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夕焼けこやけの橋の下

お花畑(毒属性)降臨。

 そして……私は近くの川に掛かった橋の上で、

 黄昏れていた。

 さっさと家に帰ろうかと思ったけど……やたら疲れて橋に体重をお任せしていた。

 しのぶの話だけで疲れてたのに、

 怒鳴ったから余計疲れた……。


 無いわー、学食でキレるとか無いわー。

 しかも、何の説明もしてないから、とんでもない逆切れ言いがかり女なキレ方。

 向こうからしたら、会わなくなった昔馴染みに声かけたら突然キレられたってことだよな。

 ……理不尽極まりないな。


 …人の名前馬鹿にするとか、向こうが悪いわけだし……

 うう、まだ駄目だ。消化できてない。

 ……イライラする。


 それにしても……

 あんな個人的トラウマ要員がしのぶの彼氏の弟とか、無いわー。……世間って狭いわー。


 そして、自己嫌悪とか色々で下を向いた私は、最悪の事実に気が付いた。


 ……何で私はこんなところまで走ってしまったんだろう。

 この橋の下、最近お洒落に舗装された遊歩道じゃないか……。

 挙句時間は夕焼けこやけなんて

 デートスポットじゃねえか!!


 うわっ、もうカップルが集まり出してるし!!

 荒む!!最高潮に荒む!!


「カケルさん、好き……」

「僕は好きじゃないんだ、ごめんね」

「あんな女に義理立てしないで。

 カケルさんは自由なのよ」

「うん、自由意思で嫌だと言ってるんだ。諦めて」


 …あ、あそこの葉っぱ出始めた桜の下で痴話喧嘩起こってるわ。

 桜の下なんて毛虫出るぞー。

 しかもライトアップされてるから蚊柱立つぞー、

 馬鹿だなー。


「受け止めて、カケルさん」

「いや、受け付けない」


 あ、女の方が抱きつこうとして避けられた。

 見事だ……。

 スカッとか効果音が入るくらい派手な避けかただわ。

 面白いな、あのカップル……。

 いや、告白中の人達?

 橋の上だし遠慮なくガン見させてもらおう。


「貴方のその頑なな心をほどきたいの」

「さっきから何言ってるの?」

「嬉しい、やっと私のこと気にしてくれるのね」


 おお…すげえな、あの女の方。

 しのぶの頭お花畑さなんて可愛いもんだわ。

 しのぶがトラバサミ置いた花畑なら、あの女は毒沼に広がる花畑だね!

 うーん、男の方がドン引きしてるのがこの距離でも分かるわ。


「あのしのぶとか言う女は、自分を偽ってカケルさんにすり寄ってるのよ」

「しのぶからすり寄られたことは悲しい事に全くないよ。

 いつも触るのは僕からの方で、しのぶは恥ずかしそうにしてる」


 しのぶ?

 ……お兄さん、今何と言った。

 ん?そう言えば女の方がカケルさんって呼んでたな。


「カケルさん」と「しのぶ」


 さっきトラウマ要員が現れるまで

 付き合わされていた…話の張本人達。

 お花畑進化した小学生男子とその彼氏の名前じゃないか。

 あっ、いけない。女子だ女子。しのぶは女子。

 本当に忘れそうになるわ。


 友達の名前とその彼氏が出てきたことで、他人事じゃなくなった私はそれまで暇つぶし感覚で

 ガン見していた気分を切り替る。そして、告白されてる男の方をじっくり観察した。


 男の方は……多分二十代。

 顔は……あのトラウマ要員の先輩と似てる?

 ……似てるな。

 あの男の人の方が先輩よりもずっと優しい系の顔立ちだ。

 似てるけどあの先輩じゃないから腹は立たないな。

 良かった、其処まで自分が狭量じゃなくて。


 ……どうでもいいけど、しのぶが面食いだとは思わなかったな。

 寧ろ、初対面の顔の良い男子に一目惚れされたら(前に何人か居た)幻想をぶち壊すのも面白いし、大好きだと豪語していたしのぶが……。

 …アイツ、そう考えると最高に男の敵だな……。


 それとも他人の空似かつおんなじ名前?……こんな近隣でおんなじ名前のカップルが

 ニアミス……しないと思う。


 それにしても、しのぶが男に触られて恥ずかしそうにしてるだと?

 一昨日朝イチで男子とサッカー部のゴールに登って

 生徒指導室呼ばれてたしのぶが?


 ……やっぱり別人かな。



「あの子、本当は男の子みたいな乱暴な性格なのよ」


 ……やっぱり本人かな!!


「泥だらけで男子生徒と遊び回ってるのよ!」

「元気でいいね」

「クラスの男子生徒といっ……いかがわしい本を読んでたわ!!」

「え、そういう媒体その年で読んだことないの?

 不健全だね」

「ふけっ……!?

 ……女子をいやらしく触ったりもしてたわ!!」

「へー、だから?」

「だから!?」


 ……論破に突っ込みどころが有り過ぎる。

 ……このカケルさんって人、しのぶの彼氏だけあって、中々だな……。

 只のイケメンじゃないわ。正直侮ってたわ。


 それにしても、腹立つなこの女。

 しのぶの素行はホントだけど、こんな毒畑女に悪意ある口調で罵られる筋合いは無いよ。



 私はそっと、二人を見下ろしていた石橋から降りて

 桜の木の下へ近寄った。

 隠密行動は背がでかいので向いてないけれど、出来るだけ静かに。

 女はヒートアップに忙しく、私どころか周りに全く気が行かないらしい。

 全く気が付かれない。

 相変わらずあれやこれやと、しのぶの悪口をカケルさんに向かって喚いている。


 ……ムカつくなコイツ。

 よく考えたら、やり口汚くしのぶの悪いイメージを

 彼氏に流して(真実だけど)カケルさんを奪おうとしてるんじゃないのか。

 フツーに汚いわ。

 しのぶが色々規格外で彼氏も斬新だったから色々今まで気付かなかったけど、一般的な手口だわ。


 しのぶからカケルさんを奪いたかったら本人に言えばいいだろうに。

 返り討ちにされろ!!


 私の心は決まっていた。

 この、しのぶをバカにする女を

 まあまあ痛い目に遭わせてやりたい。

 ……さて、どうするか……。

 ちょっと微妙だけど、しのぶの得意技を使うかな…。


 時間も無いからそんなに複雑なことはしない。

 そう考えると木越しにカケルさんと目が合った。

 この人を巻き込むのは忍びないな。しのぶの彼氏だし。


 そっと合図を送る。

 右手人差し指と中指を交互に動かしてから、

 掌全体で押し出す動作をした。


『後ろに下がって』


 分かったかな?

 念の為、声を出さずに口を動かす。


 私の登場に、少しびっくりしたようなカケルさんは、

 少し微笑むと、ふわっ、とこれまたタイミングよく残った桜が舞い散った。

 ……ドラマか?

 ……これがイケメンの風魔法って奴か……。初めて見たわ。


 その微笑みに、女は勘違いしたようで……ピンクのハートが飛んでそうな声を出す。


「カケルさん、やっと分かって……」




 ドンッ。

 ボタボタボタッ!!



 うん、桜の木は生き物です。

 決して良い子も悪い子も真似しちゃ行けませんよ。



「ギャアアアァーーー!!!」


 この手の悪戯は、

 しのぶの方が得意かつ容赦ないんだけど、まあこのくらいで。


 当然、私は木を蹴ってから全力で後ずさり、全力で逃走した。

 まあ、虫くらい平気だけどね。

 服の中に入り込まれたら後始末が厄介なんだよね。

 後ずされるスペースが無いときは、フード着用で限界まで紐引いとくか、襟付きの上着ならを襟を内側に折り込むのが定石だよ!

 万が一入っても直ぐに対処出来るからね!

 あー、しのぶと長年付き合うと、変なスキルが追加されるわ……。

友人の恋路の危機にエンカウントで退治。

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