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なんちゃって側妃候補の後宮へ行こう!  作者: さくら比古
後宮と戦乱
15/21

後宮編に入ります。ややこしい変態の問題が入りますので、少々(?)政治的な面も絡みますが、基本ラヴ(笑)がテーマですよ?よ?


早速誤字をセルフ報告!修正しました。7月28日



 皇帝清以の御代。後宮は最前線であった。

それは次代の皇帝を産む女たちの戦場という意味も勿論あるが、その血筋を巡る政治的な代理戦でもあり更に外憂による命がけの攻防の舞台でもあったのだ。

 清以の代では候補者の内一人しか選ばれなかった正妃が時を置いて皇妃に()いた(のち)、後宮には3名の妃が迎え入れられた。

 一人は中位貴族階級にあって多産の家系である準子爵家の(むすめ)。一人は皇都でも名高い豪商・塩扱い『南風海堂』の女。そして、最後に決まったのは草原の国の王の女。

 子を()すことを前提とした妃は多産である低い身分の者が多い。学や後ろ盾よりも多産であり器量と皇帝の気を逸らさない所作や皇帝や皇妃への忠誠心を求められる。

 国母たらんとする皇妃は子を()すことを許されないが、国政に携わり公務もこなす事を求められるため高位となる身分も必要とされる。高度な教育と後ろ盾のない者に皇帝の代理者は務まらないからだ。

 仮に、どんなに皇帝と皇妃が相思相愛であっても()()()()()後宮に入らない者は子を成すことは許されない。そういう定め()だった。

 それでも皇妃にはたった一つだけ皇帝の子に関係関与する事が出来た。

 それは生さぬ仲の子であっても、皇帝の子の母は皇妃であること。教育を初めとする全てのことが皇妃の一存なくては決められない。生みの母を公的に母と呼ぶことは許されない。そういうことだ。

 生さぬ仲の間柄。とは言え、実際清以はその法のお陰で皇帝位に即けたと言っても過言ではない。前の皇妃や前の皇太后の手無くては生き残ることも難しかったのだ。特殊な幼少期を送った清以は『人』を判断するのに身分を信用することはなかったという。それは清以を護った二人の最高位の女性の教えでもあった。

 現在、清以が最も信を置く者は3人。手放すことになってしまったが幼馴染みで側近候補でもあった流風。皇妃。そして側妃蓮歌だった。この3人が自分を裏切ることはない。それは絶対の『真実』だった。





「!・・・生まれた!」

 産室を取り囲む厚い壁越しに耳を当てていた童顔が歓喜に紅潮していた。

 質はいいが女官のお仕着せを着た少女が産室と対面する部屋へ飛び込んだのはもうそのすぐ後だった。

 飛び込んできた女官の表情から察した部屋の主、緞子(どんす)を張られた長椅子に座す皇国最高位の美丈夫は、肺の空気を一気に吐き出すと向かいの部屋へと駆け込んだ。

「良くやった!やってくれた!感謝するぞ」

 大音声が産室に響き中にいた者は全て手を止めて硬直する。母の腕に抱かれた赤児だけが見えぬ目で母親を探す仕草をしている。

 産後の処置を終え産婦に産後の諸注意をしていた産婆が呆れたように嘆息するが、狼狽える侍女の尻を叩いて自分がいた場所を皇帝に譲った。

「可愛いなあ!あ、付いてる。男だな」

 自分を押し除けるように先行した皇帝に続き入ってきた女官が、子供そっちのけで喜び合う皇帝を尻目にちゃっかり赤子を(はだ)けたお包みごと掲げ上げると()()を確かめ言う。

 その言葉に振り向いた皇帝が何かを言う間もなく、するりと音も無く女官長を先頭に後宮の主たる部署の女官が入室し、怖々と赤子を件の女官から取り上げる者、場を整える者、産室のある棟の外に控える文官へと皇子の誕生を報せに走る者。女官長の采配で全てが流れるように済まされてゆく。

 赤児を奪われ唖然とした女官はぽかんとした顔を、同じく呆然とした顔で抱き合う二人に向けると爆発したように笑い出す。それに吊られ二人も笑いだすと、むっとした熱のこもっていた産室が慶びを言祝ぐように和んでいった。


「この度は二人目の皇子のお誕生お目出度うございます」

 女官長の言祝ぎに女官たち侍女たちが一斉に唱和する。

 未だ整えられたとは言え産室で安静にする産婦に、いの一番の言祝ぎの栄誉に預かり女官たちは皆揃って頬を赤くしている。

 一方、それを受ける側は大仕事の後と無事産み落とした安堵感からか興奮に紅潮し、輝く瞳で女官長たちに応じる。

 この場は女官長が選出し、皇帝が許可した皇妃に絶対の忠誠を持つ者しか居ない。深く事情を知らない者も若干居るがそれを口にしない賢明さを持ち得ている。

 皇帝が産まれたばかりの皇子ごと産婦を抱きしめていようが、産婦がどう見ても皇妃その人(・・・・・)に見えようが、産婦であるはずの妃が女官姿で皇子をつついて遊んでいようが、皇帝と皇妃の口から出る言葉だけが真実であり、それを叶え護ることが己の職分なのだと任じている。

『清以さ、お前さん子の名は決まったのかい?』

 未だあどけない顔をした女官・蓮歌の口から気安く声が掛けられる。その口調はのんびりしたものから明らかに変化している。『上位者』。皇国の皇帝にも額づくことの無い女官たちが一斉に平伏する。

 産婦である皇妃も清以の手を離し頭を下げる。

 それを見回しうんざりする蓮歌に、清以は楽しげに笑うとこちらへと招いた。

 皇妃の側に長椅子が設えられ、蓮歌は先に座った清以の隣に滑り込む。軽く頬を膨らませる蓮歌に宥めるように声を掛けた。

「無事の出産、ご厚情に感謝致します。

 母子共に健康なようで安心しました。

 ・・・ここ暫くの『お成り』はありませんでしたが何かございましたか」

 最後は皇帝の顔となり()()()()()を問う。蓮歌は口角を上げさらりと爆弾を落とした。

『変態が出てくるぞ。私の匂いを嗅ぎつけたらしい。穴熊のように引きこもっていたくせに、欲望には勝てぬらしい』

 はっと皇帝が蓮歌を見る。そして皇妃を見、女官長に目配せをする。

 心得た女官長が生まれたばかりの皇子を抱き上げ女官と侍女を引き連れ産室を出て行く。聞かれても何の痛痒も感じない蓮歌だが、政には口を出さないことにしている。

 潮が引いたように人が減り、皇妃と清以、蓮歌の3人となって漸く蓮歌は口を開いた。

()()()()は皇帝の子を男子、女子の双子、男子と4人の子を産んだ。年齢的には早いがもう十分だろう?お褥すべりをしてもいいんじゃないか?』

 羊を潰すと言う口調で蓮歌は清以に告げる。

 受けた清以は苦い物を嚙み潰すように顔を(しか)め応える。

「出られますか」

 短く確認する。腕の中の皇妃が身を固くするが、何も言葉にはせずじっと息を潜めている。

『出るさ。あの変態の息を止められるのは私だ。出ねばならんよ』

 口角を上げたその表情(かお)は老練な将軍を思わせ、その頭の中では既に皇国が出征する様を描いているようだ。

 皇妃は国を思う清以を思う気持ちに加え、戦場に出る蓮歌を(おもんばか)る心持ちが()い交ぜになって複雑な顔をしている。

 蓮歌が身代わりとなって己は清以との間に4人もの子をもうけることが出来た。感謝と忠誠は終生変わることなく蓮歌の上にあった。蓮歌が武技や馬上戦に於いて皇国に並ぶ者無しと(うた)われた流風のお墨付きを貰っていることは耳にはしているが、万が一と言うことも自身が武技を修めているからこそ心得ていたのだ。

 皇妃の『不安』に気付いた蓮歌が優しく皇妃の額を撫でる。産後の未だ収らない熱と拭いただけの頭髪はしっとりと濡れていて、皇妃の精神状態も伺え嘆息する。

『心配ないよ。やるべき事をやるだけだ。

 こう見えてもやれるだけの力はあるからね。もうお休み、疲れただろう?』

 言いながら瞼を優しく擦ると、皇妃はすうっと意識を手放した。清以が胡乱げに見やるとぼやく。

「相変わらず女子供にはお優しい」

 返せば男には厳しく辛辣だと言いたいのだろう。蓮歌は鼻で笑うと当然だと返した。

『男に優しくして何の得があるんだい。

 なんだ、おばあちゃん(誤:ご先祖様)にいい子いい子されたいのかい?』

 素っ気なく下されてむっつりする清以に蓮歌はコロコロと笑う。

 全く勝てる気がしない会話はともすれば悪い方へと向かう清以の内心を逸らせる意図があったのだと、清以は感じていた。蓮歌は己の血筋を傷つけない。それは蓮歌自身が言った言葉だった。

『まだまだ先の話だが準備にも時間が掛かるからね。もうそろそろいいんじゃないか?』

 見上げてくる皇妃よりも小柄な蓮歌を、清以は複雑そうに見下ろす。分かっていると蓮歌が清以の二の腕を叩くと清以は受け入れるしかないと『(はい)』とだけ答えた。

『怠け者の『王の剣』の尻を叩くんだよ、この際使えるモノは何でも使え。内憂外患なんて害虫もまとめて火にくべろ、焚き付けぐらいにしか役に立ちゃしないからね』

 『王の剣』の下りで吹いた清以は男臭い笑みを浮かべ勿論ですと請け合う。のらりくらりと復帰を拒む幼馴染みを思い浮かべ、一蓮托生(俺だけ苦労するのは御免だ)とばかりにくつくつ笑う。

 ()()()()()()を考慮した日程でさくさくと今後の行動の打ち合わせを始めた二人は、目を三角にした女官長が皇妃を引き取りに来るまで喧々諤々と話し合っていた。



 皇帝清以の第四子・清賀誕生の祝砲が上がり、皇国中が祝いの熱に浮かされる中、一人の側妃が皇帝の寝所から身を引くことが臣に(しら)される。皇帝の寵と皇妃の信を得た側妃は一人で4人の皇子と皇女を産み、そのうちの一人は次代の皇帝となった。

 寵愛を笠に着ることもなく、出産前後は教育も鑑みて皇妃宮で子らと共に過ごし皇妃に絶対の誠を貫き皇妃からは双つと無い信を得た。4人目となる皇子を産み遂げるとお褥すべりを申し出てそれを許される。

 その後、側妃は国軍に身を投じその筆舌に(かた)い活躍を経て将軍の一翼を担うまで成上がった。

 名は伝わらぬ側妃は、草原の国の王の(むすめ)にして皇帝の腹母、鬼神のような戦働きをする女将軍として名を馳せる。いつしか側妃は武后として名を残すこととなる。

 2千年を(よう)さんとする帝国の滅亡を決定付けた戦いまでの数年は絵巻物や吟歌師の4弦の響きと共に大陸に広まることとなった。




 

 



 第二章ですね~。皇妃ちゃんは子供が産めて更に清以に圧倒的に強い味方がいることていうのが大きいです。

 清以は孤独になる皇帝という職務を下支えしてくれる臣下は勿論ですが、これ以上はない味方が居てくれて(敵じゃない!と言うのが一番かも)、救われています。

 武后~!后位は大衆的な付け方で、正式な役職ではないものの定着してしまった。という流れですね。


読んでいただき感謝感激!

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