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なんちゃって側妃候補の後宮へ行こう!  作者: さくら比古
草原から来た側妃候補
5/21

連休という事で、完結迄書いてから出そうと思ってましたがここまでを出すことにしました。

お楽しみください。


12月21日 蓮歌さんがお馬鹿さん(のろまさん)ではなくて訛りなんだよという部分を加筆しました。

令和元年7月12日修正しました。



 自分の発言により室内を凍てつかせたとは微塵も思わない少女であった。

 少女・蓮歌はここに来て殆どいない者のように振る舞っていた。挨拶もそこそこに始まってしまった大人たちの問答に、興味無さ気に周囲を見回してはその見事な装飾に目を奪われていたのだった。


 いつの間にか話が終わったのか、ここまで連れて来てくれたどこか親近感を感じた青年衛士(父と歳は近いが青年)が暇乞いをした時に突然アレが来た。

 蓮歌が側妃候補を受ける時以来の先見の力。これはこれからの少女に関わる故の先見だと本能的に知る。布石だと婆が言っていた力。

 頭に浮かんだ言葉をそのまま告げると、部屋に居た人間の動きがぴたりと止まった。

 草原では蓮歌の『先見』は日常的に発していたため、告げればすぐに誰かが動いた。

 それ故に、蓮歌は4対の瞳と見合う事暫し、首を捻って考える。もしかしたら同じものと思っていた『占』と『先見』は違うものだったのか。

 あまりにも黙って見つめられるものだから、蓮歌は困ってもじもじしてしまった。

「蓮歌様にはご挨拶が遅れ申し訳ございませぬ。

 私はこの後宮を預かる卑小の身、蘭渓と申します。非礼の程お許しください」

 ハッと我に返るのが早かったのは女官長であった。その身を床に投げ出し額づいて許しを請うた。

 唖然とその姿を見ていた文官装束の若い女性も慌ててそれ(なら)い、衛士の二人は衛士の作法で頭を下げている。

 突然の変容に蓮歌が困っていると、頭を下げつつも流風が口パクで何やら伝えてくる。

『ゆ・る・す・と・い・え?許すと言えという事?うわあ面倒臭いなあ』

 心の内で正直に反応するけれど、その助言が正しいのだろう。渋々蓮歌は(ぬか)づく女官長の後頭部に向かい許すと言った。

 女官長は(ようや)くその身を起こし、蓮歌を見下ろさないように(ひざまつ)いたまま発言の許可を請うた。

「急の事態という触れ込みの報告書を得、その確認を優先したがために御方に度重なる非礼を働いたこの身を許され感謝に耐えません。

 報告書にあること、そこな上級衛士の口頭での報告間違いありませぬか」

 疑問というよりは確認作業的な問いに、蓮歌は頷く。

「先触れも無く草原に侵入し、廃絶された筈の奴隷に輿を担がせた人間(もど)きが父にいきなり娘を出せと言って来た」

 都の者には馴染まない、草原の者特有の訛り。どこか緩く緊張感の無いその口調が告げた内容は女官長をして絶句させた。様々な理由でもう取り返しのつかないことを白公子が仕出かしていることが発覚した瞬間だった。

「父は変なのが来たわあと言って私や兄弟たちを呼び寄せ、その人間擬きの前に並ばせたのだけど、蓮歌という娘はと言われて前に出されたらなんだこの汚い娘はって叫んで暴れ出したんだよねエ。

 もう、輿を担いでいた奴隷たちは落としちゃなんないからって青くなって右へ左へってなってるし、父や男たちは怒るどころか大笑い。私も兄や弟妹達にも笑われるし散々だったよ。

 すぐ来いって言われて駆け付けたんだよ?羊を解体してたんだから汚いのも仕方ないでしょうに」

 ここは笑うところと女官長たちを見ると皆真っ青になっている。外したかな?草原じゃ一番絵の上手い蓮歌が絵入りで後々皆に面白可笑しく見せて回って受けに受けたんだけどなあと口中でぼやく。

「そ、草原の王はお怒りでは無かったと?」

 恐る恐る流風が問うと、まさかと蓮歌は笑う。

「描いた絵を渡したら交易で来ていた商人にも見せてたよ。大爆笑だった。

 だって、うちじゃああんな人間見たこと無かったんだよ。まるで巨大な人形が溶けて天幕の布で包んでるみたいだったんだよ?あれじゃあ馬にも乗れないよね。

 あ、だから輿に乗ってたのか」

 流風は蓮歌の話を最後まで聞いていなかった。交易商人に、しかも絵入りで見せて笑っていた?と何度も呟いては頭を掻き毟っている。

 女官長は蓮歌の言動の中に侮れない本質を見て、後宮の言の葉遊戯は取り払い率直に問い掛ける。

「蓮歌様。報告書に添えて草原の国の王よりの親書があります。

 陛下宛ではありますが、慣例では先ずは宰相閣下に上げられ検閲されて後に陛下にと普通はなりますが、草原の国の王の親書故にそのまま上げられることになりますが・・・」

 蓮歌の衝撃的な証言にげっそりとした文官が、女官長に促され押し上げながら親書の封緘を蓮歌に見せる。

「ああ、大したことは書いてないけどなって言ってたけど、人間擬きの事は書いたって言ってた」

 ですよねと文官が口の中で呟く。彼女の内では面識のない白公子に百の悪口雑言がぶつけられているようだ。

「人間擬きと呼ばれておりますが、もしかすると彼の者は名乗りませんでしたか?」

 再び流風が問うと、蓮歌は頷いた。

「名乗りもしなかったし、結局何をしに来たかも言わなかったよ。

 もう暗くなるし泊まっていくか?と父が声を掛けても野宿などするかと返して近在の宿場迄帰っていったよ。仕方ないから男達を数人付けて送ってやってた。もう狼たちの時間が近かったしね。

 まあ、その道中の話もその夜の肴になってたけどねエ」

 天幕での生活が蓮歌たちの基本なので、野宿と言われてキョトンとしたものだ。土の家より暖かいのにねと妹に言われて全員が頷いていた。

 もう女官長の顔色は白くなっている。この女傑が顔色を晒すことの異常を蓮歌以外の全員が理解している。面識が無いからと言っても流風でさえその為人ぐらいは承知だった。そういう己自身の顔色も酷い物だろうと流風は息を落とす。

「それからは後宮士官さん?っていう人がバッタみたいに父に頭を下げ私に頭を下げして回ってて、漸く側妃候補の使者だってわかったんだけど。

 まあ、皆反対の大合唱だったんだけど、父がお前はどう思うって聞いた時にアレが、先見が来てね、行かなきゃならないみたいって答えてた。

 父はそうかって言ってから皆に先見が降りたから蓮歌は側妃候補として皇都にやるってね。それからは出発まで準備に大わらわで考える暇も無かったよ。妹たちには泣かれるし、花嫁道具にと織っている途中だった絨毯を仕上げなきゃならなかったし、側妃って言うからには花嫁と一緒だろうって言って諸々の準備がまあ大変で。

 後宮士官さんからもらった支度金で羊や馬を買ってたりしたらもう冬も終わりかけちゃったから慌てた慌てた」

 思い出したのかウンザリとした様に眉を顰める蓮歌に、専属文官はツッコミも入れられずに悶々としている。

「それでようやっと出発できると思ったら、今度は羊や馬は連れて行けない、高貴なる女性が馬に乗ることは許されない、花嫁道具は要らないって言いだすもんだから殆ど置いてきちゃったよ。母がものもすごく怒ってたけど、花嫁じゃなくて側妃候補をお召しになっただけですって力無く言う後宮士官さんのやつれた顔見てたら言えないわあと言ってた。

 仕方なく宿場迄男たちに送って貰って、後宮士官さんが言ってた行列で皇都に行くことになったんだけど、行った時には人っ子一人居なくてねエ。後宮士官さんも置き去りにして帰ってたんだよねエ」

 それは貴女の為の行列なんですよと女衛士が(ほぞ)を噛んでいる。どうやら(くだん)の士官は男性であるが仕事上面識があるようだった。

「そこからはどうされたのです?話によると街道に出る宿場迄は御一緒されていたようですが」

 流風が問う。女官長は微動だにせずここまで聞いていた。

「乗合馬車を乗り継いで、雨風に当たったのもいけなかったんだろうねエ。倒れた宿場で血を吐いて倒れて、診て貰ったら心労も重なって胃の腑が捻じれたんだろうって言ってた。

 動かせないし、その宿場まで来たら後は一本道に近いから一人で行くことにして医者じゃなくてお医師様に預けて来たんだけど。手紙を送ったはずだよ?来なかった?」

 衝撃の事実に専属文官へと視線が集まる。

 早馬なら徒歩の少女を追い越したはずだ。もうずっと早くに届いていてもおかしくない。専属文官は飛び上がるように室を出て行った。

 女官長宛で無かったら執務室には届かない。女官長宛の物は自分が全て(あらた)めているがそのような書簡は届いていない。間違いがある筈が無い。見ていたら後宮をひっくり返すような事態になっていたからだ。

 走り去った専属文官をびっくりして見ていた蓮歌に、再び女官が額づいた。

「数々の非礼、平に平にご容赦を。

 知らぬこととは言え、蓮歌様にはご不快とご不自由をおかけ申しました。

 寛大なる草原の国の王がこのことをお知りになれば今度こそお怒りになられることでしょう。

 このことは後宮を預かる私の失態。この皺首(しわくび)に掛けましてどうか皇国のこの義に於いてはお怒りの矛をお収め戴けませんでしょうか」

 ここにきて蓮歌は居並ぶ大人たちが何を憂え頭を下げているのか気が付いた。

 お怒りも何も、怒っていたらこんな遠方まで一人になってまで来ないし、先見が下した道に従って行動しただけの認識だった蓮歌にしてみれば呆れかえるしかない。

「いい加減頭を下げるのは止めて欲しいなあ。

 婆様の歳の人に土下座されるのは気分が良くない。話も碌にできないしねエ。

 私は私の役目を果たしに来ただけだよ。それ以上は何も、遺恨も無いさ」



読んで戴けたら幸いです。

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