参
済みません何度も書き直しているウチに一ヶ月たっちゃいました!
アクションは難しい!
10月20日(日)修正入れました。
2020年4月14日修正入れました。
乾いた風が砂を巻き上げ吹き過ぎてゆく。
練兵場は宮城の南西に在り、皇都を取り囲む城壁の内側に在りながらも宮城への直通通路は無くコロッセウムのように擂鉢状の隔壁を兼ねた観覧席に囲まれている。
皇国軍10万人及び軍馬戦車が収容できるだけの広さがあり、御前を行進する練兵式は見応えがあった。
だが今は数人の兵士と数十人の募集者のみがその地を踏みしめていた。
蓮歌は一見そうは見えないが上質な絹の鎧下を着込み、腰に付けた特殊な剣帯に2本の中剣を背側で交差して差し込みその柄に腕を掛けた姿で立っていた。
足下は草原の民が愛用する乗馬用のブーツで、地に足を付ける戦闘では重い印象に見える。馬の皮を使ったそれは皇国の兵士から見ればそのように見えるだけで、元々狩猟民族である彼らに伝わる伝統的な造りは戦場を選ばない機能を持っている。
本人は涼しげな顔で募集官に呼ばれるのを待っているのだが・・・とても目立っていた。
有り体に言えば、衛士ならば女もいるが国軍の兵士となると徴兵されていた時代から変わることの無い男の世界だ。先ず女はいない。身分を問わない為荒くれ者やはぐれ者の大所帯に何を間違ったか女が紛れ込んでいるのだから、構うなと言う方がおかしい。そういうものだ。
受付に並ぶ募集者を捌きながら募集官たちもちらちらと視線を向けてくるが、蓮歌は気にしない。
前に並ぶ者が親切に考え直せ帰れと諭そうが「大丈夫」「平気」とケロリと返すだけだ。
そんな地上のやりとりを観客席で入隊試験の為に待機していた現役兵士達は下卑た侮った軽口で場を沸かせている。胃弱持ちの募集官が胃よりも頭を抱えてしまった。
並んでいる者達も原因が蓮歌だと分かっているのでなんとかしろと言う視線が飛んでくる。
「何やってるかねえ」
やれやれと蓮歌は頭を振りながら、仕方ないとばかりに観客席の大先輩に声を掛ける。
「冷やかしなら余所へ行ってくんないかい。
日が暮れちまうよう」
田舎訛りでは無い、他国の訛りでしっしとばかりに自分たちを煽る女に沸点の低い者が真っ先に反応する。いきり立つ小男にのそりと立ち上がる巨漢がそれだ。
にやにやと見下ろしてくる優男はその態度とは真逆に目に剣呑な光を乗せ、興味無さげだった男は真顔になって蓮歌を見つめている。
「あんたたちが試験するんならさっさとやっておくれよ。
今日こんなに募集者が来ると思ってなかったからさあ、昼飯いらないって言ってこなかったんだよう」
確かに受付してから試験だとすればこの人数では昼餉には間に合わないことは確実だ。
だが、それを正直に言って良いか悪いかは人と時と場合を考えなければならないのでは無いか?練兵場に居た者全ての者が同じくそう考えた。
観覧席の破落戸兵士も同じ意見だ。モノを知らない娘の尻っぺたを叩こうと、青筋立てながら降りてきた。
「武器はそれか?なら俺が相手をしてやろう」
蓮歌の物とは違うが同じ中剣使いらしい小男が出る。慌てて止めに入る募集官は巨漢が止め、向き合う二人を他の兵士が囲んだ。
まだ三十路にもならないだろう小男が二十歳も越えない見た目の少女に向かって剣を構える。激しやすいが明らかな侮りよりも得体の知れない人間への警戒を取る。16才の徴兵からこの歳まで生残ってきた男だ。『戦闘』で油断することは無い。
蓮歌は意外だと眉を跳ね上げすぐに小男に正面を向く。
男は蓮歌の瞳を見て動揺する。見た目やぼったくも見える田舎出の少女なのにがらりと中身が変わったように感じたのだ。
ごくりと喉を鳴らす間もなくそれは来た。戦場で何度も経験したその瞬間。『死』を意識するその感覚は痛覚をも麻痺させる。
何かが腹を突き抜けたと知覚したのが覚えている最後の記憶。そのまま目が覚めるまで何があったのか男には分からなかった。
仲間である小男が物理的に有り得ない速度で吹っ飛ばされる様を、兵士達は唖然と見ていた。
寸の間虚を突かれた態を見せはしても、そこは本職と言うべきかすぐに気を取り直し、それぞれが連携の体制で少女を囲む。
「お前、なんなんだ?」
にやけた優男が笑みの形を貌に貼り付けたまま殺気を纏う。巨漢は戸惑いを隠せなかったが戦闘態勢に入る仲間に気を取り直し、腹に力を入れた。
「何だって、蓮歌だよ」
殺気に中てられることも無く蓮歌は名乗る。
その名にその場のほとんどの人間が気の抜ける思いをする。巷に流布された興国伝説により、石を投げれば当るくらいにはありふれた名前だからだ。
そこからは非現実的な少女の戦力に疑いまで出てきてしまうのだから(つまり目の前で起きたことは偶然の産物だったのでは無いかと思えるくらいにと言うこと)、不思議なものだ。
それ故に、男達は気を取り直すように再び蓮歌を取り囲む。
が、その名乗りに唯一傍観するように立っていた男が反応した。一歩遅かったようだが。
優男が顔に似合わぬ暗器をどこからか取り出し、蓮歌の死角から繰り出してくる。優男の対角からは巨漢がこれも見た目に似合わない速度で蓮歌を急襲してきた。
蓮歌は慌てる素振りも無く、優男に向かい一歩出る。それだけでその刃先を躱しその懐に入ると何をしたのか戦闘不能にする。返す刀ででは無いがそのまま振り向き、軽い動作で巨漢を蹴り上げ悶絶させた。
神業とも言えるその全ての動作を見切った者は傍観していた男だけだろう。
見守るしか無かった他の男達は愕然と立ち尽くすだけで声も上がらなかった。
「お前さんもやるのかい?」
蓮歌はこの中でもっとも強いだろうと判断した男に声を掛けた。傍観していた男だ。
兵士らしく鍛え上げられた肉体を持ち、歩くときは音を立てないし無駄に吠えない。草原で幾度も相見えてきた狼のような男だと蓮歌は感じていたのだ。
「じょ「そこまでだ!」っ!」
両手を挙げて否定しようとしていた男の背後から声が掛かった。
振り向けば『王の剣』と呼ばれる偉丈夫が立っていた。
男を始めこの場に居た者は居住いを正す。純粋な実力と冤罪による資格剥奪から名誉を回復し復権した英雄だ。憧れる者は平民にも多く、元々門衛として顔も知られていた。面映ゆ気にそれらに返礼すると、『王の剣』流風は蓮歌に向き直った。
「勘弁して下さいよ。
いくら陛下のお許しがあったからって即日ですか。
それに貴女様には座るべき椅子も用意してあったんですから、一般兵の入隊試験になんで紛れ込んでるんです。意味がわからない」
挨拶も無く滔々と呆れた口調で言い募る流風に、蓮歌は煩わしそうに小声で悪態を吐く。流風に何ですか?と問われて渋渋と言った体で答えた。
「私の持ち味は高い所であーだこーだ言ってる年寄りの茶飲み相手では勿体ないだろう?
機動力も武術も使わないで飾るつもりかい?陛下共々『お話合い』が足りなかったようだねえ」
最後は脅しだと流風はグッと飲み込む。言い返したいが、皇国軍の兵士10万人どころか己でさえ一太刀付けることさえ困難な相手だ。入隊試験で実証されたら女という抑止力も意味を成さないだろう。
「いい場に来た。
試験官!『王の剣』様が私の入隊試験にお忙しい身体をお貸しいただけるようだよう。
手続きと審判をお願いするよう」
名指しされ鯱張る試験官らしい官が流風に助けを求めてくる。藪蛇だったかと内心頭を抱えるが仕方が無いとすぐに頭を切り替える。清以の情けない顔が目に浮かぶが、半ば予想道理だったで通そうと思った。誰が『あれ』を止められるのか。官たちも騒ぐだろうが虎の首に鈴を付けることからは逃げ出すだろう。そう通そう。
「因みに、今はどっちなんですか?」
コテンパンにやられるにしても少しでも優しい方がいいと一縷の望みを掛けて問う。
「蓮歌様なら私でも何の問題も無いだろうってお昼寝中だよう。
・・・手加減してあげてもいいが、蓮歌様ほど上手くは無いねえ」
一度手合わせしたことのある『蓮歌』の容赦無さが、手加減されたものだったら手加減が上手くないと眉を下げる眼下の少女は果して如何ほどのものなのか。少女の気遣い(?)は流風を戦慄させた。
「ま、待て。俺にも対面があることだけは覚えていてくれ。
別に悪評なんぞ今更だが、背負っているものがものだけに清以の権威に関わることは避けたい」
小声で確認する流風にああと蓮歌は頷いて了承する。確かにと頷いているが情けないお願いをしている流風としては忸怩たる思いに汗が噴き出ている。
「得物は中剣。体術は無し。どちらかが負けを宣言するか怪我をさせずに戦闘不能にするか。
始め!」
審判を務める国軍の書記官が発声する。
ざっと場が広がり、見物する者は大凡の距離を三々五々離れる。
開けた舞台で対峙する二人の身長差は正しく大人と子供。性別と年齢差を鑑みても有り得ない組み合わせと誰もが思った。
ただ一人破落戸兵士の中で、蓮歌が狼の様だと感じた男だけは蓮歌の実力を過小評価せず食い入るように見つめている。
ガインッガインッ
鋼と鋼がぶつかる音が勝敗を賭けて始まる勝負の狼煙を上げた。
英雄と末端の兵士からも憧憬と羨望を集める男が、最初から全力で打ち込んでくる。慣れないお仕着せで支給品の中剣を苦も無く高速で高度な剣技により長剣に勝る武器に見せている。貸せと言われて貸した兵士は目を丸くして見ている。
片や軽装で持ち込みの双剣を構えた蓮歌は散歩に出るような様子で『王の剣』が繰り出す切っ先を難なくこなしやり過ごし叩き払う。
腰から抜かれた中剣は異様な形状をしていた。
左手に握る剣は所謂ところの剣鉈で波紋が美しいダマスカス鋼様のものに見える。それを逆手に持ち少ない動作で剣戟を掻い潜り相手を翻弄する。
右手には肉厚の変わった形をした中剣で、剣と呼ぶには異形だった。それは盾鉈とでも呼ぶのが相応しい見た目だった。
刃や棟または平地を盾のように使い、鍔と同化したLの字型の通称角折りと呼ばれる部位で流風の中剣を折ろうと仕掛けてさえくる。
二振りとも精緻な文様に組まれた組紐で柄を包み、巧みな指使いを補助している。
無言で戦う二人に、囲んだ者たちは戸惑い呆然と立ち尽くす。
音の数だけの手数を誰も視認できなかったからだ。
正直に言えば二人が立ち位置を変えること無くただ立っている。未熟な者ならばそうとしか見えないのだった。
鋼が放つ激音と荒く上がる息は流風の必死さを表わす。
見守る在所者の中には、英雄と呼ばれているがこんな少女にいなされて大したモノではないのではないかと言い出す者も出たが、周囲からの白眼視に黙り込む。
英雄『王の剣』が、ではなく、少女が異常に強いのだ。それが理解できないのではと、応募官のリストから数人の名前が消される。
少女に絡んだ兵士達も、眼を剥き出し二人の剣の軌跡を追う。
それが自分たちには一生掛かっても再現し対抗できるモノではないという自覚ができるだけ、彼等は実力者であることを証明している。
停滞しているように見える二人に転機があった。
全身全霊を目前の少女に当てていた流風に疲れの陰りが出てきたのだ。
涼しい顔をしていた蓮歌も、額に小粒の汗を浮かべ受け身であった剣筋を攻勢へと変化させている。
流風も今度は守勢へと姿勢を移し体を入れ替え必死の形相で蓮歌の剣を受ける。
合間合間で剣を折ろうと角折りを絡ませてくるものだから油断出来ない。
蓮歌に付け入る隙を見せずに粘る流風に、苛々も募ってくる。
小半時に及ぶ攻防に見守るものも息を止めるようにいた、次の瞬間、誰かが耐えきれずに息を吐いた。
「「!」」
同事に二人の身体が反応する。
流風は蓮歌の切っ先が己の右肩を打つに任せて屈み蓮歌の脇を狙い、蓮歌は伸びたその身を捻って回転しその勢いで回し蹴りのように靴底で流風の顎を打つ。
衝撃が顎から脳へと稲妻のように奔ったと辛うじて知覚した流風が、眩む視線を蓮歌に向けようとしたその時に声は掛けられた。
「そこまで!蓮歌の反則負けだ」
聞き覚えのある張りのある声が勝敗を宣言した。
反則勝ちかよと脱力する流風に、対する蓮歌は舌を「ありゃあ」と奇声を上げた。
「体術は無しだったよな」
頭を振り振り流風が主張すると蓮歌は舌を出してついついなどと応える。
二人の間では既に人外じみた覇気闘気は霧散しており、戦いの終わりは確定している。
その姿に緊迫に凝っていた身を解し出す兵士達も審判も、はて?と止まった。
勝敗の宣言は誰が出したのか。
審判に視線が集まるが、本人が一番驚いている。
誰が、と幾つもの視線が彷徨い集まり辿り着いた先には驚くべき人物が立っていた。
皇帝清以。
兵士でさえ練兵式や戦場で、しかも遠くにしか見たことの無い人物が立っていたのだから。
民を思う皇帝を肌で感じて来た兵士達には遠くても近い存在。清以は平民に人気のある皇帝だ。本人が想像する以上に兵士達に慕われていた。
その皇帝が手を伸ばせる所まで降りて来ている。ある意味感動にうち震える者たちの視線が皇帝の背後に至ったその時、異口同音に兵士の口から苦鳴が上がる。
『大銅鑼将軍』海燕。皇国海軍大将と歩兵大隊大隊長を歴任してきた皇国きっての智将かつ猛将。王国建国時は海賊だったという前身を持つ初代からの股肱の臣にして、異名に相応しい大音声は将軍位を退いた後も国軍幹部の指南役として叱咤激励に振るわれた。
末端の兵士にさえ恐れられる老将の口元は引き結ばれ眉間は深く皺寄せられていた。
ある意味皇帝への不敬よりも海燕の機嫌の方が慮られる空気になっている。
勝敗が決まり、皇帝の出座に鯱張る官たちや自ら皇帝への敬意を示す兵達。おいてけぼりの志願者たちはおいても、当事者である蓮歌は不満顔で清以を睨めつける。
『・・・不合格かい?』
がらりと変った気を纏い、蓮歌が清以に問うと、清以を制し背後に居た海燕がずいと前に出た。
「お腹様に於かれましては卑小なる我が身よりご説明いたす事はなりませぬでしょうや?」
白髪頭が背まで見せるまで下げられる。思ったよりも痩せて小柄な姿に蓮歌は目を瞠り興味深気に見つめた。
『海黄の裔かい?ここまで続いていると知ったら高笑いしていることだろうね』
蓮歌の言葉にはっと海燕が顔を上げる。すぐににぃっと笑うと楽しげに応じた。
「儂こそ初代様に土産話が出来申した。蓮歌様にお会いし、言葉を交わしましたと。
あれで初代様は初心なお方で、蓮歌様を偲ぶ歌が数冊遺されておりますでな」
その言葉に蓮歌は嘗ての海賊の姿を思い起こしていた。目の前の海燕には一欠片も似たところの無い船に乗った熊のような男だったが、とても無口な男だった。蓮歌を信頼し、蓮歌に頼られる海の男だった。
「海燕・・・それだけは蓮歌には見せるな。彼の御仁も見られたくは無いだろう」
清以はそれだけ言うと踵を返し連歌に同道するように促す。
これだけ注目を浴びて今更であったが、蓮歌に異存はないらしく大人しく付いて行く。
それを見送って漸く、流風は巨木が倒れるように地に尻を落とした。
全身の筋肉が痙攣している。顔の筋肉まで回って強張った様は鬼神のようでだ誰もが恐れて近寄らない。
荒い息が治まる頃には中天に在った筈の陽ががやや傾いていた。
「おい、お前!お前だよ」
起き上がった流風は固まって流風の様子を窺っていた兵士の一人を呼び寄せ肩を貸せと呻る。
いきなり呼び寄せられた男は蓮歌の気を引いたあの傍観していた男で、兵士の中でもきっちりと作られた身体をしていたので喚ばれたのだと誰もが納得する男だ。不審に思われること無く流風は男を呼び寄せられ肩を借りる。
「蓮歌様がお前をご指名だ。皇帝の御前に出ることになるから覚悟をしておけ」
告げられた内容が暫く男の頭に馴染まなかったため、二人は歩を止める。
無理は無いと理解しながらも流風は男の尻を叩く。
「俺も付き合ってやるから有り難がれ。
ところでお前名前はなんて言うんだ?」
呆然としたまま男は応えていた。
「名・・前?名前・・・青弦、青弦と言います」
台風被害の方にお見舞い申し上げます。お亡くなりになった方、ご家族、行方不明の方、ご家族、天災とは言え理不尽な災害に慚愧の念に堪えません。
傍観者である私には精々が募金にいそしむ程度の支援と役にも立たない祈りを捧げることしか出来ませんが・・・。
さて、慶びを表わす事もしにくいですがラグビー日本が決勝リーグに進みます。ラグビー史上に残る名勝負でした。ジャイアントキリングを続け爆走する代表に、涙しました。
松島や勿論福岡の活躍は大きかったですが、何よりも負けないスクラムやパス回し、必ず止める意気のタックルと福岡たちに勝つためのビクトリーロードを作った全選手に拍手を。
何度もピンチを防いだリーチ、代表7年目で初めてトライした稲垣はスクラムで負けない日本を作った一人です。無念の怪我でのアウトをした具ちゃん。最年長のトンプソン。みんなが全てを犠牲にして生み出した勝利でした。
彼等は先ず、被災した人々を思い言葉にしていました。色々な申し訳なさと有難さを彼等は言葉にしていました。
被災地の皆さん。大変なことはたぶん想像以上でしょうが、どうぞ頑張って下さい。
読んでいただき感謝感激!




