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3 婚約者

コンコンコン。


「室長、私です。入っても良いですか?」

「あ……はい。どうぞ……」


 呆然としたままソファに座っていた私は、カインの呼びかけで我に返る。

 

「母がすみませんでした」

「あー……うん」


 突如現れたカインの母こと王妃は、巨大な爆弾を仕掛けていった。


『息子のお嫁さんになって欲しいのっ』 


 衝撃的だった。

 近所のおばさんに言われるならまだしも、相手は自国の王妃ときたもんだ。

 ぶっ飛ぶわ。


「で、王妃はもう帰られたのか?」

「はい。迎えが来たので」

「そうか……」


 王妃の爆弾発言の後、カインが何やら静かに怒り出し、私は一旦部屋に戻された。

 呆然としたままメイドに連れられて部屋に戻り、今まで呆けていた。


「……もうサラお母様って、呼ばないんですか?」

「っ!」


 隣に腰かけたカインが、口元をニヤつかせて面白そうに私を見ている。

 こいつやっぱり面白がっていやがったなっ。


「ははっ、すみません。室長が苦虫を噛み潰したような顔で母を『お母様』と呼ぶもんだから、可愛くて」

「はぁ!?」

「いやいや、本当に。それに母も嬉しそうでしたからね」

「ハッ!誰かさんが婚約もせずに、いい年して独り身だからだろう。早く親を安心させてやれ」


 王妃がぶっ飛んだ発言をしたのだって、元を正せば五人も息子がいるのに誰一人身を固めてないからで。

 王族のくせに揃いも揃って婚約者もいないんじゃ、王妃だって心配になるってもんだ。


 カインは苦笑してるけど、はて、本当に何故この男は婚約者の候補すら決まってないんだろう。

 結婚相手として、こいつはかなり良い物件のはずだ。

 上玉中の上玉だろ?選り取り見取りじゃないか。女性から嫌ってほどアプローチかけられているだろうに……。

 こいつに熱をあげるご令嬢方の中には、王族とだって釣り合う身分の令嬢もいたはずだ。名前は忘れたが、あー確か大臣を務める侯爵家だったかなんだかだ。


「おい、何で婚約してないんだ?王子が揃いも揃って婚約もしていないなんて。珍しいよな?普通王族は子供の頃から婚約者が決まっているもんだろ」

「まあ、普通はそうですね。……でもそんなこと言ったら、室長だって貴族のご令嬢だととっくに嫁いで子供もいる年齢じゃないですか」


 うっ。痛いところを突いてきやがる。


「……何か?私は嫁き遅れだとでも?」

「いやいや、そういう訳じゃ。確か室長は、社交界にデビューされる時期に研究所にスカウトされたんでしょ?普通貴族のご令嬢方は未来の良き伴侶を獲るために、こぞって着飾り出席されるじゃないですか。それなのに研究一筋って、室長結婚するつもり無いんですか?」


 私が研究所にスカウトされたのは十五歳の時で、丁度デビュタントの年だった。

 カインの言う通り他のご令嬢方はみんな、我先にと競うように社交界へ出席していた。

 気付けば友人たちは皆結婚出産して、独身なのは私くらいだ。


「私も貴族令嬢として……義務だし、一応デビュタントは済ませたぞ。それに結婚だって……」


 ううーっ。この先は言いたくないんだが……。


「結婚だって、何です?」


 言い辛くてモゴモゴしていると、カインが追求してくる。

 口ごもったんだから、察しろよっ!言い辛いんだって分かるだろ?


「あー……普通の少女たちの様に結婚に輝かしい理想をもってた訳じゃないが……する、予定だったんだ」

「する予定って、結婚を?室長が?……室長、婚約してませんでしたよね?」


 研究室の面子には一度も話したことのない、私の黒歴史。

 訝しげに見てくるカインに、私はポリポリと頬をかいた。

 まあ、良いか……カインなら。

 

「……いたんだ」

「え?」

「いたんだよっ!私にだって婚約者が!!悪いか!?」


 ったく、お前だから話すんだからなっ!


「悪いに決まってるでしょ。室長に婚約者?そんな報告受けてませんけど」

「は?」


 何これ。カインいきなり超絶不機嫌になってるんだが。

 目が詳しく事情を話せといっている……。


「ま、まだ正式に婚約の手続きをふんでいなかったんだが、父が決めてたんだ。口約束の段階だったが、両家の間では話は通っていた。私のデビュタントが済んでから、正式に婚約して一年後には結婚の予定だった」

「……」


 カインの無言が何故か怖い。


「だからな、本当は魔法薬の研究も趣味に留めておいて、スカウトも断るつもりだったんだが……。うーん……これ、誰にも言うなよ。こんな話、女性にしたら不名誉極まりないんだから。実は……、婚約者には隠し子が三人もいたんだよ。それもみーんな違う女性との間に。向こうは巧妙に隠して私と婚約するつもりだったらしいけど。元々私の婚約者を決めたのは父の独断で、母は知らなかったんだと。で、相談もせずに娘の婚約を決めた父に腹を立てて、母が父の目は信用ならないから、相手方の素行調査をするって言いだしてな。まぁ、確かに父はあまり目が利く方でないから……。結果、婚約者の女癖の悪さと隠し子が発覚し、ご破算となりましたとさ」


 あー、あの時は大変だったー。天誅だなんだと怒り狂う母を止めるのに必死で、破談になったことをショックに思う暇すらなかった。

 そもそも会ったのも1回顔合わせしたぐらいだったし、正式に婚約もしていなかったのが不幸中の幸いだな。

 デビュタント前で社交界に婚約者と出席したことも無かったから、私の名誉はさほど傷つかず今となっては、私に婚約者らしき男が居たことを覚えているのは親族くらいだろう。

 

 さっきから黙ったまんまのカインからは、ヒリヒリするほどに冷たい空気が出ている。

 今から戦にでも出るのか、と言いたくなるほどに高まったカインの魔力が身体から溢れてバチバチと音を出す。

 え、何でこいつこんなことになってるんだっ?臨戦態勢じゃないかっ。


「ちょっ、カインッ!」


 得意じゃないが、結界でも張ってカインの魔力を抑えた方がいいのか!?


「……ああ、すみません。……ふぅーっ」


 カインは焦る私に焦点を合わせると、一つ息を吐き魔力を治めた。


「何でいきなり臨戦態勢─」

「ねえ、室長」

 

 カインが私を遮る。


「なっ、なんだっ!?」

「好きだったんですか」

「は!?」


 ちょ、怖いんだがっ。

 カインの声が不気味なほどに優しく響いて怖い。

 お前笑ってるつもりかもしれないけど、目ぇ全っ然笑ってないじゃないかっ!!余計怖いだろっ!

 いや、断じてビビっている訳じゃないがっ。

 お前はいつも飄々としてて、私がどんな無茶を言っても怒ったりしなくて、っホントに、何をそんなに怒ってるんだよ!


「その婚約者……チッ、その男のこと、好きだったのかって聞いてるんですよ」

「舌打ち……」

「室長の答え以下によってはその男、生かして──」

「好きなんかじゃなかったっ!!」


 咄嗟に叫んでいた。

 何故かここできっぱり否定しておかないと、大変なことになると思ってしまったから。

 それに……今すっごい物騒なこと言わなかったか!?カインのキャラが変わってしまってるっ!

 私のとった行動は正解だったらしく、カインの周りの空気が和らいだ。


「カ、カイン……?」

「そうですか。それなら、良かった」


 どうやら元通りのカインに戻ったようだ。

 良かった……。何だったんだ一体。こいつのキレるポイントが分からん。


「でも室長」

「ん?」


 あれ?いつの間にこんなに近くにカインの顔が……ってか、私の両サイドに腕を置かれてグイグイ来られると、体勢が苦し──


「これからは勝手に婚約なんてしちゃいけませんよ」

「へ?勝手にって、そんなこと言われてもあれは父──」

「返事は?」

「いや、そもそもお前に──」

「返事は?」

「……はい」

 

 何でそんなことグイグイ迫られた挙句、怖い顔して言われなくちゃいけないんだとか色々思ったけど、カインの威圧感に負けて了承してしまった。

 もう、ほんと何なのこいつ。怖いんだけど。


「よし。良い子」

「わっ」


 私の返事に満足気に笑ったカインは、グイッと私の身体を抱き上げて自分の膝の上に乗せた。

 幼児にするように、私の頭を撫で回す。


「ちょ、何なんだ、お前。もう訳わからんぞ、さっきから」


 撫でるカインの手をぱちりと叩き落として、カインを睨みつける。

 昨日身体が縮んでしまってから、カインの見たこともないような威圧感とか、雰囲気に呑まれて自分が負かされ通しで悔しくて、反撃してやる。

 

「お、何ですか室長。積極的ですね」


 抱えられていた抱っこ体勢から、行儀が悪いが靴を足で脱いで下に落とし、カインの足を跨いでソファに立つ。

 こうすると幼児の身体でも、何とかカインを見下ろすことが出来る。

 カインは面白そうに見ながらも、私の行動を止めず、私が足元の不安定さから転げ落ちないように、私の脇腹をさり気なく支えている。

 

 そうだ。そのまま私の身体を両手で支えているが良い。

 そしたら貴様は無抵抗で私にされるがままだ。くくっ。

 悪どい笑みを浮かべながら、私はカインの顔に両手を寄せた。


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