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令嬢は生きるのがツライ  作者: 今谷香菜
~恋活、はじめます!~

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84/87

〜片思いはツライ〜

クロワッサンにハムを挟みもぐもぐと食べながら、私は向かいに座っている両親の顔を見た。


本日の朝食は最近だと珍しく、兄貴以外の家族が揃っていた。ちなみに兄貴はまだ寝ているようだ。


(しかし何だろう、この微妙な雰囲気……)


さっきから両親のどちらかと目が合う事もしばしば。何か言いたげな様子でいて、しかしすぐに「いや……何でもない」と黙り込んでしまう。


(何か怒られるような事したか?)


思い当たる節が無いのだが。

隣に座っているシルヴィアちゃんもこの両親の様子に疑問顔で、時々私と顔を見合わせては「どうしたのかしら?」という風に首を傾げていた。


一方ルークはというと、新聞をぺらぺらとめくっている。この重苦しい雰囲気などどこ吹く風である。


すごいなぁ、ルークはもう新聞を読めるのかぁー。


起き抜けのぼんやりとした頭でそんな事が浮かんだ。


視線に気づいたルークは顔をかしげて「読む?」と新聞を高く掲げるジェスチャーをとった。


私は首を横にふりつつ、「なんか面白い記事あった?」と尋ねた。


「んー、特には……あっ!そういえばあの王子がまた竜退治に行ったみたいだよ」


「あの王子って……」


「そんなの決まってるでしょ」


私は持っていたクロワッサンをポトンと皿に落としてしまった。


「ミラが……竜退治に?あいつまた……っ!」


悪竜が出たら勇者であるミラが退治をしなければいけないのは分かっていた。知っているのに。


でも私は何故だかひどく裏切られた気分になってしまった。


「滅多に出ないって、そう言ってたのに……」


ショックを隠せない様子の私を宥めるようにルークは続ける。


「まぁまぁ、母上。もう無事帰ってきたみたいだよ」


「本当か?!怪我とかは……」


「隣国の事だからそんなに詳しく書かれてないんだけどさ。小さな土竜だったみたいだよ。だからラクショー、怪我もしていないってさ」


「良かった……」


ほぅーっと細く長く息を吐いた。安堵から来るものだ。


そんな私の様子を見て、両親は意を決したように互いに頷き合う。


「オリー、シルヴィー、あのね……」


その時、上階からガチャン、バタバタと慌ただしい物音が聞こえた。


「あっ!私ごちそうさま!!」


「おねえさま?」


私は残っていたパンを口に放り込み、いそいそと席を立った。


「ま、待てオリヴィア!話したいことがっ!!」


と引き止める父親の声が聞こえた気がするのだが、「ごめん!後で聞くよー!」と私は急いで自室にダッシュしてしまった。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


私は激流に呑まれる小舟のよう。

櫂は役立たず。


愛のように物分かりが良く無い、恋というものに。


上も下も分からず底へ沈みゆく。



ーードゥイン著『あなたとの恋をもう一度』

より抜粋


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


慌ただしい朝食の後。


「うーん、ううーん」


私は以前アウルもといセスからプレゼントされた恋の詩集を読んでいた。


先日の女子会にてご指摘を頂きました通り、どうやらその、私は今『恋をしている状態』とのこと。それについて検証しているところだ。


「ちょっと抽象的過ぎて分からんな……」


詩だけに。詩的表現過ぎて。


これは自分の状況に当てはまるのか……?

そんな風に唸っていたところで。


「おねえさま、今よろしいでしょうか?」


部屋のドア越しに気遣わしげな声が聞こえた。


「シルヴィアちゃん?」


ドアを開けるとやはりそこには心配そうな顔をしている実妹の姿があった。


彼女を部屋に招き入れ、ベットに腰掛ける。


「私のお部屋から大量に恋愛小説を借りて行ったと思いましたらお部屋からずっと出てこないんですもの。どうかされたんですの?」


「あははごめん。ちょっと勉強しててさ。でもシルヴィアちゃん、持ってた本処分した?何かごそっと減ってない?」


彼女の部屋にあった本棚ーーまるまる棚2つ分の本が無くなったいたのだ。


シルヴィアちゃんは口元に手を当てて「うふふ」と笑う。


「いえ。貸し出しているだけですのよ。誰かさんも勉強中ですから。……おねえさまと色々と状況がかぶりますわね」


「ふーん?」


どこかのご令嬢のお友達に貸したのだろうか。読み直したかったものが結構貸し出しの状態であった。いつ返却されるのか。



「それでおねえさま。勉強というのは、どのようなお勉強なのでしょうか?」


「えっ?」


「お部屋からうなり声が聞こえますもの。朝もご様子がおかしかったですし。何か行き詰まっていらっしゃるのでしょう?」


そうか。

シルヴィアちゃんも従兄弟である兄貴を義兄として一緒に暮らしている。言ってしまえば自分と同じ立場の人間だ。

しかも私より女子力も高い。相談してみる価値しかない。


「あの、さ」


「はい」


「と、友達の話なんだけどね。友達の!」


「……ええ」


私はゴホンゴホンと咳払いをした。

何故だか実妹の目を見れなかった。


「その子には兄妹のように育って来たお兄さんがいてだな……」


「兄妹のように……ええ」


「とある日、別の友達から『そのお兄さんに恋をしてるんじゃない?』と言われて。すごく困惑しているみたいなんだ。その子はそのお兄さんの事を『兄のように慕っている』と。その範囲内の好意だとずっと思っていたもんだから……」


シルヴィアちゃんは目が点になった。


「おねえさま、いつのまに……」


「……っ!違うって、友達の話だから!」


「あ、ああそうでしたわね。お友達のお話でしたわね……」


「そうそう。友達の話だから、うん。だからね、その友達の悩みを一言でいえば。それが、その好意の感情がブラコンなのか恋から来るものなのかわかんないっていう……」


つらつらと今自分が悩んでいる事を話す。


「しかもその兄みたいな人と一緒に住んでいるらしくて……その事があってからまともに目も合わせられないというか……」


「一緒に住んで……まるで少女小説の主人公みたいなお友達をお持ちですわね、おねえさま」


「っ、そうだね。……改めて考えてみると由緒正しく使い古された乙女小説のテンプレのような……」


しかしながら。あくまで友達の悩みなんです。そこ前提だから間違えないようにしていただきたい。


しかし実妹と目を合わせられない時点で何というかもう色々と詰んでいる……。


シルヴィアちゃんは膝の上で握り締めたままガチガチに固まってしまった私の手に手をそっと重ねた。緊張をほぐすように。


「ブラコンというのは、言うなれば『兄妹愛』なのでしょう?おねえさま」


「うん?……そうだね。そうだと思うけど」


「もしその男性に好きな女性が出来たとしたらどうでしょう?その男性は恋人に愛を囁いたりキスをしたり。もしくはそれ以上のことも……祝福出来ますか?」


「それ……は……」


シルヴィアちゃんはふっと、笑う。


「本当に『兄のように想って』いる男性の幸せなら。その恋人の女性に嫉妬せずに2人の幸せを心の底から願えるのでは無いでしょうか」


「……」


「反対に悲しくて惨めになって。醜く嫉妬して……『どうして自分が選ばれないのだ』という気持ちが少しでもあるのなら。それは……それが『恋』なのでは?2人が例え血の繋がりがあろうと無かろうと関係ありません」


「それが、恋……」


ーー悲しくて惨めになって?


私がディアッカさんに対してそんな気持ちを抱くのは、単純にコンプレックスを刺激されるからじゃないのだろうか。


「大体が、ですわ。『お兄さんに恋をしているのでは?』と他人から指摘されて咄嗟に否定出来なかったのでしょう?何とも思っていないのなら笑い飛ばせてしまえるのでは?」


「う。そうだね、そうみたいだね!その友達は、ね……!ちょっと否定できなかったみたいだね!」


「ええ。そのお友達は、ですわ」


シルヴィアちゃんは苦笑しているようだ。

頬に手を当てて溜息を漏らす。


「自覚のあるおにいさまをつつくより、無自覚のおねえさまに気づいてもらう方が早かったんですわね……」などとしみじみしていらっしゃる。


「なんのこと?」


『自覚のあるおにいさま』とは?


しかし私の疑問を無視しシルヴィアちゃんは唐突に話題を変えてしまう。


「いいえ、こちらの話ですわ。おねえさま、そういえばもう少しで御前試合がありますわね?」


「御前試合かー、そういえば来月だっけ」


「ええ。きっとおにいさまが優勝しますわ。楽しみですね。おねえさま、おにいさまが勝ったら何を差し上げましょうか?」


シルヴィアちゃんは無邪気にはしゃぐ。


兄貴が勝ったら……?

そうだ、彼が優勝したら(兄貴指定の)プレゼントをあげる約束だったんだ。


でも。もうそんな約束ーー


「もう私から何かあげなくても良いんじゃないかな……」


「おねえさま?」


シルヴィアちゃんは困惑しているようだ。


「どうしましたの、おにいさまとケンカでもしたんですの?」


「違うよ。でも、だって……婚約者の女性がもういるんだし。その人から貰えれば十分じゃないかな……」


ディアッカさんもそりゃもちろん兄貴に何か贈るに決まってる。

愛しい彼女から貰えれば、義理の妹からのプレゼントなんて霞んでしまうだろう。


それなら何もあげない方が良い気がしてきた。


「婚約者?おねえさま、何を言って……」


シルヴィアちゃんが何かを言いかけたその時だった。


「シオン様!あああお会いしたかったですわぁ!!」


ーーという甲高い女性の声がビリビリと響き渡ったのは。



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