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1 実験失敗

短篇で上げてましたが、一話完結してないので連載にしました。

 ドッカーーーン!!


「うわっ!ヤバッ!失敗したっ!」


 マズい。ちょっと今回のは、派手に失敗し過ぎた……。

 研究室は、煙が充満している。

 今の爆発で、窓ガラスは割れたろうなぁ……。くそっ、また経理部の奴らにネチネチ言われんなぁ。

 あーあ。 

 ゴホッゴホッと咳き込みながら、煙で見えない足元を確保しながら立ち上がる。


 バンッ!!!


「室長っ!!今の爆音っ──うわっ!?何だこの煙っ!!ゴホッゴホッ」


 お、来たか。

 すごい勢いで部屋に入ってきたのは、室長補佐のカイン・ゴスコート。

 こいつの本当の名前は、もっと長ったらしくて、慇懃無礼な名前だが、覚えてない。


「│風よ、換気しろ!《マーム、ジュドル》」


 モクモクと充満していた煙を、割れた窓の外へと、風が運んでいく。


「おーおー、風の属性持ってる奴は便利だなー」


 見る見る視界が晴れて、カインの姿が見える。


「……し、室長……?」

「やー、まいった。絶対成功するとふんでたんだけどなー。何が悪かったんだ?タイミングか?それとも、ジャクジャク草が多かったか?」


 私はこの研究室で、魔法薬の研究と製作を行っている。

 元々は趣味で研究していたが、腕を買われて研究室で働き始めて、気がつけば室長まで上り詰めていた。

 最年少室長だ。私は、凄い。


「ししししっ室長っ!?なっ、何なんですか!?その恰好はっ!?!?」

「は?なんだ?顔に煤でも付いてんのか?あーあ、そう言えば白衣もこんなにボロボロに……っはあぁっっ!?!?なっ、なんじゃこりゃーーーっっっ!?!?!?!?」


 ちょっと待てっ、ちょっと待てっ。

 おかしいおかしいおかしいっ。

 何でこんなに白衣がデカいんだっ!?ってか、何だっこの紅葉のようなお手々はっ。

 カインッいつの間にそんなにデカくなったんだ?

 元々、デカいデカいとは思ってたけど、これじゃあまるで巨人じゃねぇかっ!

 ってか、椅子も、実験台も、研究室もデカくなってる……。

 間違いない……これはっ──。


「縮んでるーーーーーっっっっっ!?!?!?」


 ガクン。

 膝を付いて、打ちひしがれる。

 

「し、室長……?」


 カインが私の元まで駆け寄る。

 ああ、見るが良い……。この哀れな私の姿を……。


「無様だと思ってるんだろっ!笑えば良いさっ!!小っちゃくなった私なんて、どうせもう室長失格だっ!!クビだクビッ!次の室長はお前だろうっ!」


 縮んでしまった自分が情けなくて、目一杯カインに八つ当たりする。


「はぁ!?ちょっ、訳分かんないこと言ってないで立って下さいっ。床は色々散らばってて危ないですからっ」


 理不尽な八つ当たりをする上司にも優しい男だな、カイン。

 さすが結婚したい男、五年連続一位に輝いて、殿堂入りまで果たした男だ。

 屈辱でささくれ立った心では、素直になれず、私は座り込んだままだった。


「室長っ!セシリア室長っ!!……もー、仕方無いですね。よいしょっと」


 数回の呼びかけにも、頑なな姿勢を見せる私を呆れた顔で見た後、カインは私をヒョイッと抱き上げて、立たせてくれた。


「あーあぁ、こんなに煤だらけになって……」


 言いながらも、パンパンと私に付いた煤を手で払ってくれる。


「ご苦労」


 されるがままになっていた私は、プライドが邪魔して礼も言えず、偉そうにカインに労いの言葉をかける。


「ほらっ、粗方綺麗になりましたよ。それにしても……今日は派手にやらかしましたねぇ。こんなんじゃ今日はもう、研究は無理ですね。危ないし、一旦出ましょう」


 そう言って、カインはまたもや私を抱き上げる。


「やっ、歩けるっ!降ろせっ!!」

「はいはい、暴れないで。室長縮んじゃってんだから、危ないですよー」


 ジタバタと藻掻くけれど、カインに何のダメージも与えられないまま、廊下に出てから降ろされる。


「くそっ。歩けたのにっ!」

「まったく、室長は素直じゃないんだから。そこは、ありがとうでしょうがー」


 仕方の無い人だ、とカインは笑う。

 

「さて、ここからが問題ですね。どうしましょうか。服も……そのままって訳にいかないし、着替えたところで、どう見ても幼女の室長をこのまま働かす訳にもいかないし……」

 

 服……、ダボダボになって、今にもずり落ちそうだ。

 今日はワンピースにしておいて良かった。ズボンだったら、ずり落ちて下半身を丸出していたかもしれない。


「取り敢えず、一旦家に帰る。いつ失敗した魔法薬の効き目が切れるか分からんが、一週間程休暇ってことで。急ぎの仕事も無いし、有休も溜まってたし、丁度良いだろ。後は任せた」


 そうだそうだ。家帰って風呂入って寝よ。

 今日はもう疲れた。

 一週間もすりゃ、元の姿に戻るだろう。


「ちょーっと待った!」


 テクテクと出口に向かおうとした私を、カインが止める。


「?なんだ?本当に急ぎの仕事は無いぞ?」

「いや、そうじゃなくてっ。室長って、今一人暮らしだって言ってませんでした!?」

「あ?そうだけど?それが何か?」


 実家から研究所は遠くて、特急馬車でも片道二時間はかかってしまう。

 なので研究に集中するためにも、ここから近い場所に部屋を借りて、一人で住むことにしたのだ。

 年頃の未婚女性の一人暮らしってことで、反対する奴らも居たが(カインにも反対された)セキュリティーのしっかりした所にしたので、説得出来た。

 私だって、仮にも研究室室長まで上り詰めた魔術師なのだ。研究畑だと言っても、素人相手に負けはしない。


「何か?じゃないでしょうっ!あんた今縮んでんですよっ!?」

「あ……」


 そうだ……。私縮んで……。


「ああっ。私のボインがっ!豊満セクシーバディがっ!!こんな貧相な身体にっ」

「ちょっ、何盛ってるんですか!あんた縮む前からペッタンコでしょうがっ!!」

「チッ。ちょっとくらい感傷に浸らせろよ」


 ったく、良いだろー。こんな時くらい。細かい男だぜー。


「はぁー。どう見ても五歳児の姿で、舌打ちは止めてもらえませんかね」

「もー、縮んだもんは仕様が無いだろ。何とかなるから、心配すんなよ」

「仕様が無いって、あんたねぇ……。……とにかく、そんな姿のまま一人で暮らすなんて、私は反対ですよ」


 反対って言われても、困るんだが……。


「今実家は出払ってるんだけど。今朝から屋敷の人間全員で慰安旅行だそうだ」

「え……、じゃあ室長の家、誰一人居ないんですか?」

「ああ。一応、臨時の警備員は雇ったらしいけどな」

「そう、ですか……」


 こんなことなら、私も一緒に旅行行っとけば良かったかなー。

 いや、でも、今回の実験は絶対成功するって思ってたからなぁ。


「な、仕方無いだろ?どうせ、家で引きこもってるだけだし、大丈夫だって。それにニャン太が居るから安心だ」

「ニャン太って、猫でしょうっ。番犬にもなりませんよ」

「おいっ。失礼なやつだな!ニャン太は勇敢なんだぞっ!この間だって、しつこい勧誘のオッサンを引っ掻いて追い払ったんだ!あのヤロー、要らないって断ってるのに、しつこく部屋にまで入って来やがったからな。制裁だ、制裁っ!!」


 ニャン太の勇敢さを語りながら、ぐわっはっはー、と笑っていると、周りの温度が急激に下がる。


「は?今何つった?部屋に入って来ただと?」


 冷気の発信源は、カインだった。

 ゴゴゴゴッと音がしそうな程、凄みのある引きつった笑顔で迫ってくる。


「おっ、おいっ。カインッ!近いっ!」


 おいっ、キャラ変わってないか?!

 なんなんだっ?そんな乱暴な言葉初めて聞いたぞ!?

 いつも、お前が私に、言葉遣いを注意するくらいなのに?!

 カインが身を屈めながら、グイグイ近づいて来たかと思うと、ヒョイッと肩に担ぎ上げられる。


「うわっ!!」


 高いっ!!足も不安定でプラプラとした状態のまま、カインは廊下を歩き出す。

 頬に風を感じる程のスピードで歩くもんだから、怖いのなんのって。


「降ーろーせーっ!!!」

「黙ってねぇと、舌噛みますよ」


 普段より一オクターブほど低い声で答えられ、不覚にも黙ってしまう。

 怖かったわけじゃないっ。カインなんて、怖くないっ。私は室長だっ!!偉いんだぞっ!!!


 移動途中で、カインが風の属性魔法を使ってワープする。

 ワープした先は、重厚な扉の前だった。

 私はまだカインの肩に担がれたまま、その扉をくぐる。

 部屋に入ってすぐにある、ソファに少々乱暴に降ろされる。


「おいっ!なんのつもりだ!なんのっ!!ここどこだっ?」


 広々とした部屋の造りに、シンプルだけど、高級な家具。

 続きの扉が奥に見え、まさか、と思う。


「俺の屋敷ですよ」


 やっぱり!

 一度だけ来たことがある。

 城を出て、屋敷を構えたと聞いて、研究室の仲間たちと、祝いに来たのだ。

 あの時は、男女問わず数人で押しかけたから良かったが…これは、さすがにマズくないか?


「おまっ、私はこれでも女なんだがっ!?」

「知ってますよ」


 知ってますよって……。そりゃ、知ってるだろうけども……。

 普通、年頃の女が独身の男の家を訪ねるって、そりゃ、『噂して下さい』って言ってるようなもんだろうがっ。

 魔法でワープしたから、道中誰かとすれ違ったりした訳じゃないけど、こういうのは使用人とかから噂が広まったりするもんなんだぞ!?


「今の室長は、ガキの姿なんだから、問題ないでしょ」


 ガッ、ガキ……。言うに事欠いて、ガキ……。


「カインッ!お前、口悪いぞっ!!いつもはそんなんじゃ無いだろ!?」

「今は、ちょっと怒ってますからね。室長こそ、お口が悪いですよ」

「私はっ、いつも通りだろっ!!」

「いいえ。いつもより二割増しで、言葉遣いが乱暴ですよ。……ああ、子供の姿になったのを、俺に見られたのが恥ずかしかったのかな?」

「なっ!?」


 なんだ、なんだ、なんだっ!?

 本当にこいつはカインかっ!?

 その余裕面をやめろっ!!!!


「ま、良いや。室長、元の姿に戻るまでここで暮らしてもらいますよ」

「は!?」

「あの貸し部屋は安全だと思ってたんですがねぇ。借りるのがおマヌケだと、安全だとは言いきれないみたいですね」

「おマヌケ!?」

「だってそうでしょう?勧誘の一つも自分で断れない上に、部屋にまで上げてしまうなんて、マヌケ以外の何だと言うんです?そのオッサンに襲われでもしたら、どうするつもりだったんだか」


 こいつっ!


「それくらい、やっつけられる!!私だって、一応魔術師なんだっ!!水の属性だって持ってる!!」

「でも、覚悟が無い。そうでしょ?」

「っ!!」


 覚悟──。

 人に向けて魔法を使うということ。それは、人を傷つける、もしくは殺めるということ。

 どんなに魔法に自信があっても、それは絶対じゃない。

 少し拘束しようと思って魔法を使って、人を締め殺す、何て事も起こりうる。

 魔術師には、対人間で魔法を使う許可が出ている。

 でも、私は人に魔法を使えない。

 人を傷つける……自分が人を傷つけた事実を、受け入れる覚悟が無いから。

 

「実力はあっても、あなたは襲われた時魔法で反撃が出来ない。魔法が使えないあなたをどうにかすることなんて、赤子の手を捻るように簡単だ。あなたは非力だから」

「っ……」


 泣くな、泣くな、泣くな。絶対泣くなっ。

 カインに泣き顔を見られるなんて、死んでも嫌だっ。


「……っはぁー。すみません、言い過ぎましたね。とにかく、ここに住んでください。元に戻った後のことは、その時話しましょう。ああ、一人暮らしは却下ですけどね」

「……」

「しーつちょうっ。すみませんって。ちょっと頭に血が上ったんですよ。勧誘の話、初耳でしたからね。あ、そうそう、姫を守りきった勇敢なニャン太さんを、迎えに行ってきますよ。室長はここで寛いでて下さい。メイドに着替えを用意させますから」

「……ヒラヒラした服は嫌いだ……」

 

 怯んでなんかいないってことを見せるために、精一杯偉そうに言う。


「はいはい。そう言っときますよ。じゃ、ちょっと行ってきますね」


 カインはそう言うと、すぐに部屋を出て行った。 

 パタン、と閉まった扉をしばらく見つめる。


 ……はぁ。

 いつもと違ったカイン。

 正直、怖かった。

 いつもはヘラヘラ笑って、はいはい、と私の言うことを聞くカインが、見透かしたような目で、私を貫く。

 必死で自分を保ったけど、あれ以上踏み込まれたら、ヤバかった。

 カインの言ってることは正論だから、余計に怖かった。

 くそっ。カインのくせにっ!!

 今日は、実験に失敗するは、カインはいつもと違うわ、散々だっ!!


 コンコンコン。


「お着替えをお持ち致しました」


 カインが頼んでおいた着替えが、到着したようだ。

 扉の所まで行き、背伸びをしてドアノブを回す。

 何でっ、こんなにドアノブの位置が高いんだっ!!

 プルプルとしながらも、何とか扉が開く。


「ありがとうございます」

「お手伝い致しましょうか?」

「いえ、一人で大丈夫です」

「左様ですか。では、何かありましたらお呼び下さい」


 メイドは不必要に話しかける訳でもなく、着替えを置いたらすぐに部屋を出て行った。

 さすが、教育が行き届いているな。

 カインは一体、私のことを何と説明したんだ?

 主人がいきなり幼女を連れて帰ってきたら、驚くだろう。

 しかも、カインは王位継承権を放棄したとは言っても、れっきとした王子だ。

 王子に幼女趣味があったら、由々しき自体だろう。

 いや、王族には意外と多いのか?

 他国の王が、四十歳程離れた側室を娶ったとか聞いたし……。 

 でも、いくら何でも五歳児はなぁ……。

 実際は幼女趣味でもなんでもないがな。

 歳だって私の方が、二つ年上なんだ。

 そうだっ、私は室長な上に、年上なんだぞ!!

 それなのにカインときたらっ、完全に私のことナメてやがるな。


 メイドが持ってきてくれた服を着て、元居たソファに戻る。

 たぶん、一週間位で元の姿に戻れると思うけど……、ここで暮らすのかぁ……。

 ……はぁ。

 ホテルに部屋を取る、とかじゃダメかな。

 でも、さっきのカインは有無を云わさずって感じだったからなぁ。

 あーっ!もうっ!!なんで私がこんなにビクつかなならんのだっ!!


「カインのバカやろーーーっ!!」

「帰ってきて早々バカ呼ばわりですか」


 ビックゥッ!!


「かかかか、帰ったならっ帰ったって言えよっ!!」


 び、びっくりしたーっ!!!


「魔法の気配で気づくでしょうよ、普通。ほら、ニャン太くんですよ。不審者と間違えられて、襲われかけたんで、ちょっと眠ってもらいました。三十分程で、自然に起きますよ」

「おー、ニャン太!!お前はやっぱり勇敢だなぁ!」


 ご主人の敵を倒そうとしてくれたんだなっ。うい奴めっ!!

 撫でくり撫でくり、と寝ているニャン太を撫でていると、カインが奥の続き部屋の扉を開く。


「ニャン太くん、ベッドに寝かせておきますか?」

「いいよ。そこはカインの寝室だろ?ニャン太はいつも私と一緒に寝てるし」


 私は客室でも用意されるんだろうか?

 カインの言う通り、ガキの姿だし、寝るだけならこのソファでも十分なんだけど。


「ああ。この寝室、今は使って無いんです。だから、室長はここで寝てくださいね」

「え?でも、ここカインの部屋なんじゃ?」


 普通自室の隣に、寝室が設けられている。

 この部屋はカインの部屋なのに、寝室を使って無い?


「ま、良いじゃないですか。あ、あと室長のことは、上司から預かった、姪っ子のセシリアちゃんってことになってますから」

「セシリアちゃんって、まんま私の名前じゃないかっ」

「はい。でも、室長って、いつも名前で呼ばれてないし、呼んでも家名のマグレーンだし。みんな室長の名前が、セシリアなんて可愛い名前だって知らないと思いますよ」


 うっ。確かに。

 私をセシリアと名前で呼んだ同僚なんて、カインくらいだ。


「……わかった」

「じゃ、セシリアちゃん、ニャン太くんをベッドに寝かせて下さい。屋敷を案内しますよ」

「くっ」

 

 にんまりと笑う、カインが憎い。

 しかも体格差がありすぎて手を繋ぐこともままならないと、カインに左腕だけで抱っこされ、屋敷を案内される。

 まんま子供扱いしやがってっ!!

 一見親子にも見える、この姿。

 何でこんな事になってしまったのか。

 こんなんで一週間過ごさなきゃならないなんてっ!自業自得だけど、屈辱だっ!!

 私は上司なんだぞっ!年上なんだぞっ!!


 ああっ!早く元の姿に戻りたーーーいっっっ!!!

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