表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

おせっかい焼き合い

主人公不在パートが有るので語り手が変わります。

居ないとおもったら冒頭いました、すみません。

「お早う、しのぶちゃん


 昨日、ソーマくんに遭った雛菊は変だった。

 しかし、今日の方がもっと変だった。

 何て言うか……その、昨日は気を失いそうに

 悲壮な顔してたのに。

 憑き物が落ちたかのような晴れやか……なのはいいけど

 何その微笑み。裏の無い慈愛に満ちた顔……って言うの?

 とても初見だわ。


「お、おう、昨日……どうしたよ、清水野」

「昨日偶然しのぶちゃんの彼氏さんに会ったの」


 何だって?翔くんに?

 あまりにもソーマくんがショック受けすぎてて

 それにウケて馬鹿笑いし過ぎたせいで会えなかったんだけど。

 何で雛菊が翔くんと会ってんの?

 と言うかノロケついでに写真も何度か見せたけど、確実に見てなかっただろうに。

 覚えてたの?


「え、あれから?何で?」


 取り合えず雛菊の話を素直に聞いてみることにした。

 様子がおかしい。とてもおかしい。

 昨日の静かにブチ切れた雛菊も初めて見たけど、こんな穏やかな雛菊見た事ない。

 大体イライラしてるか、自分の考えに浸ってるか、凹んでるかで、私がちょっかい出したらちょっと上向く。みたいなのを繰り返してるのに。


「女に絡まれていたからお助けしたの」

「オタスケ?」


 雛菊、言葉もどうしたの。

 そんな言葉遣いじゃなかったでしょう。

 翔くんは王子様か何かなの?

 女に絡まれていたってのより正直気になるわ。


「しのぶちゃんはあんな素晴らしい彼氏がいるんだから、その下衆い性格を矯正しするべきだと気がついて」

「な、何がどうなってそうなった!?」


 私の話をされているはずなのに、どうして意思疎通が不可能なんだろう。

 私はさっきから度肝を抜かれっぱなしなんだけれど、

 雛菊は全く私に関心を向けてくれない。


「女子力を二人で磨こうと決意したの」

「何で!?」


 女子力!?

 悪いけど今の私に全く似付かわしくないのに!?

 予想外過ぎて悲鳴が出た。


「大丈夫、私も足りてないけど、しのぶちゃんを彼氏に相応しいように努力するわ。

 一緒に頑張りましょうね」

「待て待て待て待て何の勧誘だよ!?」

「天真爛漫で控えめで可愛いしのぶちゃん。

 それが彼氏さんのイメージなのよ」


 ……え、嘘だあ。

 翔くんは一体雛菊に何をしたの?

 洗脳?

 そんな変な人じゃないよ?…多分。


「カケルくん……。

 一体雛菊に何を吹き込んだんだ。宗教みてえ!!」

「あの人は癒しの大天使か何かね……」


 イヤシノダイテンシ?

 ……何それ。

 雛菊、そんな事言うキャラじゃなかったでしょ。

 寧ろ昨日私がのろけ過ぎた?精神が不安定になった?


「ぎゃー!!支倉兄弟のせいで雛菊が狂ったー!!」



 ……そして、学食。

 埒が全く開かなくて、私は弟の方を呼び出した。

 こういう時の呼び出しは、使ってない教室とかだろうって?

 でも間違っても二人きりになりたくないから、学食を選んだ。

 どうせ昨日と同じく駄弁る人多いんだから誰も聞いてやしない。

 聞いてた所でただの喧嘩にしか見えないだろうし。


 で、5分遅れてやって来たソーマくんはちらっとこっちを認識した途端、素通りされた。

 呼んだのは私だよ。

 でも私も我慢してやってるんだから我慢してほしい。

 翔くんと雛菊のことが無ければこんな奴正直構いたくない。

 根暗でしつこいとか最悪で嫌だ。


「おぉい、ソーマくんよぉ」

「人を呼びつけておいて何だその態度は。

 女が片膝立てて座るな」


 私と目を合わさないようにして、ぐるぐるとソーマくんは辺りを見回した。

 残念だけど、お目当ての子は居ないよ。

 本屋で女子力っぽい本を買うとか、意味の分からない事言ってたから連れてくるどころじゃない。

 本音を言えば別に付き合っても良かったけど、今の私ではキャラじゃないからね。


「雛菊ならいねーよ」

「おまっ…雛菊と仲直りを手伝ってやるって言うから

 来たんだぞ痴女!!」


 人の事言えないけど、口悪いなあソーマくん。

 根暗め。


「うるっせえんだよ!!

 どーせテメーが児童館とやらで雛菊を苛めたんだろ!!

 そのせいで雛菊がジョシリョクとか言い出したんだ!!」

「苛めてないし意味が分からんし、お前に女子力なんて無いだろ」


 おー嫌そうな顔だ。

 ソーマくんに罵られた所で痛くもかゆくもない。


「だったら何であんなにテメーを嫌うんだよ!?

 雛菊は怒らせたら蹴り入れられるけど、あんまり引き摺らないんだぞ?!

 どんだけ恨まれることしたんだ」

「恨まれっ!?」


 昨日の事が有って好かれてるとでも?

 何ショック受けてるんだ。追い討ち掛けた?知らない。

 今からもっと追い討ちをかけるから。


「じゃあ雛菊が何もしてねーテメーを苛めたのかよ?」

「馬鹿言うな!!雛菊は昔は優しかった」


 成程、昔は、ね。

 残念ながら雛菊は今も優しいよ。

 ちょっと妄想と思い込みが激しいけどね。


「ってことは、テメーは雛菊に優しくしてねーな」

「……っ」

「テメーもおかしいんだよ。

 何で歳も違うしおんなじ学校でもねーのに、しつこく雛菊覚えてんだよ。

 フツーじゃねえよしつこいわ」

「……」


 どうだ、ド正論だろ!

 そんなしかめっ面で黙るってことは、何かがあるって白状してるってもんだ。

 根暗め。


「何したんだ?あー?」

「雛菊は、俺にだけ優しいから」

「ハーァン?」

「腹立つなお前…他の奴等とは喧嘩もするのに、俺に対しては優しかったから」


 あー、ひねくれてるわコイツ。

 今まで執着するほどの雛菊に、当時優しくされてたのに嫌そうとかおかしくない?


「何が不満だったよ?」

「ちょっと、意地悪をして……喧嘩とかしたら、もっと仲良くなれると…当時は思って……」


 まあ、子供っぽいっちゃあ、子供っぽいな。

 仲良くしてくれる子に、もっと構ってほしくて?

 陰口を叩いた?定石も定石だな。

 でもまあフツーに嫌われるわ、それは……。

 ……アホだ、コイツ。


「かまってちゃんかよ」

「……っ、雛菊の、名前を似合ってないって……他の子と、話したり、仲良くしたり」

「うーわー名前のトラウマ制作お前かよー……。

 何ちゅークソガキだ」


 まあ、当時としちゃフツーの子供らしいちょっかいの掛け方だわな。

 でもまあ、それで雛菊はあんな今でも蒼白になる位

 傷ついちゃった訳だ。


 それは他でもない、ソーマくんだから。

 これだけ時間が経ってるのに、ショックが甦るほどインパクトを与えられた相手だから。

 本人気付いてんのかどうなのか、今は分からないけど。

 ベタだなー。

 当時何が有ったか知らないけど、

 しつこいなー二人とも。

 そんなに綺麗な思い出な訳?

 羨ましいわ。


 ソーマくんは私の言葉にビクッとした。

 こっちも過剰反応だ。


「トラウマ?」

「あんだけ本人に言われたのにまだ気付かねーの。

 お前が雛菊のコンプレックスにトドメ差したの!ぶっ壊したの!」


 昨日みたいに愕然としてるし……。

 うーん、物分かりが悪いな。

 まだ心の整理がついてない感じかな。

 何年経ってるんだ。

 こっちも執着するんなら心の整理位しておいてほしい。


「……」

「でも雛菊も湿っぽすぎる。

 何で10年近く引き摺るんだ。

 こんなクズい奴のクズい思い出、さっさと忘れたらいいのによ」

「俺が、図鑑の事を持ち出したから」


 うーん、プルプルする男も見たくない。

 後悔するならやるなっての。

 分かってんのかな。


「あーあーお前も雛菊もバカばーっか。

 初恋こじらせ野郎はこれだから」

「……初恋?」

「何お前、好きでもねー子に他人まで使ってちょっかい掛けんの」


 私がトドメとばかりに言い放つと、

 ぶわっ、と、首までソーマくんは赤くなった。

 …男の照れてる所なんて別に見たくないんだけど。

 あ、翔くんなら別。

 照れてほしい。色んな顔が凄く見たい。

 ……とっと、いけない雛菊の事だった。


「おい、雛菊のことまさか男だと思って構ってねーだろうな」

「と、途中までは思ってたが、ちゃんと分かってからだ!!」


 途中までって……何歳までか知らないけど、失礼だなー。

 雛菊、本当にコイツでいいのかな。

 止めといたほうがいいよ、しつこい根暗は…。


「んで今はどーだよ。

 女子力付けるとか言ってっけど、テメーより背は高いし?

 喧嘩もまーまー強いぞ」



 大丈夫だとは思うけど、念押しに押しすぎて悪い事は無いだろう。

 言わずもがなって感じの顔だけど。


「恐竜は今でも好きなのか」

「は?恐竜?部屋にはプテラノドンいたけど」

「じゃあ、いい」

「何がだよ」

「多分、今も恐竜を見て笑顔は可愛いだろうから」


 ……はっ、キモイ!!

 じゃない、訳分からない!!

 ……うわー、思い出してよりによって私に笑うなっての。

 何それ。

 私は脱力しそうになった。


「変な希望……」

「とりあえず、謝ろうと思う」

「まー、そっからだな」

「後、お前は兄貴に相応しくないが、いい奴だと思う。男だったら良かったのに」


 よく言われたな、その台詞。

 そう思ったことも、無いではない。

 一時期男だったら良かったのにって何度も思った。

 でもだけどしかし、だ。


「やだね、女の子だから翔くんの目に止まって、男の人も悪くないなと思って、

 将来を誓おうと思ったのよ」


 何時もの歯を剥きだして悪い顔を作るのではなくて、

 にこ、と微笑んでやる。……自然に笑うのは久しぶりで、難しいな。

 痛々しそうな顔で見るんじゃない、ソーマくん。


「……お前、相当に男嫌いなんだな」

「バレた?」


 本命には全く不器用なアホの癖に。

 私に興味ないからか、鋭いな。


「見た目で寄ってくる男を故意に幻滅させてるだろ。

 おかしいと思っていた」

「女は好きだけど?」


 そう、好きな方だ。

 仮に寄ってこられたとしても、女ならまだ大丈夫。


「一瞬同性愛なのかと思ったが、お前は兄貴の前では普通の女だ」

「そーそー、見つめられると恥じらう乙女なんだぜ」

「ある意味雛菊より病的だ」


 本当に鋭いな、ソーマくんは。

 そういう所はちょっとだけ、ちょーっとだけ、翔くんに似てる。

 本命に鋭さを発揮した方がいい。


「私って可愛いだろ?」

「自分で言うなと言いたいが」

「これでも小学生になる前までは、フツーに親の趣味で花とフリルの服着て、評判のおとなしい美少女やってたんだぜ」


 そう、ちょっと気弱で可愛い服も大好きだった。

 将来は童話みたいな素敵な王子様と幸せになると考えてた。


「変態に目をつけられたのか?

 小学生の頃、変質者が女子を襲う事件が有ったのを思い出した」


 遠慮が無い、全く持ってその通り。

 …勘が良くて助かるよ。

 思い出したくも無い、お話。

 でも、思い出しても、大丈夫。

 だってあの頃の私はもう居ないから。


「おー、よくある話だろ?

 幸いギリで助かってよー。

 でもさ、未遂でしかも近所の奴だから結構早くブタ箱から出てきやがるんだよ。

 怖くてさー、必死に無い知恵絞った訳~」


 でも大丈夫。今更怯えない。

 乗り切ったんだから。

 うん、大丈夫。


 って必死で顔を作ってるのに、全く興味無さ全開でこっちを気遣わないな、

 ソーマくん!!

 可愛い女の子がトラウマと戦ってんだぞ!?

 労わって!!

 あ、やっぱいいわ。

 何とも思わないしむしろ気持ち悪いわ。


「それで、今のお前の性格か」

「おかしいんだぜ?

 顔変わってねーのに男子みたいな行動取るだけで、全くだーれも私をエロ目的な目で見なくなった。

 いやー、大成功だったわ!」

「……お前……残念だったな」


 いや、私より悲惨な目に遭ってる人はたくさんいるし、今は幸せだし。

 ソーマくん、別にそんな辛そうに見なくていいよ。

 そういう優しさは雛菊に取っといて……!!


 会話だけならそうなっていいシーンなのに、現実、目の前のソーマくんの台詞は口先だけ。

 心の底から、本心から興味が無いのがびっしびし伝わってくる。

 うん、そういう男だって知ってるけどこの人本当に腹立つ。


「でも、翔くんが止めろって望むなら……」


 …無駄だと思うけど、一応シリアスに持って行っておこう。

 その顔も見たくないって言う態度と胡散臭い目をずっと貫かれたけど。

 ソーマくん、本当に性格悪い。

 雛菊の為とはいえ、嫌いなソーマくんにも協力してやってると言うのに……。


 あー、翔くんが恋しいー。

 何でか初めて会った日から、何時ものように男子っぽく振舞えないんだよ…。

 自分を守る為の振る舞い方が、翔くんの前では出来ない。

 昔の自分が出てくる。

 ひらっひら来たおとなしい自分が。

 ああでなかったら、襲われなかった自分が。

 ……とっくの昔に沈めて来たってのに、なー。

 あー、翔くんー、一日逢ってないだけなのに寂しいよー。


「……何でそんなに兄貴が好きなんだか」

「お前だって10年ちょい雛菊を無意識に探してるの

 上手く説明できないだろ。理屈じゃねーの」

「それは……まあ」


 理屈でどうにもならないんだよ。

 翔くんが足りないー。


「認めてくれた?

 いやー、やっぱ翔くん以外は単純で楽だわー」

「お前な」

「とりあえず雛菊に、下らねえ構ってちゃん行動を何年振りかで説明してこい。

 テメーもずっと泥沼みたいな目で見られたくないだろ」

「……じゃあ、明日」

「今行けよ」


 往生際って単語を知らないの?

 だからこんなに時間が経ってもこじれてるんだ。

 ソーマくんは本当に雛菊の事になるとヘタレるな。

 私は出来るだけウザそうに見える顔で睨んでやった。


しのぶ、まあまあ暗い過去持ちかつお花畑思考の方が本体でした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ