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なんちゃって側妃候補の後宮へ行こう!  作者: さくら比古
草原から来た側妃候補
11/21

王妃の愛した絵

やっぱり少々長くなる雲行き。広げ過ぎた風呂敷を畳めない無能さにがっくりです。


お心の広い皆様。ご迷惑をおかけしております。



 ヒュオオオヒュルルルー・・・

 薄暮に沈む王宮の内宮に白笛の太い音が響いていた。

 風に乗り王妃の執務室にもその音は届いており、書き物をしていた手が止まる。

 侍女に入れさせた灯りも、室の四隅に影を作り時間の経過を王妃に告げていた。

 なんの装飾も無い白木の横笛である白笛は男性的で、貴人の好む物では無いが、戦場で亡き朋友に奉げられた譜が伝えられた後は武人に最も愛された笛だ。親征による王の不在の王都を護る兵士(つわもの)によるものだろう。

 笛の音に引かれるように息を吐いた王妃は、痛む目頭を揉みながら侍女に茶をと鈴に手を出そうとしてその手を止めた。

 大きな執務机のその右端に飾られた銀細工の簪。それを贈ってくれた在りし日の面影と、それを贈られた己の高揚した記憶(おもい)が甦ったのだ。


「蓮歌様」

 朱唇から零された名に応える人はもう居ない。

 草原から来た驚くほどに速い馬を駆り、一緒に行くかと笑って言ったあの人は居ない。

 もう私は貴女の母親の年齢を越したのですよ?と独り()ちた。

 皺の寄った指は年々重しのようになってきた裳裾を掻き分け薄物越しに腿に残った傷跡を辿る。戦場まで共に在ったあの頃、血を吸った剣が掠めた(あと)だ。あの時は己の方がよっぽど傷だらけだったのに、その傷を見た途端、敵に突っ込んでいき仇を討ったと戻って来た。心配で痛いどころでは無かった。

 最近は一人になるとこうやって昔の事ばかり思い出す。

 難破しかねない国の大事が続き、凜香は休む間もなく働き続けていた。


 出来たばかりの国境線で小競り合いが続き、王もその王座を温める間もなかった。

 自分達を悪魔と罵る神聖帝国は、この国の独立に触発され次々と配下の領主たちが帝国を離反したためその元凶である王国を執拗に攻め立ててくる。

 今回の王自らの親征も、発端は小競り合いに過ぎなかったが、独立を果たした後も帝国からの嫌がらせに疲労困憊の小国群への意思表示に他ならなかった。

 神聖帝国は彼等に搾取され続ける民の力を侮り自分たちの時代の終わりを認められず、彼等の能力や意志の強さを侮りその萌芽()を潰すことはできなかったのだ。

 神聖帝国は表に裏にと手を伸ばし、なんと彼らから見た『反逆者』を根絶やしにしようと躍起になった。

 己の力を過信し、認められないと(くすぶ)る王国の不満分子を焚き付け王の足を引く。まだまだ安定しない国は深刻な不協和音に乱れた。

 日に日にやつれていく国王に、王妃である凜香は持てる全てを使い内憂を除こうと動いたが、その尻尾さえ掴むことはできなかった。

 そんな頃、王太子を拝命された第一王子が成人と共に妃候補を募ることになった。

 何故今なのかは知れないが、王命によりそれは行われた。

 内宮を任されている凜香だったが、その多忙さ故、全ての候補者に目を通すことは不可能で、内宮の官や女官たちが先に(ふるい)に掛けた者からの選別となったが、それでも内宮に侍る者達に匹敵する人数となった。

 王の内心を知る王妃は複雑だった。

『もう、いいだろう?まだ駄目なのか』

 この所しばしば王が口にするこの言葉に、王妃の()は理解したが公は首を横に振らざるを得ない国情だった。それでも国を継承する王太子の宣を下した後は、(とみ)に増えていた。

 王は疲弊していた。まだまだ安定してはいなくとも、国は成った。後進も後継ぎも育ってきた。若き王太子は己のその時分より思慮があり王としての資質は問題ない。ならば、この度の親征を最後に、と王は言い残していったのだ。

 正直、王妃はずるいなどと思ったが、彼の(ひと)亡き後の王の苦しみを思えば、それも言えない。自身も叶うことならば彼の女を追いたいと思っている。けれど、約束したのだ見届ける(・・・・)と。


 王妃凜香が彼の女に仕えるようになったのは、王が未だ神聖帝国の神帝の荘園を護る郷士であった頃の事だ。

 圧政に苦しむ民を見て決起した若き王より託され、何処からか連れてきたのか知れない少女の面倒を見ることになったあの日。草原から馬百頭を引きつれやって来た草原の民の長の娘がその人だった。

 常から自由に草原を馳せた民に碑民と卑しみ恭順を強制してきた帝国に、諾と頭を下げることの無かった彼等は、その機動力に物を言わせ帝国の長い手を()退()け続けていた。

 打倒帝国を掲げた者達でさえ擦り込まれた『碑民』の印象からいい顔をしない者も居たが、若き王はそれらを払い、長に頭を下げたのだ。長は盟友として馬と『特別な子』である蓮歌を派遣した。

 たった一人(・・・・・)で馬を操りやって来た蓮歌に、王以外の者は怒りを顕わにしたが、王は彼女を賓客として丁重にもてなした。

 それ以来の破竹の勢いは大陸を席巻し、王は帝国を屈辱の撤退まで追い詰めた。

 いつしか神の娘と呼ばれるようになった蓮歌に、最初に仕えたのは凜香だった。

 依頼され眉を顰める両親を説得し、初めて会った蓮歌は凜香を見るなり軽く笑んだ。そうして最初に言った言葉は、

「腹が痛いのかい?」

 はっと王妃は目を上げる。

 灯火で闇が濃くなった室の中に、自分以外の誰かが居る。記憶の中の蓮歌と重なる言葉は確かに現実、この耳が拾ったものだ。

 見回した凜香のその視線が丸窓の前の長椅子に止まる。

 一人きりであった筈が、そこには影の輪郭でも分かる華奢な女の姿が在った。

 記憶の中のその姿に重なるそれに、凜香の唇は震えた。

「そんなに鹿爪面してちゃ顔が皺だらけになるよ」

 今度こそ例えようもない感情が凜香を襲う。

 立とうとしてふらつき、それでも机に爪を立て立ち上がる。

 何度も乾いた唇を舐めようよう()いて出たのはあの時と同じ言葉。

「あ、貴女は・・だあれ?」

 湧き上がる涙に(むせ)る。

 王を差し置いてなどとは思わなかった。私も私こそあなたに会いたかったと訴えていた。

「私かい?・・・懐かしいと感じるよ。私は蓮歌。そう言いたいが違うんだ」

 歓喜に飛び上がりかけた凜香を制するように、影の人物は告げる。その様子が申し訳ないと頭を掻いているようで、それすら蓮歌に重なる。それなのに自分は蓮歌では無いと言う。当たり前と言えば当たり前だ。蓮歌はもう居ない。その亡骸を清めたのは自身だと言うのに凜香は認められなかった。

 震えながら頭を振る凜香に、困ったのか影の人物は長椅子から立ち上がると凜香の側に寄って来た。

 灯火の届く場所にその小さな(くつ)先が見えた時、まだ薄暗い位置で困ったように自分を見上げる少女を凜香は見た。

 出会った時の蓮歌より幼く、ツヤツヤとした黒髪ではなくやや赤焼けした黒髪の、健康的に日焼けをした少女。夜の星を集めたかのような瞳では無く、陽の光を吸ったかのような金色の瞳の中には青葡萄色に透けた斑が浮いている。丸い頬には薄く雀斑が浮いており、草原の民そのものの特徴のある顔をしていた。

 蓮歌は草原の民なのに乳色の肌に艶のある黒髪と黒い瞳。木の実のような形の瞳に高い頬を持っていた。草原の民として異質なのは蓮歌だったのか。

「貴女は誰なのですか?」


「私は青姫。『神の娘を渡す者』だ」

 凜香は己が息を呑んだことさえ自覚せずに青姫に目を奪われていた。

 つい今迄肉体を持つ少女と話していたというのに、目の前の少女は神々しいまでに雰囲気を変え、凜香を圧倒したのだ。

『凜香・・久しいな』

 己の肩ほどしかない少女がいつの間にか見上げるような形になる。知らず膝を付き、拝跪するように見上げていた。

 人が変わった様子の少女が『何』に変わったのか。凜香には分かっていた。

『蓮歌様・・蓮歌様、蓮歌様!」

 もう孫が居ても早くはない年頃になったと言うのに、童のように年端も行かない少女に抱き着き泣いた。少女が不器用に、それでも慈しむように撫でてくれるものだから、凜香は汲めども尽きぬ涙を流し続けたのだった。



「貴女様ときたら、本当に酷い御方」

 目が腫れ上がる程に泣いた凜香の横で、罰が悪そうにしながらも少女は神妙に凜香のお小言を聞いていた。

「貴女様がお一人で全てを済ませてお逝きになってから、陛下はそれはもうお悲しみになられて・・・このままでは衰弱死もあると臣は皆生きた心地もしないと嘆きましたよ。

 勿論、私もです」

『ハイスミマセンデシタ』

 再会の喜びは一転、思い出された怒りの頂点に凜香は何十年ぶりかのお小言で発散することにした。今ある自分の状況も蓮歌の後始末に過ぎない。蓮歌が去った後、身分的に釣り合う事と蓮歌に仕えたことも有り王妃となったようなものだった。白い婚姻ではあったが、蓮歌を知る数少ない同志として国王夫妻は在ったのだ。

 国王は蓮歌が残した国を、凜香は蓮歌が案じた国王と民を自分が負える限り尽くしてきた。

 少女は反論も無く遠い目をしながらもお小言に付き合っている。

『はあ・・でも、ああするしかなかったんだ。分かってくれろとは言わないけれ・・ハイスミマセン』

 たまりかねて言い訳をする少女を凜香は一睨みで黙らせる。

「ふう。申し訳ありません。蓮歌様にもご事情があってのあの仕様だったと分かっているのに、この数十年の愚痴が出てしまいました」

 言いつくし満足したのか、凜香はしれっと頭を下げた。

 こんなやり取りも久し振りで、王には申し訳ないがこの時を独占できる喜びに浮かれていた。


「それで?、お顔は違いますし御年もそうですが・・・生まれ変わりという事ではないと?」

 お小言から解放されて息を吐く少女に、幾分冷静になった凜香は問うた。

 逡巡(しゅんじゅん)の後、少女は諦めたように話し出した。

「あ~、青姫だ。私から説明するがいいかい?」

 がらりと少女の様子が変わり、それでも砕けた雰囲気で青姫(・・)が話し手を代わった。

 それだけで生まれ変わりと言う話は否定された。それでは憑依、青姫は憑坐の巫(よりましのみこ)であったのか。

「詳しいことは制約があって言えないが、単純に言うと条件の揃った一族の女の中に蓮歌様を降ろすことが出来る者がいる。それが今代の私という事だ。

 呼び出そうったってできやしないが、蓮歌様の御意思で降りて来られることがあると覚えていて貰えればいい」

 簡潔に、青姫は凜香の想像を肯定したかのように見える。けれど、それさえ前置きで否定されたようだ。

 気づいた(・・・・)凜香に青姫が笑窪を深くする。

「あ~、貴女を侮っている訳じゃないって分かっているよね?」

 問われて勿論と凜香は頷く。元より凜香は自分を王妃として凜香の下位者だと認識している。王国の王妃の上位者は国王。そして蓮歌だ。青姫もある意味蓮歌の代理者と理解すれば自分より上位であることは明白だった。

 青姫が(蓮歌が)聞くなと言うのならばそれは聞いてはいけない事なのだ。去りし神々の時代から言霊の存在は未だに民を支配している。迷いもなく凜香は受け入れているのだ。

『あの馬鹿が出払った巣に蛇が忍び入って来た。

 私は私の血が受け継がれる間はこの国を護ると誓いを立てた。そしてそれを果たしに来たまでよ』

 いきなり青姫から蓮歌に代わり、物騒な話を始める。

 巣とは王国。蓮歌の口振りでは王城の事だろう。蛇は帝国か。王不在の上に今は妃候補を王城に招いている。今も残りの候補の選定を行っていた。

 生さぬ仲の子とはいえ、実の母以上に自分を敬ってくれる王太子に相応しい妃をなどと烏滸(おこ)がましいが、敵味方が混在する王城で王太子を支える者の選定に手を抜くわけにはいかなかった。その中、蛇が入り込んだとすれば自分の失態だった。

 考え込む凜香に蓮歌はやれやれと首を竦める。

『お前さん一人が抱え込む問題では無いだろう?

 まあ、あの馬鹿は役に立たん。頼りになるのはお前さんだよ凜香。

 そんな訳で草原から妃候補として青姫を出したんだ』

 かなり端折ってしまわれたが、要するに、人の(わざ)ではどうにもならない案件であるらしい。

 死者の庭に旅立った筈の蓮歌が一族を動かしてもなお挑まねばならない相手。心当たりにげんなりとする。

「本当にしつこい御仁でございます事」

 誰が手を伸ばしてきたか理解した凜香の放言に、蓮歌は苦笑を()く。

『最後にあの変態の寝所に雷落して神像を砕いたことを根に持ってるのかな?』

 ペロッと舌を出すような口振りでとんでもない事実が知れた。

 帝国との長い戦いに一応の終止符が打たれた時には蓮歌は肉の身体を手放したばかりっだったのではなかったか。記憶を辿り、凜香は撤退する帝国軍の狼狽振りを思い出していた。

 神像を砕いたリ、神の裁きと言われる雷を落とすなど、今更ながらに蓮歌の人外振りに唖然とする。

するが、雷を落とされた『あの変態』の腰を抜かしたろう姿を見てみたかったと爽快な気分になった。

 蓮歌が死者の庭に上ったという情報を得ても数年は引きこもり続けた神皇帝。想像するだけでも愉快ではないか。

『内憂外患。獅子身中の虫がいる。私が残した吾子に手を触れさせるものか。

 だから、凜香、後宮を作って欲しいんだ』

 害虫退治に後宮?凜香は首を傾げる。

『国と言う単位は大きすぎるし、個人に対しては的が小さすぎる。吾子に手出しさせないように『箱』を作って欲しいのさ』

 未だに理解までには至らないが、凜香は『諾』と頷いた。

 自分が言っておいて蓮歌は少々呆れた顔をしたが、相変わらずの『相棒』に笑みが零れた。



 後々皇国が王国を継承しても、蓮歌が錬った呪は王を護り継嗣を護った。それは初代の王が王太子に王位を譲った翌日、小さな簪を握りしめた姿で縊死した(首を吊った)姿が内々に病死と発表された日に発動し、今もなおこの国を護り続けている。

 残された王妃は新しい王を支え、その身を後宮に移すと生涯後宮から出ることなく過ごしたと言う。

 元々内宮に在った別棟の王妃の宮を取り囲むように建てられた後宮は、3代国王の時代に今の姿となっている。

 王妃は亡くなる直前まで執務室に在り、眠るようにして逝去したと伝わっている。王妃は壁を見上げるように長椅子に横たわり、穏やかに微笑んでいたと最期を看取った侍女は証言している。

 王妃の執務室、その壁面にいつの間にか描かれていた絵は草原を駆ける馬に乗った女の絵。それはまるで見ている者を誘うように手を伸ばしている。

 そして、最初に描かれた馬上の女の絵の側には椀状に枝を張った大きな樹の下に佇む女。馬上の女に微笑み手を振っている。後から書き加えられたらしいその女は王妃の若い頃の顔に似ていたと伝わっている。










「あれからほんに大変でしたよ。

 王は蓮歌様の事を知らずに逝かれましたが、死後はその身を焼いて喉仏を蓮歌の所になんて言い残すものですから、臣やらなにやらひっくるめて最後は恫喝迄して・・喉仏の事は言わずに済みましたがね。

 今はお二人仲ようお過ごしでしょう?私は今しばらく行かずにおりますから?どうぞゆっくりとお慰め下さいましね?」

 近頃すっかり狭くなった視界いっぱいに色鮮やかな裳裾の女が裸馬に跨り草原を駆けている、今にも動き出しそうな絵が描かれている。

 蓮歌が事を成し凜香に暇乞いをしに来た時にはもう描かれていた。

 生々しいまでのその頬の丸味や匂い立つ襟足の後れ毛の一本一本が、絵の才能云々を問わずとも蓮歌自身を描いていた。

『あの馬鹿には見せるなよ。此処に住み着くかもしれん』

 唖然と見ていた凜香もかくかくと首を振り『是』と答えていた。

『ちと恥ずかしくはあるが、これで礼になったかな?』

 思いがけない蓮歌の言葉に凜香の瞳には涙が溢れでてくる。

 先に泣かれては泣くことも出来ない。そんな凜香に、何よりの贈り物であった。

 王は死ぬ。自ら蓮歌の元へ行くために。けれど、自分は後に残り王の遺言を実行し、命ある限り残されたモノを見続けなければならない。そう蓮歌が去った時に誓っていた。

『苦労ばかり掛けてすまない。もう少し吾子を頼みたい。

 待っているから。

 また会おう』

 出会ったあの時のようにあっさりと蓮歌は身を翻す。依り代であった娘も、また草原に帰ると聞いている。草原の蓮歌の一族はどこか乾いた風のようで颯爽と振り返りもせず帰るのだろう。

 蓮歌が滞在した間の騒ぎも、極わずかの者が真実を知るのみ。すぐにあの娘の事も忘れられるのだろう。

 凜香は蓮歌として会っていたが、娘自身と話した時間はそう長くはなかった。

 今になって話してみたいと思う。事が成る迄はそんな暇などなかったのだ。


「まあね、生きている間に3度見(みたびまみ)えるとは思ってもいませんでしたがね」

 蓮歌の子2代国王が世は国が安定し、民も(ようや)く得た平和に酔いしれていた。

 2代の治世が爛熟期に入った時、2代の王太子が暗殺される事態が起る。

 父親の血を濃く受け継いだのか、肉親に対する愛情の深さは先代に勝るとも言われた2代は復讐に捉われその徳を穢すこととなる。

 そんな折、再び草原から一人の少女がやって来る。

 年老いた王太后となっていた凜香は少女をそれとすぐに知ったが、手を(こまね)く状況に少女があもうも言う間もなく縋り付いた。

 皺深くなった凜香の手を労わりながら握りしめた少女は前任の少女よりも美しく思慮深かった。

 側妃として招かれた少女はあっという間に2代を鎮め、事の黒幕を引きずり出して2代の御前で法に基づき裁いた(・・・)。復讐に猛っていた王は憑き物が落ちたようにその裁きを認めたのだった。

 少女は2代と共にないときには王宮の書物という書物を読んでいた。

 多大なる功績に対し臣より上申され2代が望みを問うと、少女は王宮の全ての書物を読む許可を求めた。

 公務に勤しむ王に代わり、王太后が少女を己の執務室に招いた。

 口数少ない少女は蓮歌と代わることは無かったが、蓮歌の匂いのような物を凜香は感じ取っていた。

 それ以来、新しい書物を持っては少女が凜香を訪ねる姿を見ることとなった人々は、凜香に近い者以外は見当違いの嫉視を向けたが、だからどうなったという事も無く日々は過ぎていく。

「初代様はお幸せなのでしょうか?」

 口数の少ない少女が珍しく壁の絵をなぞりながらぽつりと呟いた。

 凜香は数瞬その真意を考えたが、すぐに苦笑いをして答えた。

「幸せでしょうよ。そうでなければ此方が堪らない」

 あまりな言い様にポカンとした少女はすぐに笑いだす。鈴の転がるようなそれに凜香は初めて少女が笑う姿を見たと気付く。

 そして少女の覚悟と生き様を知った。

「貴女はどうなの?」

 何を聞かれたのか分からないと目で答える少女に、凜香は再び問い掛ける。

「蓮歌様の依り代としてこうして再び助けに来てくれたわ。陛下の側妃になってまでね。

 でも、貴女自身の幸せはどうなのかしら?蓮歌様があんまりな無体をするようならば、あちらへ行った時には懲らしめてあげましょうよ」

 



 

 


 

パショコンたま、画面が緑なんです。見難いんです。話が長くなるんです・・は関係ないか。

次回は『皇帝、後宮に行く!』の巻っ!


読んで戴き感謝感激!

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