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噂の彼

ヒロイン、友達の彼氏を救う。友達の彼氏、ヒロインを癒す。

色々ごっちゃですね

 全力疾走で、後ろを確認しつつ、幾つか角を曲がるのは逃走の基本。

 小学生の時に遊んでいた公園が目に入り、私は其処へ飛び込んだ。

 遊具はもうすっかり入れ替わっていたが、何となく懐かしい感じ。


 流石に遊具に座り込むわけにもいかず、

 適当なベンチに座り込んだ。

 直ぐ撤退したからあの女の顔見てなかったけど……!


「はー!スッキリした!!」

「それは良かった」


 完全勝利ー!!

 とテンション高い私の目の前に差し出されたのは、お茶のペットボトル。

 その先を目線で辿るとニコニコと微笑む、カケルさん。

 え、信じられない。

 ……何でいるんだ、アンタ……。


「足速いね、助けてくれてありがとう」

「ど、どうも……。

 その、カケルさんも足速いんですね…」


 うん?別に陸上とかやってないけど、まあまあ足は速い方だぞ?

 何で付いてこられてんだ、この人。


「いや、自転車だよ」

「あっ、そうですか」


 翔さんが指し示した先の自販機に自転車が立て掛けてある。

 通りで息が切れてない筈だ。

 準備良いな。


「学校から帰ろうとしたら急に立ちはだかられてね。

 人前で轢く訳にもいかないし」


 ……。

 それは…大変迷惑被ってたとは思うけど…。

 この人、さっきから結構とんでもないこと言い出すな。


「助かったよ、雛菊ちゃん」



 カケルさんはにっこりと私に微笑んだ。

 ……待って、会った事もないのに名前当ててきた。

 エスパーか?



「……何故名前を」

「しのぶから散々聞いてるよ。

 仲のいい、何でも話せる友達だって」

「そう、ですか……」

「写真も見せてもらったよ」


 私は脱力した。

 ……そっち先に言ってよ……。

 カケルさんは私の横に座って、コーヒーの缶を開けた。


「僕の正体も分からなかったのに助けてくれて有難う。

 優しいね、雛菊ちゃん」

「いや、そりゃ散々貴方としのぶの名前が出てましたから……」

「そうだね。あんな公道で人の彼女を貶すとか無いよね」

「何なんですかあの女!!

 本当の事だけどあんな偉そうに!!何様だってんだ!」

「本当に許せないよね。

 今日は穏便に行ったけどどうしてくれようかなあ」


 ……うん?

 何かさっきからにこやかに物騒な事言ってるな?


「……毛虫浴びせたのに、穏便、ですか」

「彼女に降ってきたのは毛虫じゃなかったから怪我はしてないよ」

「あっ、そうですか……運がいいな、じゃなくて、頭に虫落とされて平気な女の子居ないと思いますが」


 自分で思うわお前が言うなって。

 ホント、毛虫降らせてやろうとやった私が言う事じゃないな……。

 うん、私って結構酷い奴だ。


「しのぶは別に平気だったけどね」

「そりゃしのぶは平気ですよ……」


 今ではやらないが、しのぶは小学生の頃、蜂も毛虫も掴んでたからな……。

 怪我?

 親が止めようが先生がキレようが、しのぶは生傷だらけだったよ…。


「雛菊ちゃん、僕に対してしのぶは遠慮してるのかな」

「……ドウナンデスカネ……」


 …流石に、ついさっきの自分の本性が曝されたくないというしのぶが浮かぶ。

 …うん、アレは正直ウザかったけど。

 あんなしのぶの必死な様子…言えない…。


「雛菊ちゃんは優しい子だね」

「そうですかね……。

 誰でも友達がバカにされたら怒りませんか」

「そうだなあ、そんな熱い友達も居たかなあ」

「過去形ですか……」

「この歳になるとね、

 社会人と学生の溝って言うか……その他いろいろ合わなくなるんだよね。

 友達の為に不利益被ろうって言う付き合いって……遠いよね」

「……そ、そうですか…」


 え、意外。善意の友達に囲まれた生活とかしてそうなのに。

 この人も学生だった筈だけど、何か疲れてるな……。


「あの、その……」

「何かな?」

「しのぶは……カケルさんの前では、

 ど、どうなんでしょう」


 しのぶのお花畑トークはウザかったけど、気にならないでもない。


「おとなしいね」

「おとっ……なっ……しい……ですか」


 おおっとーーー!?しのぶと対極にある単語が来たぞー。


「彼女は天真爛漫だけど控えめな子なんだろうと思うんだけど」

「テンシンランマンデヒカエメナコ……」


 ……今までのしのぶがやらかしてきた事は……いや、そりゃあ……人を陰から陥れたりはしなかったけど……。

 天真爛漫……?

 好きなように思うがままの野生児って意味だったらそうかな?

 違ったよな?

 控えめ……控えめ……当てはまらない。

 駄目だ、呪文に聞こえるな……。


「優しくて素直な子なんだね、雛菊ちゃんは」


 よしよし、と頭をかき回す優しい手。

 ……イケメンに頭を撫でられてしまった。

 友達の彼氏に…複雑だ。

 しかも先輩の顔に似ているという……複雑だ。


「あの…木を蹴って人に虫を降らせて、逃げるような優しくて素直な子は居ないと思いますが」

「僕は君が優しくて素直な子だと思ったから、言ったんだよ」

「そうでしょうか……?結構嫌な奴だと思います」

「どうして?」

「小学生の頃に在った事を思い出して、キレるような奴ですから」

「誰かに嫌なことを言われたの?」


 まずい。

 自分でうっかり言った癖に、心のドロドロが溢れそうになる。

 目が熱くなってから何か垂れて来たし……。

 ……これは涙じゃない、膿だ……。


「……」

「誰かに嫌なことを前に言われたから、しのぶを悪く言われて怒ったんだよね?」

「……そういう、訳じゃ」


 カケルさんは微笑んだ。

 先輩と似た顔で。


「友達を悪く言われて怒る君はいい子だよ」

「そんなんじゃないですから」

「ううん、君は、優しくていい子だ」

「うっ……」


 そんな大したことを言われてない……筈。

 先輩と重なるのに……ま、眩しい……。

 何て眩しい微笑みだ。

 ドロッドロの涙も引っ込んでしまった。

 この人の微笑みで暗い感情があっという間に飛んでいく……。

 人知を超える浄化とカ癒しパワーでも会得しているのか……。

 何なのこの人の癒し加減は……。

 何も知らなかったらうっかり惚れそうになるな…。


 しのぶの彼氏な上に、先輩と顔が似てると言う最高の障害が立ちはだかっているから絶対惚れないけど。

 尊敬は向けたい感じだ。

 家族でも何でも無いけど……何て言うか、こう……自分でもよく分からない感じ。

 何だろう、この気持ち。


「私、カケルさんとしのぶを全力で応援します」

「ありがとう」


 カケルさんが微笑んだと途端、今まで無風だったのに、爽やかな風が吹いた。

 不思議だ……浄化の微笑み?


 ……それにしても、私はおかしい。

 どうして先輩と似たような顔の人に慰められただけで

 こんなに心が軽くなるんだろう。

 あっ、ファンって奴かな?信仰の対象?

 それっぽいそれっぽい……のかな、多分。

話が長くなってきましたね…。短めの筈なのにな。

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