが故の不自由というものか。

 吾が気紛れに撫でたものを有難がって箱に詰めて仕舞い込むか。それでは花も枯れように』

 大して憐れをもよおした風でもなく淡々と言う精霊王に、内心の悪態さえ覚られると知り、専属文官はぐっと息を呑み込んだ。

『ふふふ。面白いのう。それで?愛し子の裔よ、吾に何ぞ用があったのではないか?』

 はっと本来の用件に思い至り専属文官は居住まいを正す。

「精霊王に()かれましては、御身がお護りになられるその書簡の差出人であられる蓮歌様に関わるお大事についてお伺いしたく参じました」

 専属文官が蓮歌の名を出した途端、精霊王の身が揺れた。はて?と精霊王を見上げ様子を窺うが、その挙動はますます怪しくなっている。

『お、おお!蓮歌か!蓮歌を知っておるのか!そうか!そ、そうか』

 ゆっくりと専属文官の眼が半眼となりしんなりとしていく様に気付き、精霊王は威儀を正すように咳をするフリをするが空咳さえ出ず、不審この上ない。

「精霊王様。私、蓮歌様に精霊王様ご降臨お知らせすべきと愚考します。つきましては蓮歌様の元へ参りとうございますので中座してもようございましょうや?」

 ゆっくりと言葉を選びつつ実際は(なぶ)るようにお伺いを立てると、人ならばだくだくと汗を掻く姿が思い浮かぶほどの揺らぎを見せる精霊王。それに確信した専属文官は、目前の高貴なる存在に退場願う事を画策する。

「精霊王様?蓮歌様の言ではこの後宮まで蓮歌様の安否を記された書簡をお届けになられたとか。

 未だにお残りになられているのも、蓮歌様を案じられる寛大なる御心故とお察しいたします。

 それならば蓮歌様も無事到着なされました事ですし、ご案内申し上げます。ここは蓮歌様の元まで卑小なる我が身と御同道すること叶いましょうや?」

 面白いくらいに動揺が伝わり、このままならば退場する筈だと専属文官は踏んだ。

『い、いや。吾の気紛れで書を運んだのだ。後宮と言うものも十分見られたことであるし、吾は戻ることにしよう。

 蓮歌も何やらこれよりややこしい事を成さねばならぬことだし、邪魔するのもなんだ、うん。

 新しい愛し子の居場所が知れたことを土産に()ぬとしよう」

 ちょっと待てと止める間も無く不穏な言葉を残し精霊王の気配が消える。

 蓮歌の『成さねばならぬややこしい事』は勿論だが、確実に自分の事を指していると思われる新しい愛し子云々に蒼白になる専属文官。返せ戻せと地団駄踏んでも後の祭りだった。

 残されたのは、纏っていた精霊の霊気がきれいに消えた書簡と、所在なさげに身を寄せ合う数名の文官たちだけだった。

「ど、どうしよう」

 答える者は当然居なかった。

 

 

 

 こ、こんなはずでは・・・・

 専属文官さんのお名前誰か考えて戴けないでしょうかね。占家の分家の末端も末端のおうちの子で、バリキャリの女傑の懐刀でもしかして愛し子な子なんですけどね、ストックの中には合う名前が無いとか・・・

 一応ですが募集します。お暇であれば暇潰しにでもお願いいたします。決まり次第付けます。それまで専属文官ちゃんのまま?かも。最後まで(長編は避けたい)かも。


読んで戴き感謝感激!

来年こそ平和で災害の少ない年になりますように。あ、クリスマスだった。

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