トラウマ要員
一応スクールラブの筈です。お読みいただきありがとうございます。
ご本人様登場……。
しのぶの顔色が悪い。旗色は最悪だ。
これはどう考えても…詰んだね。
まあ、学校の此処は公共の場ですからね。
一年生から三年生まで使い放題の学食スペースですからね!
しょうがないな、これは部外者は即刻退散しないとね。
自分の蒔いた種だ!
頑張れしのぶ!
ファイトだしのぶ!
負けてるけど!
私?私は聞いてただけだから!
烏が鳴いたからかーえろ!
「じゃあ、後はお若いおふたり同士で」
「「待てぇ!!」」
何でだよ。
何でこんな捕らえられなきゃならんのよ。
しかもしのぶはともかく、この弟さんは何故に私を掴むんだよ。
「……何でしょうか?何でその弟さん迄私を止めるんです?」
「支倉颯真」
これはどうもご丁寧に……っていや、覚えたくないし。
名乗られたから名乗り返すのって礼儀?
腕掴まれて拘束されてるこの状況で礼儀もへったくれも無くない?
いい加減放せや!しのぶも!
「こんにちは、カケルさんの弟さん先輩」
「いや普通に支倉でいいし、お前名前を名乗れよ」
うんうん、
しのぶとぶつかり合うのはごめん被りたいって顔をしてるな?弟さん。
でも人を緩衝材代わりにしようとしている顔だな?
普通に嫌だよ。
「しのぶちゃんの友達1-2とかで結構ですよ」
「そんなこと言わないで1年2組6番、清水野雛菊ちゃん」
「……しのぶ、ぶっ飛ばすわよ」
うん、お約束だな!
しのぶならやると思ってたけどな!!
覚えてろ!!
「ひなぎく?」
オウム返しに呼ばんでいいわ!
……うん、イラッと来た。何時もの事だけど。
この人に言われると何故か5倍イラッと来た。
うーん、何でだろうな……心の奥底からイラッと来た。
「気にしないでください、芸名みたいなもんです」
「やだあ、雛菊ちゃんったら本名だよねー」
「要らんことを言わんでいいし、
人の名前で誤魔化さないでくれる?」
「……の名前と一緒だ」
「はァ~ン?ンだってぇ~?」
腹立つ言い方してんなあ。
素が出てるけど、しのぶ、弟さんの前で取り繕うんじゃなかったのか。
「図鑑と名前が一緒だ」
「……ソーマくん~頭大丈夫?」
「失礼だよしのぶ、一番ヤバいのはしのぶだよ」
「全くだ、痴女。そうじゃなくて」
「図鑑がどうかしましたか?
確かに私の名前は似合わないことに花の名前から取られています。
図鑑には載ってると思いますよ」
うーん、関わりたくないのにこの弟さん先輩は絡んでくるな。
意味が分からない。何故図鑑。
「そうじゃなくて」
「どうした~ソーマくん、清水野に何か用~?」
「いや用があるのはしのぶにでしょ。
何で私が関係あるの」
「雛菊、俺はお前に図鑑を借りた」
「?
先輩とは初対面ですが。誰かと間違えてません?」
「いいや、面影がある。お前たしかに雛菊だ」
お前確かに雛菊だと言われても何が何のこと?。
さっきまでの先輩のあまりの変わりようにポカンとしたが、しのぶの顔を見て我に返った。
コイツは本当に表情がコロコロ変わるが……驚くと本当に誰が見てもイラッとする変顔になるな…。
本当にちゃんとしのぶは彼氏の前で猫でも花でも良いけど、被れてるんだろうか。
先輩がバラさずとも、絶対バレてそうな気がするけど。
私がしのぶの顔に白けていると、先輩は更に続けた。
「恐竜の図鑑を貸してくれただろ。
何時の間にか児童館に来なくなって……何でだよ」
……?
……おおっと?恐竜の図鑑?児童館?
我がトラウマワードが出てきたような気がしたぞ?
そう言えば、小さい頃、全ての私の持ち物に名前を書いたのは確かお母さん。
で、あれにも書いてあったのか?
「……ああ……」
自分でもびっくりするくらい低い声が出て、一気に気分が真っ暗になった。
ぽちゃん、と沈めた何かが蠢いた気がした。
支倉先輩の顔が明るくなるのと正反対の
暗い暗い何かが心を占めていく。
「思い出してくれたか?」
「ええ、まあ」
あの時、児童館。小春日和の日当たりのいい部屋で。
誰とも遊ばないで、寂しそうにしていた彼。
必死に話しかけて、笑顔を見せてくれるまで、とても大変だった。
時は過ぎて、同じような小春日和。
女の子と楽しそうに私の図鑑を読んでいた、
あの子か。
私の名前が似合わないと、他の子に言っていた……あの子か。
ああ、思い出したくない。
イライラする。
あの時の感情がまざまざと流れ込んでくる。
大したことないと言い聞かせた気持ちの、蓋が開く。
「あれからずっと会いたかったんだ」
「私は会いたくありませんでした」
これは怒りなのか何なのか分からないが、眩暈がしそうだ。
あの幼い私の心の中のような。
最早さっぱりわからなくて、ドロドロし過ぎて見えなくなったけど、無くなってない。
心に沈めたあの人が目の前に居た。
ヒーロー登場~トラウマを引っ提げて~