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令嬢は生きるのがツライ  作者: 今谷香菜
~恋活、はじめます!~

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~なりふり構えずツライ~

長らくお待たせしてしまい申し訳ありません…



シルヴィアは姉の部屋の扉を後ろ手で静かに閉める。

部屋を退出する際は「おやすみなさい、おねえさま?良い夢を」などとおっとりと優雅に挨拶を交わしたものだが、内心は気持ちが急いて急いて仕方がなかった。


ぱたん…と扉が完全に閉められるや否や。

こうしてはいられないと、スカートをたくし上げ小走りでほの暗い回廊を駆けていった。


*****


目的の部屋の前に到着した。

コンコンとノックをする……がそれに対する応答はない。


普通ならばここで一旦出直すのだろうが……、そのまま扉を勢い良く開ける。

何となく部屋の主の様子というか状態に察しがついたのだ。


「おにいさま!!」


部屋の主人は文机に突っ伏している状態であった。返事がないわけだ。というか予想した通りの状況である。

開いた本の上で青い顔をしている彼。見覚えのあるその本はシルヴィが見繕った『教材』だ。


傍らには同じように貸し出している『教材』が積み重なっていた。


「おにいさま、起きて下さいませ!」


反応はない。うんうん唸っている。悪夢でも見ているのだろうか。


魂が抜けかけている義兄の傍ら、どくされていた本の一冊を手に取る。


――『伯爵様とわたしの恋の授業レッスン』。

身分の低い主人公が様々な障害を乗り越えてヒーローと結ばれるシンデレラストーリーだ。

その切ないながらもロマンティックなストーリーもさることながら、ヒーローである美形伯爵の甘い囁きがティーンのハートをがっちり鷲掴む、今話題の少女小説だ。シルヴィアは勿論、姉であるオリヴィアも一緒に読んでいる。


シルヴィアはその一冊をくるくると丸め、片手でパンパンと音を鳴らしながら固さを確認し……、


「御免あそばせっ!」


一発入魂とばかりそいつを振り降ろす。

スパーンという小気味の良い音が部屋に響く。


「う……シルヴィア……?」


義兄は頭を擦りながら目を覚ました。

この一発で彼が目を覚ますなんて。奇跡に近い。


「おはようございます、おにいさま」


「もう朝、か?」


瞼をこすりながら「うう……」と彼は呻く。どうやら寝惚けているらしい。


「いいえ」


義妹の短い否定に首を傾げながら掛時計を確認する。夕食を終えて数時間しか経っていない。


「ノックはしましたわ」


訝し気にシルヴィアを見上げる義兄に、問われる前に一応の前置きをしておく。


「返事がありませんでしたので、勝手に入らせてもらいましたの」


「ああそう…」とダルそうに肩を鳴らし「で?」と。続きを促さられる。


「何の用だ?」


「緊急事態ですわ、おにいさま。もうなりふり構っていられません!」


「何のことだ……?」


「あの王子に負けてられませんわ!」と彼女は身を乗り出して訴えた。


「おにいさまも今すぐおねえさまに、ちっぱいの魅力について存分に語り尽して下さいませ。あの王子以上に自分の方がちっぱい大好きなんだ!と、おねえさまに猛アピールを……!あぁもう、やっぱりちょっと私、おねえさまを呼んできますわ!」


「……ちょっと待て!マジで何のことだ!?」


シオンは今にもダッシュでオリヴィアを呼んできそうな、バイタリティー溢れる義妹の肩を慌てて掴んで引き留めた。


――良く分からないが、許されるならもう少しなりふり構いたい。



****************



「リヴィが落ち込んでいる?」


シルヴィアは若干気まずい様子で「ええ」と肯定する。

事の顛末を話し終えたところで幾分か落ち着きを取り戻した様子だ。どうやら色々と先走ってしまったことを反省しているらしい。


少し申し訳なさそうにしながら、


「ですからおにいさまからも!小さなお胸の市民権について、おねえさまによく言ってお聞かせ下さいませ」


「……待て。振り出しに戻ってるぞ」


「ですが、おにいさま……」


「シルヴィー、おまえ冷静になったように見えて、まだ大分混乱しているだろう」


姉の口から「隣国の勇者に会いたい」などというセリフが出た事に強い衝撃を受けたのだろう。まだ末妹は戸惑っているようだった。


しかしそれはシオンも一緒だ。

色々と衝撃である。


「あの王子がなぁ……面と向かってリヴィにそんなこと言うかぁ?」


小さい胸の女が好みなんだと。

あのキラキラな王子の口からそんな言葉が出るなんて。ちょっと…いや大分想像出来ない。


「そんなセクハラ発言、普通の女ならドン引きだろ……」


だが一方。シオンは以前かの国に訪問した時の様子を思い出していた。

背筋も凍るようなオリヴィアの鈍感っぷりと、進展どころか軽く後退気味な2人の関係に自分は安堵を覚え、ひとり自国に帰ることができたのだった。


……あの王子もなりふり構えず、何か切羽詰まった状況下で咄嗟に出てしまった発言だったのかもしれない。哀れだ。


シルヴィアは頬に手を当てながら、ふう…とため息を漏らす。


「……ところでおにいさま。ちょっと疑問に思いましたのでお聞きしたいのですが」


「……なんだ」


この話の流れで湧く疑問なんてどうせロクなもんじゃないだろうと予感しつつ、シオンはシルヴィアに向き合う。


「おにいさまは女性の……豊かなお胸と慎ましいお胸でしたらどちらがお好きですか?」


「……」


ほらな、と思わず半眼になる。ロクなもんじゃない。


そう思いながらも、


「あー、そういうのは大きさじゃないと思う

ぞ。別に胸でそいつを好きになるわけじゃないしな」


としれっと答えてみせる。我ながら及第点の答えであろう。こういうのはいかに平静を装い答えるかが大事だ。


しかし。上手く答えれたと思ったのに、じろじろと末妹に値踏みされるように見つめられている。何だか居心地が悪い。


やがて、「そうなんですの?」と。

ぱっと扇を開き口元を覆いながら、彼女はふんと鼻を鳴らす。


「随分と見惚れてらしたようですし?てっっきり!おにいさまは大きなお胸の女性がお好きなのかと思いましたわ」


「ぐぅ……」


「大きなお胸の女性」にとあるひとりの女性が浮かんだ。その見事なふたつの果実につい見惚れた……覚えがあるシオンはぐぅの音しか出せず頭を抱えた。


(チラ見のつもりだったのだが……)


「言っておきますけど。男性のそういった視線は女性にバレてますわよ。おにいさま」


「……以後気を付けます」


義妹の、心の声に対してツッコミを返す能力は義理母から受け継がれしモノなのか。

ますます返す言葉も無い。


「あと一応お聞きしますけど。彼女とお付き合いはされてませんよね?」


「……するわけないだろう」


「そうですわよねぇ?おにいさまはお付き合いされる女性はよくよく吟味されますものね。後腐れのない方とか。あちらも遊び目的の方とか?まかり間違っても未婚で年頃の。それも貴族のご令嬢を引っかけたりしませんものね?」


「何が言いたい?」


「あの方のご訪問回数、多少減りましたけれども。応対しているマーサやメイドに、『自分はシオン様の恋人だ、婚約者だ』とおっしゃっているそうですわよ?」


「結構しっかりと断っているつもりなんだが……」


シオンは頭を抱えたまま唸る。

オリヴィアがシャダーンから帰国する前に片付けておきたい案件であったが、なかなかどうして。上手くことが運べなかった。


「早々に心して、きっっぱりとお振りになって下さいませ。家を通じて正式にお断りするのも色々と面倒ですし。まして社交界で噂にでもなったらコトですわよ」


「あ、ああ……」


個人間のやり取りで済んでいるうちに終わらせろと彼女は訴える。

しかしそれはシオンも重々承知の上で実行に移しているつもりだった。


「大体、お付き合いもされていない方とどうしたら恋愛結婚が出来ますの?おにいさま」


「こっちが聞きたい……」


手に持っている扇をくるくる弄びながらシルヴィアは呆れ顔だ。


「リヴィには知られていないだろうな?」


「先ほど言いました通り、訪問時の応対はマーサやメイドがしていますわ。それに何かの弾みでおねえさまが知ったとしても、流石に黙っておりませんでしょう。こちらにお聞きになると思いますけど」


それもそうだな、とシオンは息をつく。

ちらりと机の隅に積み上げられている教材……これら本の間にはかの令嬢からの手紙が挟んであった。ここ何日分の……。


「なぁ、『今後貴女とお会いする事が出来ない』って言ったら手紙が増えたんだが……どうしてだと思う?」


「そんなこと分かるはずありませんわ。手紙を確認してみたら宜しいのでは?」


「それは、そうなんだが……」


何だか手紙の内容を確認するのが怖い気がする。だから聞いているのだが。


封がしっかりとされているそれらの束に、シオンはそっとため息をついた。


ーー色々と難儀である。

しばらく携帯から編集、投稿になりますので見難い部分、誤字ございましたら申し訳ありません。(PC買ったら直します)


ちょこちょこと更新していきます。


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