断じて変態ではない、可愛いものが好きなだけなんだ!
「あんた、いい加減にしとけよ。このドスケベじじい!」
満員電車の中で響いた彼女の声は、まるで勇者のように勇ましくかっこよかった。
たまたま混みあった電車に乗ったのがいけなかったのだろうか。
藤崎辰馬、16歳。
祖父が名付けてくれた男らしい名とは真逆な、背は160㎝前後で極度の女顔である。
小さい頃は可愛い可愛いともてはやされ嬉しかったが、今はまったく嬉しくない。
姉と妹の影響で可愛らしいものが大好き。
ましっろなフリルや、カラフルなお菓子、ふわふわしたもの。
そんな俺、辰馬は、今、すごく困っています。泣きたい。
ざわざわと車内がざわついている中、俺はふるふる震えていた。
だって、俺、今、すごく、情けない。
怖いし気持ち悪かったし、もう心の中はぐちゃぐちゃだった。
男に尻触られてる。これ、痴漢っていうやつだよね?
なんで?え?なんで?
俺、男なのに、男に・・・?・・・痴漢?
ふにゃりふにゃり、さわさわ、もみもみ、手が尻をいったりきたりされている感触に鳥肌が立つ。
誰か助けて。
誰か、誰か。
下を向いて耐えるしかない。
怖いし気持ち悪いし、自分で対処出来ない。
そんな中、後ろのほうから聞こえた彼女の勇ましい声は、俺を地獄から救ってくれたんだ。
「あんた、いい加減にしとけよ。このドスケベじじい!」
「な、なんだ!俺は、何にもしてないぞっ!」
ぷぎぷぎと逆切れしながら、ササッとどこかへ消えていった小太りのおじさん。
「ッチ、逃げられたか。まったく、あのエロじじい・・・ちょっと、あんた大丈夫なの?」
トントン、と優しく肩を叩かれた。
ゆっくり振り向くと、そこには美少女が心配そうに俺を見つめていた。
写窓から光が彼女を照らした瞬間、天使かと思った。
背は小さく小柄で、ぎゅっと抱きしめたらすぐに壊れてしまいそうな儚い雰囲気。
雪のように真っ白な肌に暗闇のような真っ黒な黒髪、朝焼けのようにほのかに染まった頬、イチゴのように鮮やかに可愛い唇。
「ちょっと、ねぇってば!」
小さな真っ赤な唇が動き、声を発する。
その声は甘く甘くスイーツのよう。
次へ駅に着いたとアナウンスがながれた。
~駅~駅~
「あー、まぁいいや。とりあえず、いったん落ちよう。落ち着くべ。」
小さな手が俺の腕を取り電車を落ちる。
「ほらほら、まぁ座って。」
ぺたんとベンチに座らされた。
彼女が横に座り、ぎゅっと優しく抱きしめてくれる。
「あんなのさっさと忘れちゃいなさいよ。クズなエロおやじなんて気にすんなっ!気にする時間がもったいないぜっ!」
なっ!と優しくポンポンと背中をされた。
この短時間で俺はいろいろありすぎて、頭がオーバーヒートしそうです。
つづくかな?