~【閑話】とある先人達の談話~
中の人の対話です。
*****
「オリヴィアはホントアホだよなぁ~」
クイーンの駒を弄びながらつい笑いが込み上げてくる。
「どうしてあんなに鈍いかねぇーえ?なぁあんたどう思う?」
ふと視線の先には見慣れた『彼』の姿。
自分よりひとつ前にこの魂を使って生きた、『彼』だ。
緩いウェーブのかかった金髪に金緑の瞳。
暖炉の火にあたりオレンジがかる白い頬。美形である。ナイスミドルだ。
そんな美中年野郎は「さあな」と持っていたワイングラスの中の赤い液体を揺らす。
「あの娘は自分に自信がないのだろう?……ならば仕方あるまい」
「……それだけが原因ってわけじゃないけどな」
前世を思い出した所為も多分にある。
大事な人との死別を恐れ、無意識にその機会を最小限に留めようとしていた。
「俺達がもっと清く正しく美しく生きていればなぁ。……つまりあんたと俺にも責任があるワケじゃん?これって」
「そんなことは知らん。自分の生き方の責任くらい自分で持て。選ぶのはあの娘だ」
「へーへー、ごもっともですよ」
「勇太はあの娘に肩入れしすぎだな」
「カワイイ後輩ですもの?俺はあんたみたいにすっぱりと割り切れないの」
「……あまり邪魔をしてくれるな」
「わぁーってるよ。つかこの前あいつの邪魔をしたのはあんたの方だろ」
「……」
ぴしゃりと言ってやれば、彼は声を詰まらせて黙り込んでしまった。
オリヴィアがシャダーンに留学中、彼女の意識になだれ込んでしまったことを彼なりに反省しているらしい。
彼女の身体や意識を乗っ取るつもりも、悪気も何もなかったのだろうが。
オリヴィアには怖い思いをさせてしまった。
だからこそ、本当に渋々と。
罪滅ぼし兼ねて、『ちょっとしたアドバイス』を授けたりもしてくれた。自分経由で。
「あんたの言いたいこと、俺だって良く分かっているつもりだ。あいつの人生だから、余計な口出しをするなってことだろ?」
「そうだ。自分で選択したからこそ、自分の人生といえよう」
特段、彼がオリヴィアに対し冷たいわけではない。
彼女の信じた道を見守る――その姿勢を貫いているだけだ。
自分とは彼女に対するスタンスが違う。つまりそういうことだ。
「あーでもさ。見ていてまどろっこしいよな。俺としてはさ、せっかく前世を思い出したわけなんだし。歴史から学ぶっつーの?もっと俺達の失敗を生かして賢く前向きに生きて欲しいって思っちゃうんだよね」
人との別れを怖れて避けてしまうのもある意味、理に適った行動だ。前世から学び賢く生きてるって言えば、そうとも言えるんだろうけど。
でもそうじゃなくて。
愛ある生を。それに満たされた優しい毎日を送って欲しいと願ってしまう。そう先人達の知恵はあくまで前向きにご使用いただきたい。でないとこちらも変に罪悪感が残ってしまうじゃないか。
自己満と言えばそれまで。だがこれもある意味、親心ってやつだ。
その為に彼女に対してお節介を焼いてしまいたくなる。
勿論、オリヴィアが求めてきた時だけ――そう決めていた。
「……勇太の思うところもわからんでもないがな」
「そう、俺とあんたは結局考え方が合わない。それだけだ」
同じ魂なのに。
人格が違えば、価値観も考え方も異なる。当たり前だけど。
「でも俺のすること、基本否定はしないよな。必要最低限の苦言は呈するけど」
「それは勇太もだ」
勿論似ているところも多い。同じ魂だから。
価値観の押し付け合いは不毛だ。
自分と彼は違う。それはここに来て、話をするようになってよくよく理解したことだ。
押し付け合いどころか――
「あんたの心配しているようなこと、俺はしないよ。ちゃんとあいつに選ばせるようにはする」
「……別に心配まではしていない」
「あっそ。ならいいんだけど。言っておこうと思ってね、一応」
――価値観が違う者だからこそ。そこから学ぶことも多少なりあるワケで。
「死んでからも人間、成長することってあるんですネ」
「は?」
「いや何でもない」
この目の前の彼は、自分の時代――『鈴木勇太』が生きていた頃もこうやって見守っていたのだろう。
ただ見守るだけっていうのも、結構しんどくてツライものがあるってこと。
それをこちら側に立って初めて知った。
オリヴィアを見ていて実感する。思わず『そっちじゃねえよ、バカ!』と口出ししたくなるのだ。
「あんたもさ、俺のこと『こいつバカだなぁ~』とか思って見ていたんだろ?」
「……そうだな」
「そのことをさ、俺は感謝もしている。けれど……」
苦い思いが込み上げてくる。
――叶うことならこの恨みに曇った目を、覚ましてもらいたかった。
可能か不可能は別として。
そんなことができたなら……いや、しようとしてくれたならば、と時々……、ほんとに時々思うこともある。
(自分の人生はちょっとは違ったものになったんじゃないかな、なんてね)
少しだけそう思ってしまう恨みがましい自分がいるからこそ。
オリヴィアに求められたら、可能な限り力になってやりたいと思うのだ。
オリヴィアをここに導いた『あの人』も。
少なからずそう思ったからこそ自分と彼に引き会わせようとしたのだろう。
(俺達が変に誤解されたままなのがイヤだっつーのもあるんだろうけど)
ワガママな死霊だ。
生きている時も大概、ワガママ自己チューな人だったけど。
死んでも治らないどころか。もっとこじらせてしまったらしい。
天井をぼんやりと見つめながら、いけない、物思いに耽ってしまっていた。
気を取り直すようにぐぐーっと背伸びをしつつ、ドカッとソファに身を預ける。
「でもまっ、俺が何か言わなくてもさ。ドラゴンの息子を懐に入れたのは大きいよな。きっとあいつに良い変化をもたらしてくれる」
順序が逆なのかもしれない。あの少年(少年と言っていいのかは不明)がオリヴィアに与えた心境の変化こそが、彼女を決断させたのだ――『大事な者』を増やす決断を。
これには目の前の彼は渋い顔をした。
「竜を息子に迎えるなど……」
「竜を嫁にしたあんたにだけには言われたかないね」
彼は「うっ……」と呻きまた黙る。気まずそうに視線を泳がせた。
しどろもどろな彼に思わず苦笑をしてしまう。
こいつは嫁ネタに弱い。
「その息子のお陰でさ、恋愛や結婚に前向きになったんだから。まぁ婚活なんてする前に周りのイケメンよく見ろって話なんだけど」
「……そうだな。余……わたしの子孫は我ながら……」
「我ながら?」
「美形だな」
「ああそう……」
事実である。まごうことなき事実である。
自慢話にも聞こえないし。彼自身自慢しているつもりではないのだろう。
ただ事実を淡々と述べているのみの口調だ。
だが真剣に聞き返した自分がアホみたいだ。
(……何で俺以外のこの魂の使用者は全員美男美女なんですかネ)
理不尽である。
そういえば前に一度、『オリヴィアって美人だよなぁ』と呟いたところ、『え……?普通じゃないか??』みたいな返事が彼から返って来たことは、あった。
オリヴィアは身内(?)の欲目を抜きにしても美人だと思う。そりゃ、絶世の美女とまでは言わないが。
このオッサンは生きている頃の自分の姿や嫁達を基準に考えている節があるのだ。
『あー、勇太はそのなぁ?……顔じゃないと思うぞ。男は生き様で語るものだしな』
と、その後に変な慰めを入れられたりもしたし。まことに失礼で空気が読めないオッサンだ。
(『そのなぁ』の『その』って。……何だっていうんだ。何が言いたい)
正直言ってあんたと同じ次元で語られても困る。容姿も生き様もだ。
自分は至って平凡なモンゴロイド~な顔立ちである。そんでもって生理的に受け付けないレベルの醜男でもないとは思う。
年頃のオリヴィアと違い、容姿にコンプレックスは別にない。ていうかそもそももう死んでるし。顔どころか肉体もうないし。
――生き様にしても、だ。
歴史に名前を刻みまくりなこいつにはどうあってもかないっこないし。張り合うつもりも毛頭ない。
多少の後悔はありつつも自分の人生に概ね満足している。
(初代国王サマねぇ……)
パチンと暖炉の薪が爆ぜる。
炎に揺らめく金の髪をぼんやり見ていれば。その柔らかな金はオリヴィアを通して見た『彼』を思い出させた。
「……あんたご自慢の美形子孫サマはどう出るかねぇ?」
「さてな。どう出ようとも、あの娘が選ぶだけのことだ」
掌に弄んでいたクイーンの駒をぎゅっと握り締める。
「そもそも選ばせようとしてくれるわけ」
この言葉に彼はふと笑う。金緑の瞳を細めながら。不敵な笑みだ。
「わたしの血を継いでいるのならば……」
「ならば?」
「いや、わたしは好いた女には優しいぞ。あくまでわたしの話だが」
「ソウデスネ。優しいっつーよりは優柔不断っていうの?あんたみたいなのは」
人のコトは言えないが。
彼はこの言葉にも笑った。
しかし先ほどの不敵な笑みとは違い困った笑顔だ。本当に嫁ネタに弱い。
「そう。だから言っただろう?あくまでわたしの話だと。このわたしはとてつもなく優柔不断な男だが。アレは少し見込みがありそうだな。それくらいには一途だ」
「ふーん」
結局答えになっていないんだけど。
あんたが優柔不断なくらい優しいんだったら、あの王子サマは違うってか?だとしたらどう違うんだ?
そう思ったけど。でももう重ねて何かを聞こうとは思わなかった。
どうせこの食えないオッサンは自分にこれ以上何かを言うつもりはないんだろう。こういう勿体ぶった言い方をする時は特に。
オリヴィアに授けた助言の意味も自分は聞いていないのだ。
きっと言ってしまえば自分から彼女に伝えてしまうと危惧したのかもしれない。
自分同様脳みそ筋肉で出来ている癖に。アホなくせに。
結構秘密主義なところがあったりするのだ。
それならばそれで仕方がない。
どのみち自分は自分のやり方で彼女を支えてやるしかないのだろう。
彼女に言った言葉を思い出す。
――前世を思い出した『意味』を考えろ、と。
それは自分への宿題でもあった。
肉体を失ったら最後、『鈴木勇太』なんてものはどこかに霧散して消えてしまうもの――生きていた頃はそう思っていたのに違った。
何故か今ここに『自分』が存在する。彼女の深淵に。
この在り方が正しいのか正しくないのか。そんなことはわからない。
意識だけで存在し続ける自分と彼の『意味』。
見出したいと思う。証明したいとも。
「この箱をあいつがノックする時が来るのなら……」
……その時こそ彼女に語ったことを、きっと真実に出来るはずだから。
更新遅くなり本当に申し訳ありません…。
これからも合間を見て書いていきます。




