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なんちゃって側妃候補の後宮へ行こう!  作者: さくら比古
草原から来た側妃候補
2/21

登場人物の名前にルビは打ちません。架空の皇国、架空の時代背景と言う設定なので、読まれる方の想像する読み方でお願いいたします。

 人物の大まかな設定的には、興国の最中に劣勢だった王を助けた功績で国境に位置する大草原を貰った草原の民出身の主人公と、長い年月で真実を知らないままに草原の民に差別的な考えを持つようになった貴族や皇宮の人々というのがベースになっています。

あしからず。


 さて長い列が(ようよ)う終わりを告げ、目的地である皇都に辿り着いた少女であったが、門を護る衛士の検分に引っ掛かってしまった。

 父親の半分の身に父親よりも背の高い若い衛士が、机越しに乗り出しては小柄な少女をじろじろ見、次に書類を眺めて首を振っている。その様子に付き添った老爺は心配気に成り行きを見守っているのだが、当の本人である少女と言えば、落ち着きのない挙動で衛士や巨大な門を見上げるのに忙しくしている。大人物かそうでないか判断が付きかねる。

「う~む。これは真の事か、信じられぬが私の眼には偽造の疑い無し。だがあんまりだなあ。

 娘の言う事を証明する者が居らんと言うのがまた拙い」

 腕を組み唸っている様は若い(なり)をして年寄り臭い。だが少女の後に続く列を見れば悩む暇も無かった。

「お~い!連戦!悪いが検分を交代してくれんか?」

 徐に背後に声を掛けてこの衛士が立ち上がると更に上背を加算して少女から見れば雲の上に顔がある。はえ~と変な声を出し少女が見上げるものんびりしている暇は無いようだった。

「娘、少々問いただしたいことも有る。詰所の方へ来てもらうぞ」

 この半鐘泥棒(のっぽ)の衛士の言葉に老爺が飛び上がる。

「こんな幼気(いたいけ)な子供を捕縛するってんですか旦那!

 辺鄙な遠い遠い田舎からたった一人で健気にもやって来て、どうやら書類には問題無さそうじゃあ様子じゃないですかい。こんな子供から袖の下貰おうとでも言うんですかい!」

 興奮するうちに人目を意識し稚気が出たのか伝法な口調で捲し立てる老爺に、列からは興味深いやら非難するやらの視線が集まり、衛士は困ったように頭を掻く。

「おいおい開爺。私の事は尻に卵の殻が張り付いている時分から知っているだろう。

 通行書にも書付にも書類にも問題は無いさ。この娘は本当ならこのまま通っていいと言うか、こっちの門からじゃない方が良いと言うか、兎に角困ったことになっているんだよ」

 異様に長い眉を下げて身の半分程の老爺にぺこぺこする様に、商人たちや荷夫達は笑いを誘われる。

 長く皇都に出入りすればこの衛士の事は皆よく知っている。元々貴族階級の出である衛士だが、身分の区別なく接してくれる稀有な男だった。

 また、困った者には法を犯さない限り目を掛けてもくれ、頼りになる男でもある。要は信頼されている。

「何がどうなのかこの爺にも教えてくれませんかい」

 釈然としない顔つきで、少女をかばうように立つ老爺に、衛士はやれやれと息を吐く。

「ここじゃなんだ。お前も心配ならば付いてくると良い。気になるだろう?

 荷の方は皇宮で良いのだったな?宮城の下門を通れる小者がいるから届けさせておくよ。

 それ以外の行き先は届け先をその小者に渡してくれ。駄賃は私が後で払っておくから」

 既に検分が終わっていた荷を渋々老爺は衛士が呼んだ小者に預けると、黄紙を張り付けたような皺深い手で少女の手を取り握り込んだ。

「袖すり合うもでここまで来たんだ。嬢のことは最後まで見届けるわい」

 乾いて温かい老爺の手に包まれて、少女は何処か嬉しそうに頷く。

「ありがとう。何だか分からないけどお爺さんが一緒なら良かったよ」

 孫と祖父のような二人が背の高い衛士に連れられ門の側にある詰所の入り口に消えると、商人たちは我に返って三々五々と散ってゆく。その後が気にはなったがそこは商人たちだ、時を無駄にはできないと小走りに去って行った。



「あ~まあ、なんだ。取り敢えず座ってくれ」

 衛士に椅子を勧められ、老爺は対面の長椅子に少女と座る。老爺が心配するような雰囲気ではなく、よく陽の入る中庭の付いた小部屋だった。

 門衛の衛士の長でもある男の仕事部屋だというそこに招き入れられると、寸の間に茶菓が筋肉隆々の部下によって供された。

 少女は勿論、皇宮に豆殻を納めるほどの老爺でも見たことの無い甘味に、二人の視線はもう釘付けだった。

「ああ、喰いながら聞いてくれ。

 それで、開爺。この娘と出くわしたのは蔵人伯領を出たところの旧街道と言ったか?」

 衛士の勧めを号令とばかりに飛び付くように少女が菓子を鷲掴みにすると、流石に老爺も目を瞠ったが、ゆっくりとは言え老爺も手で直接摘まんで口に運んでいるのだから変わりはない。

 衛士が呆れて「それは添えられたフォークで少しずつ食べる菓子なんだがなあ」とぼやいても、お構いなしな二人は口の中で淡雪のように消えた菓子に身悶えている。

「まあいいか・・・。

 増々信じられなくなったんだが、本当に娘はここに書かれている人物と同一人物なのか?」

 衛士がひらひらと書類を少女の目の前に翳す。

 口の中の幸せの味をたっぷり堪能していた少女は、衛士の言葉にどういうことかと目を瞠る。

「ここに書かれている、草原の国の王(・・・・・・)青嵐が第2子蓮歌()で間違いないか?」

 衛士の言う内容に、老爺はぽかんと口を空ける。

 蓮歌と名を呼ばれて少女は不思議そうな顔をしながらも頷いた。

「父さんがいつから王になったのか知らなかったが、草原の青嵐(・・・・・)の娘の蓮歌はあたしだけだねエ」

 少女の返事にこれまた老爺が目を剥くが、衛士は深く息を吐いてやっぱりなのかと項垂れる。

「ここに書いてある特徴も合っているし、何よりも疑いようのないその服装や容姿は合致しているんだが・・・

 肝心なのは側妃候補として招集された娘が、皇宮からの使者や世話人やお付きの人間も連れずに、ましてや一人で歩いて来るなんて前代未聞だっつうの」

 投遣りに書類を机に放りだす衛士はどんな返事が返って来ても平静ではいられない予感がしていた。そしてそれは直ぐに的中した。

「あ~・・使者?来たよ?でもうちの家は人間の住む家なんかじゃない言って、この書類を見ながらなんやら小難しい事早口で捲し立てて小半時で帰っちゃたよ」

 有り得ないと内心で大人二人が愕然とする。

 側妃候補への伝達は名の誉れとも言われている。皇家が(せん)によって選出された候補を迎えに行く役目は名誉は勿論、見事側妃に選ばれればその後の利権にも関わることができるからだ。

 加えて、皇国と草原の民との関係を知らぬ者からすれば奇異に映るが、今回草原へと派遣された使者には正妃候補にすら遣わされない皇位継承位の権利を持つ人物が当たっていた筈なのだ。

 大役と言っても過言ではない役目を疎かにするどころか、気を遣わなばならない相手にケンカを売っているような始末だ。

「あんの脂袋め・・・国を潰す気か!」

 思い当る人物に向かって衛士が悪態を吐く。

「世話人やお付きは?その姿(なり)の事も説明して頂けますかな?」

 居住まいを正して衛士が少女に再度問い掛ける姿に、老爺はとんでもないことに居合わせたのではないかと思い始めた。

 衛士の言う事には、草原の民はただの遊牧民ではなく草原の王国と言う国だということを聞いた。

 その上で少女がその国の姫君だというのだから理解が追いつかずに腰を抜かす暇もない。

「お付きとやらは最初からいないよ。皆街にに行くのを嫌がったしね。無理強いなんかできないでしょ?

 世話人て人もこのお爺さんと出会う5日ほど前の宿場で胃の腑が捩じれたとか言って倒れたんで医者を呼んだら、旅には耐えられないって言うからそこの宿に置いてきたよ。

 駄目だって起きようとするんだけど、すぐ痛みで倒れてしまって医者の所に運ばれてったよ。

 時間も無いし、地図とやらも貰ったから来たんだ。迷わなかったし大丈夫だったよ」

 ケロリと眩暈が起きそうなことを言う少女に、青褪めたままの衛士を見て老爺は思わず可哀そうだあと思ってしまう。それにしてもあそこで出会うまでの少女の道程を想像したら老爺も倒れそうになった。

 よくぞ無事に来れたものだ。

 話の宿場あたりは深い山間部で、山賊が頻繁に出没するし道無き道もあるしで旅慣れた商人も一人では通らない。本当によく無事でと老爺は思っていた。

「その姿て言っても、旅をするのにいい着物(べべ)なんて着れないし・・・」

「そのために支度金が渡されているだろう?そうだったろう?

 あれは貴女様の言ういい着物を買って、お付きの人を雇って、街道を輿や馬車で来てもらうために皇宮から遣わされているんだ。何に使ったんだよ」

 衛士の顔が崩壊寸前だった。これは少なくない首が物理的に飛ぶ案件だ。平和に過ごしたいがために門衛を希望したって言うのに、このままでは確実にこの件に巻き込まれる。

「だから、側妃って言う事は嫁に行くってことでしょ?

 いい馬を3頭に羊を20頭、自分が織った絨毯に母さんや義姉さんたちが刺してくれた花嫁衣装も全部用意してたのに、使者が返った後に世話人てにいさんがこれは全部皇宮には持っていけませんなんて言うから全部置いてきたよ。

 お金は馬や羊に使って、残りは家に置いてきた」

 衛士は世話人が倒れた原因を知った。間違いなくコレだ。何が間違いなのか少女は理解しないだろうが、前代未聞の事態なのだ。

「まあ、草原の国から側妃に貰うこと自体異常事態なんだが・・・

 ここでどうのこうの言っても始まらんな。こんな大事は上司に丸投げするに限る」

 小声で何やら物騒な事を呟く衛士の眼は座っていた。若干呆れて引いていた老爺は、自分に分かる範囲の疑問を上げた。

「すまんが知らなかったもんで教えてもらいたいんだが、草原の民って言うのはそんなにも皇国で問題を抱えとるのかい?草原の国たらゆうとったが」

 座った目のまま衛士は老爺に向き直る。

「そういや爺さん居たんだったな。

 まあ、この話は他所ではしないで欲しいんだがな。

 皇国が王国だった時代から、いや、この国が興った時から草原の民は特別な存在なのさ」

 皇国に奉職する者でも下位に属する衛士がそこまで事情通だったとはと思わせる話に何度も老爺は驚くことになった。

 



 

 個人的にはのっぽの衛士さんが好きです。


 読んで戴き感謝感激!

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