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セクシャルタイガーホース-上

――「その歳で、彼氏も居ない。溜まってるんだろう?」

 やめろ。尻を揉むな。

――「俺に任せろ、満足させてやるから」

 脂ぎった手で触るな。

――「ほら、感じてるんだろう?」

 痛いだけだからやめてくれ!



「うわっ」

 毛布を跳ね上げ、夏海は目を覚ます。

 辺りはまだ暗く、風に揺れるカーテンの向こう側には夜の闇がどこまでも続いている。遮蔽物の届かない、マンションの七階。そこに、夏海の部屋はあった。

「思い出したくなかったんだけどなあ……」

 前の会社で受けた、セクハラの記憶。体を触られただけでも嫌だったというのに、その上司の態度が更に嫌悪感を加速させていた。

 きっと、陵辱系のポルノでも読み過ぎた勘違いオジサンだったのだろう。ソープで嬢をナカイキさせたとしきりに自慢していたが、そんなの演技に決まっている。風俗嬢は、凄いのだ。おもてなしのプロフェッショナルなのだ。

 そんな哀れな男は、勘違いのままに夏海に襲い掛かってきた。ある夜、残業から偶然ふたりきりになったオフィス。そこが犯行現場だった。

 記憶の底に封印していた、忌々しい出来事。

 夏海は、男性のスケベな妄想については、まだ理解がある方だ。だが、陵辱系のそれだけは、どうしても受け入れられなかった。

 やれ性欲が溜まっている女は無理矢理でも感じるだとか、最初は痛くても慣れれば気持ちよくなるだとか、オルガスムスに達すれば痴漢でもレイプでも許されるだとか、そういった類のものだ。

 そういった妄想を語られると、なんだか、女性としての尊厳を踏みにじられたような気分になる。自分はお前のワイフではないと、声を大にして言いたくなる。

 そのうえ、そんなことをほざく輩は大概経験豊富ぶっているから更に腹が立つ。いかにも童貞の妄想なのに、さも自分は真実をしっているといった態度が、どうしても気に食わない。

 気に喰わないので、相手が下半身を露出したところで思い切り蹴りあげて逃げた。

 その後訴えたら会社が潰れた……これが夏海が前の会社を辞めた経緯である。

 あの気に食わねえクソ上司はいつかこの手でぶっ殺してやる。社会的に死んだぐらいでは許さん。とか、いろいろ片付いてから一週間ぐらいは考えていたが、なんか久々に高いレストランで食事したら割りとどうでも良くなった。

 因みに、股間蹴りの衝撃で勃起不全になったらしく、傷害罪だどうのと言っていたが、夏海の正当防衛が認められた。あんな汚いものを好きで蹴ったわけでは無いのだから、当たり前だ。

「嫌なものを思い出してしまった……」

 割りとどうでも良くなったとはいえ、嫌なものは嫌だ。意識して思い出さないようにしていたが、思い出してしまった。憂鬱な気分になり、独りごちる。

 因みに、夏海はよく独り言を言う。一人暮らししていると声を出す機会がないため、意識的に出しているのだ。名づけて独り言政策。

 というのも、ずっと声を出していないと、喋れなくなるらしい――という話を聞いたからである。普通に社会人をやっていればそこまで酷いことにはならないと思うが、いざという時に声が出ないと、仕事の都合上困るのだ。

 そんなわけでブツブツ暗いことを呟きながら、ぐしゃぐしゃと頭をかく。長い茶髪が指に絡まる。痛い。

 朝早いというのに、少々気分が悪い。幸いにも今日は国民の休日だ。気晴らしになんかしよう。

 何しよう……。

 何かしよう何かしようと考えつつ、ダラダラと画像まとめを眺めて一人でクスクス笑っていると (気持ち悪い) 、既に時刻はお昼近くになっていた。

「時計見たら急にお腹すいてきたな……」

 腹の虫が聞こえたような気がした。聞こえると思い込むと幻聴が聞こえることがあるので、これは気のせいかもしれない。

 まあそんなことはどうでもよく、こんなくだらないことで時間を潰している場合ではない。

 早く今日の予定を考えなければ、一日が終わってしまう。

 そうだ、ご飯食べに行こう!

 沈んだ気分を引き上げるのに、食事はとても有効な行為だ。まあ、さっき見た猫の画像で半ば持ち直してはいたが……。

 そうだ、さっき見たサイトのリンクに貼ってあったミラノ風ドリアが食べたい。何がミラノ風なのかは知らないが、語感がいいので食べたい。

 思い立ったが吉日。もとい吉時。画像まとめをブラウザバックし、近くでミラノ風ドリアが食べられる場所を検索。

 結果。

「サイゼか……。そうか、この辺りでイタリアンってこれぐらいなのか……」

 まあ、ミラノ風ドリアがイタリアンであることは知らなかったのだが。

 いまどき女子高生みたいに 「サイゼはないわ~」 などと言うつもりはないが、さりとて今はファミレスという気分ではない。いや、サイゼをファミレス扱いすると怒る人が一部居るらしいが、夏海は (帰省した時とか) 結構ファミリーで利用していたのでそんな印象になるのも仕方がないだろう。

 別にミラノ風ドリアが食べたいだけならファミレスでもいい気がするが……そうだがっ、そうではないんだっ。

 夏海は、ちょっとお高い感じの、いい感じのレストランでご飯が食べたいのである。ミラノ風ドリアも食べたいが、ミラノ風ドリアが食べたいわけではないのだ(意味不明)

 だから条件は、近所で、少しお高めの店で、かつミラノ風ドリアが食べられるお店。結構ワガママ。

 そんなわけでもう少しリサーチすると、ある事実にぶつかった。

 なんと、ミラノ風ドリアはほぼ独自メニューであり、他のレストランではあまり提供していないというのだ。

 マジかよ……。



 その後、なんやかんやでダラダラと調べていた。ワインの裏メニューとか、そういうのだ。

 ミラノ風ドリアの夢が潰えて、目標を見失っていたのだ。

 もうこの際ファミレスでもいいかな……などと考え始めたところで、不意にピザが食べたくなった。

「ピザ……ピザピザピザピザ……ヒザ」

 ブツブツと独りごちながら、近所の美味しいピザ屋さんを探す。一番近いの宅配ピザだ……。

 その後も諦めずに探し、なんとかお昼に間に合うギリギリぐらいで、いい感じのお店を見つけたのだった。

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